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第四話


「治療院が出来たお陰で、疫病が爆発的に下がってる。それに伴った貧民の死傷率も下がってる。」


ありがとう、とルーチェが嬉しそうに言う。その顔は国民の安寧を心から願う次期賢王としての顔だった。


ルーチェはケーキを食べ終え、満足気にふぅと吐くとセアを見ながら、口を開く。


「アンジュは治療院の存在を自分の立場を脅かす存在とか、鬱陶しくは思わないのか?」


アンジュが治癒院をやりたいと言い始めた頃から、ふと疑問に思ったことを呟いてみる。


「何で?」

「他の聖女たちは兎も角、アンは治癒に特化した聖女だろう。誰も見知らぬ土地で、しかも自分の得意文野の所。少しでも躊躇しなかったのか、かなと。」


勿論、治療院が俺たちにとってありがたいことは変わらないし、アンジュにも凄く感謝してると、ルーシェは付け加えた。アンジュは一理あるわね、と呟きながら天井を仰いだ。これは彼女が物事を考えるときの癖である。

治癒を使うとき、聖書を使う。

聖書とは神聖国家シュテルネンリヒトが信仰する女神アルナが創造した書と言われる。シュテルでは、5歳になると皆洗礼という儀式を受ける。洗礼とは国の真ん中に位置する大聖堂の女神像に祈りを捧げることである。祈りを捧げると、みんなの前に聖書が現れるのだ。今だにその原理は判明されておらず、謎も相まって神秘的な景色とさえ言われている。聖書は十人十色で、厚みや色も違う。ただ本という形状だけ統一されている。例に漏れず、アンジュも洗礼を受け今の手元にある本を受け取った。彼女が歴代最強と言われる所以もそこにある。その本は日の光を浴びているのでないかと錯覚する程に綺麗な金色で類を見ない程に分厚い本。あれは本と言っていいのかしら…と少し自分の本を思いつつ、まぁ、とにかくアンジュは治癒に特化した聖女になった。


「そうね、結論から言うと思わなかったね。」

「何でだ?」

「私が歴代最強であり、最高峰の聖女だから…って言い切りたい所だけど、それだけじゃないわね。そうね、確かに治癒院がなかった方が私の権威という面では大きかったかもしれないけど…私は一人だから。」

「一人の聖女に偏った国ほど脆い物もない」

「「え?」」


先程から2人の会話を聞きながらも静かにケーキを食べていたセアが突如口を開いた。アンジュもルーシェも突然の言葉に思わず声が漏れた。セアは2人の反応は当然と驚く様子もなく、「前に俺に向けてアンが言ってたことです。」とさらりと言い退けた。…そんな事言ったけ?

いや、言ったわ。ちょっと前に。「何故そこまで治療院にこだわるのか」とセアに言われたときに言ったわ。


「食べ物が大好き、喜怒哀楽が激しい聖女らしかぬ聖女様ですけど…自分ではなく俺たち国の事を考えてくれる聖女の見本ような考え方を持つ方です。」

「褒めるか貶すかどっちかにしてよ。」


照れ臭そうに呟くアンジュの様子に、ルーシェは思わず苦笑を溢した。アンジュはいつも自信満々なのに変な所で照れる所がある。…愛される所以という奴だろう。


「すまんな、愚問だった。」

「別に。この国の聖女になったんだから、この国が豊かになれば私自身も思う存分贅沢できるってもんのよ。」


贅沢ね…とルーシェは思わず心の中で呟く。アンジュの贅沢とは、自分の好きなお菓子を買ったり、おしゃれしたりなど普通の女の子が憧れるようなそんな生活の事を言っている。本人に言ったら怒られるだろうけど。


「それに治療院が出来れば私の仕事も減るし、国力は地上げされるしで、一石三鳥くらいにはなるでしょ。」

「聖女の言葉とは思えませんね。」


セアは軽く溜息を吐く。そんなセアをアンジュは軽く睨み付けた。聖女なんて便利な役職呼びとそう変わら無い。常に清廉潔白・品行方正・公明正大…そんな人間捨てたようなことできるか。まぁ、こんな事を言って許されるのはアンジュは()()()()()()だからだろう。


「セア」

「何ですか?」

「一つだけ聖女らしいこと言ってあげる。」

「何ですか、急に。」

「人間、欲を持って欲しなさい。「欲しい」は何よりも人の生きる力となり糧になるんだから。」


欲望とは嫌な面だけではないと思う。アンジュは少なからずこの短い人生の中でそう考えている。

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