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第六章 女性たちの連鎖

 プロッターのペンが止まった。最後の一枚が完成した。


 そこには、この円形の広間と、その中央で立ち尽くす一人の女性の姿が描かれていた。吟子だ。彼女もまた、この本の最後の挿絵として、永遠に記録されてしまったのだ。


 しかし、その挿絵をよく見ると、吟子だけではなかった。背後には無数の女性たちの影が描かれている。田中孝子、そしてその前の世代の女性研究者たち。皇帝の愛妾エリザベート、修道院の学者、そして現代の言語学者である吟子。すべての女性が、この手稿の一部として取り込まれていた。


 広間に響く機械音の中で、吟子は静かに笑った。それは狂気の笑いではなく、すべてを理解した者の、諦めにも似た笑いだった。


 ヴォイニッチ手稿は完成した。そして、その作者は再び、歴史の闇へと葬られた。誰にも知られず。誰にも解かれず。


 ただ、その向こう側で、永遠に嗤いながら。


 しかし、物語はここで終わらない。


 吟子が去った後、この地下の広間には新たな来訪者が現れるだろう。言語学者、歴史学者、暗号解読者、陰謀論者。特に、女性研究者たち。彼女たちもまた、ヴォイニッチ手稿の謎に魅せられ、同じ道を辿るのだ。


 なぜなら、人間である限り、我々は意味を求めずにはいられないから。混沌の中にパターンを見つけずにはいられないから。そして、自分自身の心の鏡として、この永遠の謎に向き合い続けるから。


 特に女性は、その直感的で包括的な認知スタイルゆえに、この手稿の罠にかかりやすい。論理よりも感情、分析よりも統合を重視する女性的な思考パターンが、カオス・ジェネレーターの格好の餌食となってしまうのだ。


 ヴォイニッチ手稿は、人間の認知と言語の本質について、最も深遠な問いを投げかけている。意味とは何か。理解とは何か。そして、我々が「現実」と呼んでいるものは、果たして本当に存在するのか。


 地下85メートルの深度で、機械は今日も新しいページを生み出し続けている。そして、どこかで新しい女性研究者が、この謎めいた手稿に最初の興味を抱いているかもしれない。


 永遠に続く、鏡の連鎖の中で。



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