第五話
「欲しいですか?」
「えぇ。欲しいと思う事自体は悪じゃないと私は思う。正義か悪かを決めるのは、あくまでも手段。」
「はぁ」
「全く気の抜けた返事だこと。」
ムスっとしているセアを横目に、アンジュは紅茶に口をつけた。アンジュから言わせてみれば、セアは真面目過ぎるのだ。まぁ、怠け者よりかは良いとは思うが。
「…人間を殺したいという欲はどうなるの?」
「あら、ルーチェには珍しく愚問じゃない?」
アンジュは聖女らしからぬニヤリ顔を見せた。
「言ったでしょ、手段だって。」
「手段?」
「人を殺したいと思ったとする。私は人を殺すなんてめんど…考えた事はないけど。でも、人を殺すこと自体が欲じゃない可能性があるのよ。」
「どういうことだ?」
「人を殺したいというのは手段の可能性が高いっていう話よ。本人でさえ、人を殺すことが願望だって思い込んでいる可能性が非常に高いってことよ。例えば、「この世界が憎いから人を殺したい」や「人の身体や生体系に興味があるから人を殺したい」とかね。」
サラッと恐ろしいことを言い放つアンジュにルーチェは心の中で驚く。気心が知れている数少ない友人ではあるが、偶に酷く達観したような事を言う。今のように。彼女のこのような姿を見る度、自分はまだまだ甘い所があるなと思う。彼女から言わせてみれば、その甘さや優しさが人間くさいのだから良いらしいが。
「ルーチェ、また要らぬ反省してたでしょ?」
「次期国王…人間としての器の小ささを感じてた。」
「何を言ってるの。」
「そうですよ、ルー。アンなんて、今人殺しを面倒くさいって一蹴しようとしてましたよ。」
な、と言葉を詰まるアンジュの横にセアはフンと軽く鼻息を荒くした。セアの言う通り…人殺しなんて面倒くさいと言おうとしたのは認めるものの、ちゃんと言い換えたのだし、見逃してくれとも良いのではないか。
「実際、人殺しにいい事なんて一つもないのよ。それより、周りの人達をどう自分の利になるように動かすのかを考える方が、よっぽど楽よ。」
「本当聖女らしかぬ言葉ですよね。」
「うるさい、セア。」
ケーキ没収するわよ、と食べているケーキをこっちに側に引こうとしたら凄い力で止められた。全く…動かない。アンジュは今両手で引こうとしたが、セアはそれを人差し指一本で阻止している。
え?本当に?どんだけ、取られなくないのよ。
そっちがその気なら、ともう少し力を入れるが全く動か無い。何よ、その馬鹿力。うーん。
アンジュがセアとのくだらない攻防を考え込んでいる手前にルーチェはクスリと微笑む。
「自分の利か」
「ええ、私自身の幸せじゃないと意味がないもの。でもね、私は欲張りだから___」
私の周りも幸せじゃないと満足できないの。
と、にっこり笑って言うアンジュの顔は正しく聖女の崇高なる微笑みに見えた。
「流石、歴代最強聖女様だね。」
「うふふ、そうでしょ!」
甘やかさ無いで下さい!、というセアの怒号を聞き流しがらルーチェは盛大に笑い声を上げた。
「で、アンジュ。物は相談…お願いかな。」
「ん?何?」
「今度この国で建国祭を行うのは知ってるだろ?」
「えぇ」
毎年年を越す前後で行われるこの祭はこの国の人々の楽しみの一つである。毎年、屋台も沢山出たりしておりアンにとっても毎年指折りする程楽しみにしている物だ。
「今回はこの祭が始まって100回記念だ。」
「あら、そうなの。」
「それで、国から他国の賓客を招いて宴をすることにしたんだ。頼みというのは、アンジュ、君にもそこにこの国の聖女として参加して欲しいんだ。」
「なるほど〜」
「美味しいものも沢山出るし、あとは…そう!宴に合わせて色々と催し物も考えられてて、きっと!」
「大国アーレの王子様がどこかの商人みたいなことを言い出してる」と呆れながらにセアは呟いた。まぁ、こうなるのもわからない訳ではない。100回というただ区切りがいいという訳だけではない。これからもこの国は繁栄していくだと国内外に知らせていなかければならないのだ。その為には、アンジュという存在は大きい。




