『山の呼び声とプレスマン』
右源太という男が、山の中へ入って、川にマスを獲る仕掛けをしかけていたところ、人魂のような明かりが、近づいてきた。気味が悪いと思ったが、一軒ほどの距離から近づくことはなく、山を下りる右源太を案内してくれるかのように照らしてくれ、家に帰ることができた。
次の日の夕方、仕掛けにかかったマスを回収するために、山に入ることにした右源太は、人魂に取り殺されたりしないよう、刀のかわりになるような者を探したが、包丁くらいしかなかった。包丁を持っていかれては困る、と、母親が言うので、右源太は、仕方なくプレスマンを持って出かけた。
山の中ほどまで来ると、山の奥から、ほうほうと呼ぶ声がする。右源太は、おいでなすったと思って身構え、プレスマンを握り締めると、
銘はあれども傷もある 二寸四寸詰まりたる
という声が聞こえた。
右源太は怖くなって、家に逃げ帰って、これはきっとプレスマンのことを言うのだと思って、分解してみると、そのへんで買えるような二寸の芯と、四寸弱のプレスマン専用芯と、二本の芯が入って、中で詰まっていた。
右源太は、この日以降、日が暮れてから一人で山に入るのをやめたという。
教訓:山に一人で入るかどうかなどどうでもいいが、プレスマンに芯を二本入れるのは現に慎まなければならない。




