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第9話 Aクラス


 その日の夜のことだ。

 寮の俺の部屋に客があった。


「天下のAクラス様が、このような陋屋にいかなご用でしょうかね?」

「無二の親友に会いにくるのに理由が必要なのかしら?」


 皮肉な顔で皮肉を飛ばす俺に、来訪者が苦笑を浮かべる。


 アンナマリー。

 俺の父親の上司にあたる魔法騎士の娘で、近所に住んでいたことがあるんだ。


 本当に一時的にね。

 転勤と昇進を重ねる魔法騎士だもの。田舎の小さな領地になんて一年もとどまらないよ。


 ただ、同い年だったこともあってアンナマリー……アナとはよく遊んだ。

 そして引っ越していくとき、たとえ離れていたって二人は親友だって右拳をぶつけ合った。


 もう十年も前の話だな。


「十年ぶりか。えらく疎遠な無二の親友がいたもんだぜ」

「十一年よ。頼りのひとつもよこさない無二の親友もいるからね」


 唇をゆがめたりして。


「出してたよ。でも、いつも宛所に尋ね当たりがなくて戻ってきてたんだよ」


 無情みたいにいうのはやめてくれよ。


「一年と同じところに住んでいたことがなかったから仕方ないわね」

「さすが魔法騎士様だ」


 ずいぶんと出世したんだろうな。

 うちの父親は、たぶんこのまま地方の騎士で終わるだろう。

 や、ひがむつもりはまったくないけどね。


「で、ようやく再会したかと思ったら、会いにすらこない」

「A組の教室にか? 勘弁してくれよ」


 劣等クラスの人間と取り合いだなんて知られたら、アナに迷惑がかかるじゃないか。


 出来損ないの愚連隊みたいな劣等生とつるんでるなんてことになったら評価が下がってしまうかもしれない。

 そしてアナの評価が下がるってことは、彼女の父親にも迷惑をかけてしまう。


 それは、いかに木っ端とはいえ騎士の息子として肯んじられる事態じゃないでしょ。

 アナが微笑を浮かべる。


「でもこれからは違うでしょ。やっぱりリューは傑物だった。C組に圧勝するんだから。まともに魔法も習ってないのに」

「勝つための方策を練っていたからさ。そしてC組連中はなにも準備をしていなかった。その差だよ」


 対して俺は肩をすくめてみせた。


 魔力量は圧倒的にC組の方が多い。戦い方だってちゃんと学んでいる。

 でも負けたのは、単純に俺たちを舐めていたからだ。


 ナイフ一本あれば、女子供だって屈強な男を殺すことができる。これは戦場の心得だけど、ようするに油断していたらやられちゃうよって意味。


 俺たちがちゃんと魔法を使うものと考えて、きちんと作戦を立てていたら、あんなワンサイドゲームにはならなかっただろう。


「それでも、負けていたとは思ってないでしょ」

「ああ、勝つつもりで戦っていたからな。そしてそれはもちろん、お前たちに対してもだ」


 明日の対戦相手はA組。

見学は許されないから内容まではわからないけど、圧勝だったらしい。


「良かった。一つ勝ったから満足してるかと思って発破かけにきたけど、必要なかったみたいね」

「当然。目指すのは優勝のみだ」


 ぐっと突き出した右拳。


「それは私たちも同じだよ」


 こつんとアナがぶつけ、部屋を出て行った。






 A組の編成は、アンナマリー、パーシヴァル、デイタリュース、リリークローン。

 学年主席から第四席までのトップフォーだ。


 陣形もくそもなく、それぞれが充分に距離を置いた横列展開である。

 ちょっと意味がわからない。


一対一(タイマン)よ。D組」


 やや戸惑ってる俺たちに、アナがにやりと笑ってみせた。


 一拍の空白。

 俺たちは腹を抱えて笑い出す。


 今頃、監覧している教官たちはひっくり返っているだろう。

 戦術でもなんでもない。計算もなにもない。

 まさか優等生のA組が、こんな破天荒なことを始めるなんて夢にも思わないんじゃないかな。


「いいじゃん! 乗った!」


 そして、最も積極的なメグが、ぱんと手を拍いた。


「やれやれ」

「まったく、姉御にはかなわないね」


 そういって、リンゴがパーシヴァルに、クライがデイタリュースへと向かっていく。

 当のメグはリリークローンと戦うようだ。


 て、ちょっと待てい。


 消去法で、俺の相手はアナじゃねえか。不動の学年主席と戦えってか。ふざけんなよお前ら。

 しれっと一番の強敵を押しつけやがって。


「ふふ。気を遣わせちゃったみたいね」

「押しつけられただけじゃねえか」


「昨日、リューの部屋から出てくるの、D組の子たちに見られたのよね。内緒にしてもってウインクしておいたけど」

「ちょ、おま、絶対あらぬ誤解生んだだろ! それ!」


 この女、最低である。


 夜に男の部屋から女が出てきて内緒にしてねって、中で何をしていたんだと想像するするじゃん。

 普通するじゃん。


「誤解? 何のことかわからないわね」


 艶然と笑う。

 絶対判ってやってるよね。

 賭けても良いけど、そんな賭けに勝っても仕方がない。


「子供の頃は勝負が付かなかったわね」


 アナの言葉とともに右手に光が収束していき、剣のカタチとなった。

 光魔法の具現化か。


 まじかよ。

 一年生にできるような技じゃないだろ。


「あれから私はずいぶん鍛えたわよ。リューはどうかな? 怠けてた?」

「……んなわけねえだろうが。砂の剣(サンドソード)!」


 腰の革袋に手を突っ込み、引き抜けば砂が剣となって現れる。


「おもしろい! 一手所望!!」

「すげー嫌だけど、望むところだ!」


 戦闘衝動に青い瞳をらんらんと輝かせて突っ込んでくるアナを、俺は砂の剣を構えて待ち構えた。


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