六甲山創作怪談 「メリーさんの館と仁川ピクニックセンターの闇」
なし
それは、友人たちと六甲山を夜中にドライブしていた時の出来事だった。仁川から有馬街道へ抜ける道は、街の喧騒から離れ、漆黒の闇に包まれていた。目的地は、都市伝説で有名な心霊スポット巡り。ナビに頼りながら山道を登り続けるうち、やけに大きな建物が見えてきた。
「あれ、摩耶観光ホテルじゃね?こんな山奥にあるって聞いてたけど」
一人が興奮した声で言った。摩耶観光ホテルは廃墟マニアの間で有名な場所だ。しかし、僕たちが目指していたのはそこじゃない。僕たちの本当の目的地は、さらに奥深く、この世のものとは思えない奇妙な噂が絶えない場所だった。
その場所の名は、「メリーさんの館」。
ナビが示す場所に着くと、そこには蔦が絡まり、窓が全て割れた洋館が建っていた。月明かりに照らされたその姿は、まるで怪物のようだった。車を降りると、ひんやりとした空気が肌を刺す。どこからか、女のすすり泣くような声が聞こえた気がした。
「おい、冗談だろ…まさか本当にいるのかよ」
一人が顔を青ざめさせた。その時、スマートフォンの通知音が鳴り響いた。着信履歴には「メリーさん」と表示されている。誰かがふざけて登録したのだろうが、この状況では笑えない。電話に出ると、受話器の向こうから、少女の声が聞こえてきた。
「メリーさんだよ。今、あなたの家の前にいるの」
僕は慌てて電話を切った。すると、友人たちも同じ電話を受け取っていたらしい。全員が顔を見合わせ、震え上がった。その時、館の2階の窓から、白いドレスを着た少女が僕たちを見下ろしていた。そして、ゆっくりとこちらに手を振った。
「やばい、逃げよう!」
誰かが叫び、僕たちは車に飛び乗った。一目散に山を下りる。しかし、道はどんどん暗くなり、見覚えのない場所へ迷い込んでしまった。カーナビは圏外になり、頼れるものは何もない。焦り始めたその時、前方に奇妙な岩の塊が見えた。
「あれ、もしかして西宮市の祟の岩じゃないか?」
そう言った友人の顔が、恐怖に引きつっていた。祟の岩は、古くからこの地に伝わる呪われた岩だ。この岩に触れた者は、不幸な死を迎えるという。岩の周りには、いくつもの小さな石が積み上げられていた。誰かが呪いを解くために積んだのだろうか。
僕たちはその岩を避けるようにして車を走らせた。すると、今度は目の前に古いホテルが現れた。看板には「ホテルFairly」と書かれている。ホラー映画に出てくるような、不気味な外観だった。その隣には「ホテル5thアベニュー」という看板を掲げた別のホテルも見える。どちらも廃墟のようだったが、なぜか明かりが灯っていた。
「もしかして、あの館に閉じ込められたのか…?」
そう思った時、後部座席に座っていた友人が、突然「メリーさん」と呟いた。振り返ると、そこには誰もいなかった。しかし、明らかに後部座席の空気が冷たくなっている。まるで誰かがそこにいるかのように。
「なあ、さっきからおかしいよ。僕たち、本当にここから出られるのか?」
運転していた友人の手が震えていた。有馬街道を走り抜けたはずなのに、なぜかまた仁川ピクニックセンターの近くに戻ってきてしまう。まるで同じ場所を無限にループしているようだった。
そして、再びメリーさんの館の前に戻ってきてしまった。さっきよりも、館の窓がさらに増えているような気がした。窓の奥には、白いドレスの少女が僕たちをじっと見つめている。その目は、憎しみと悲しみに満ちていた。
「メリーさんだよ。今、あなたの真後ろにいるの」
今度は、電話ではなく、車のスピーカーからその声が聞こえてきた。そして、後部座席の窓がゆっくりと開いていく。振り返る勇気はなかった。ただ、ルームミラーに映る自分の顔が、恐怖に歪んでいるのが見えた。
次の瞬間、後部座席に座っていた友人が、苦しそうにうめき声をあげた。僕たちが後ろを向くと、友人の首には、誰かの細い腕が絡みついていた。その腕は、まるでマネキンのように白く、冷たそうだった。
僕たちは悲鳴をあげ、車を飛び出した。闇の中、必死に走り続ける。どこへ向かえばいいのかも分からなかった。ただ、一刻も早くこの場所から逃げ出したかった。
振り返ると、メリーさんの館の前に立つ、白いドレスの少女が見えた。彼女は、僕たちに向かってゆっくりと手を振っていた。そして、その表情は、不気味なほど楽しそうだった。
六甲山創作怪談「メリーさんの館と仁川ピクニックセンターの闇」は、この恐ろしい夜の出来事を基に創作された物語である。この物語に登場する場所は、全て六甲山に実在する場所だが、物語は全てフィクションである。
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