第三話
馬車から降り、セアのエスコートでいつもように長い通路を歩きとある一室の前で2人とも立ち止まった。
セアが軽くノックすると、「そうぞ。入って」という聞き慣れた声がアンジュの耳にも届いた。
「ルーチェ王太子殿下、我が太陽にお会いできて光栄でござまいます。神聖国家シュテルネンリヒト…」
ドアを開けて入るなり、聖女らしくアンジュは目の前にいるルーチェに挨拶をする。
「よいよい、堅苦しいのは挨拶は結構だ。」
「…そこまで言われてしまたら、仕方ないですわね。」
下げていた頭をあげる。そんな2人の様子を呆れた目で見ていたセアリアスは思わず呟く。
「これは毎回やる必要ありますか?」
「「ある!!」」
ねー、とアンジュとルーチェは頷き合う。アンジュとルーチェは2人とも王子として聖女として疑う余地はない程の能力と素質を持った2人だが、今の挨拶ような悪ふざけみたいなことをよくやる2人なのだ。
「とにかく、アンジュ座わりなよ。今回は隣国から取り寄せたマンゴーというフルーツを使ったスイーツを料理長たちに作らせたんだ。君も気にいる筈さ。」
「何その美味しそうな響き!流石ルーチェね!」
よ!大国ソーレの次期国王!と、呼び掛けしながらアンジュはソファに座った。ルーチェも「いやぁ、歴代最強聖女に言われると照れるなぁ」と笑いながら、アンジュの向かいにあるソファに腰を置いた。そんな会話を繰り広げていると、ノック音が部屋中に響く。この部屋の主であるルーチェが「はい」と言うと、2人の侍女が入ってきた。1人の侍女は艶のある黄色のケーキをカットし、もう1人は紅茶を慣れた手つきで入れる。3人分用意すると、彼女等は「それでは」と一礼し部屋を後にした。侍女たちを見送ると、ルーチェは「さて」と声を発し、先程からルーチェとアンジュの座ったソファの真ん中あたりをずっと立っているセアに目を向けた。
「セア、君もどうだ?」
「遠慮しておく。」
「あら即答。どうしましょう、ルーチェ」
「どうしようか、アンジュ」
とにかく食べましょうか、と2人ともケーキに手を付ける。この上になかっているのがマンゴーというものらしい。一日中熱い気候でないと育たない作物で、こちらで手に入れるのは中々難しいらしい。
「んー甘いわ!おいしい!」
「うん、嫌な甘ったるい感じはないね。甘いけどさっぱりした感じだ。このムースも美味しい。」
マンゴームースケーキというらしいよ、と2人で堪能しながら会話をしていると「2人とも悪趣味過ぎる」とボソリとセアの呟きが響く。ルーチェとアンジュは顔を見合わせにっこりと微笑んだ。実はセアは大の甘党。マンゴームースケーキなど食べたいに決まってるのだ。
「セア、お前不敬罪になるぞ。」
「そうよ、この歴代最強の聖女様取っ捕まえて。」
「…すいませんでした、御二方に。」
完全無表情で謝るセアにルーチェもアンジュも大笑いする。無表情だが、声は完全に拗ねていた。ルーチェと目配せし、頷き、セアの前にケーキを差し出す。
「セア、ごめんね。ほら、食べなよ。美味しいよ。絶対に食べた方がいい。食べなきゃ後悔するわ!」
「…そこまで言うなら食べます。」
渋々という声だが、座るまで早かった。余程食べたかったらしい。ルーチェと顔を再度合わせ、お互いにウィンクしながらセアがスイーツをおいしく食べる姿を見る。
「ひと段落した所で、はい。」
ルーチェがアンジュの前に一つの封筒を差し出した。
「これは?」
「開けてみればわかるよ。」
それりゃそうだと思い、ただここで押し問答した所で時間が浪費されていくだけということもわかっているのでそのままルーチェの言うままに封筒を開ける。
封筒を開けると、その中には数枚の紙と見れない色の手紙一通入っていた。数枚の紙の方は、軽く目を通して治療院の運営が記載されていたことがわかった。
治療院とは、アンジュがこの国の聖女になったときに始めた事業である。”歴代最強”と呼び声高い聖女であるアンジュは死んでなければ治すことが出来ると自負している。ただ、アンジュの前に来る前に死んでしまった者に関しては復活させることはできない。死者を復活するのは世の理に反するからだ。いくらアンジュが治癒に特化した聖女だからと言って神ではないので、この大国ソーレを一帯に治癒を行き通らせることなんて不可能なのだ。そこで考えたのが治療院である。治療院では、主に医師資格や薬師資格を保有する者たちを駐在。設備はなるべく質を統一した。だが、彼らだって人間だし生きていく為にはお金がいる。なので、最初の2年はアンジュが動かせる資金で補填。その後は、治療院にいる薬剤師たちに美容液などを作らせ化粧業界で商売したり、医師たちを使ってマッサージ機を開発したりなどで治療院の資金を確保し、継続的な治療院維持に貢献している。
「上手く行っているみたいね。よかったわ。」
報告書を見る限り、治療院の細分化も上手く行っているようだ。この調子なら、あと5年後くらいには田舎町にも治療院一つというのも夢ではなさそうだ。




