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第7話 技能試験開始


 技能試験は実戦形式でおこなわれる。


 学生に戦わせようとするとは、という意見は昔からあるのだが、王立魔法学院は学問の徒を育てるための学び舎ではない。

 現在では多くの文官を輩出するようになったが、もともとは魔法騎士(マジックナイト)を育成するための訓練機関がベースになっている。


 数百年を閲した現在でも、人類の仇敵である魔族と戦える人間を育てるという理念は変わっていないのだ。


「そしたら、チームは俺とリンゴ、メグとクライの四人で決定だな」


 教室に居並ぶ面々が、俺の言葉に頷いた。

 現時点で最強と思われるメンバーである。


「一つ勝てば最下位はないからね。放校処分は出ないって計算だよ」

「なに言ってるのよクライ。やるからには優勝をもぎ取るよ」


「や、姉御は頼もしいね」

「一つ勝てば良いなんて思ったら、一つも勝てないものよ」


 クライとメグの会話である。

 慎重で理知的なクライと、体の九割が意地と客気で作られてるようなメグ。

 なんというか、足して二で割るとちょうど良い感じだと思うな。


「リュー? なにか失礼なことを考えているわね?」

「そそそそんなことはないぞ?」


 技能試験は翌日に迫っている。





 試験会場は学院の裏にあるだだっ広い草原だ。

 東西に五町(約550メートル)、南北は四町(約440メートル)くらいのゆがんだ円形で、この全域がバトルフィールドとなる。


 多少の起伏はあるものの、遮蔽物はなにもなく、どこかに隠れたりとか、そういう戦術は取りようがない。


「魔族との戦いを想定して、ということなんだろうけどね」


 クライが肩をすくめた。

 人間の生命力や魔力を「見る」ことができる魔族には、伏兵も奇襲も通用しない。

 なので、正面から戦うしかないのである。


 無茶苦茶な話だよな。

 人間に比べたら何十倍も強い魔族を、個人的な武勇のみで倒せっていうんだから。

 まあ、そのために魔法を使った戦技が進化してきたわけだ。


「つまり俺たちは、まだ戦技が未発達だったころの人間たちみたいなもんだな」


 唇をゆがめる。

 自分たちよりずっと強い敵と身ひとつで戦わなくてはいけなかった人類だ。

 そのときの絶望とは、どれほどのものだったろう。


「けど人間は勝ったわ。魔族の侵攻を食い止めて、国を守り抜いた」


 俺のつぶやきにメグが応えた。


 厳密には勝っていない。

 いまもなお魔族どもとの小競り合いは続いている。けど、国境線の向こう側に追いやったというのは紛れもない事実だ。


「ご先祖様たちができたことよ。あたしたちにはできないなんて泣き言、いわないわよね? あんたたち!」


「「「当然!」」」


 メグの檄に、俺、リンゴ、クライが声をそろえた。 




 前列は俺とリンゴ。後列はクライとメグ。

 工夫もなにもない二段構えだけど、こればっかりは仕方がない。


 チームでの連携なんて練習してないから、それぞれが好きなように戦うしかないんだ。


 そんな俺たちの陣形を見て、対戦相手のC組があざ笑う。

 むこうはV字型。鶴翼の陣ってやつだな。


 前衛後衛に分かれるのではなく、全員が攻撃に参加できるようにしているわけか。しかも若干の距離差をつけることで波状攻撃が可能になるってことだな。

 ……たぶん。


 魔法を使った戦いなんて初めての経験だから、どういう陣形が正しいのかも俺には判らないんだよ。


「俺は右端からやっつける」

「じゃあ僕は左端からだね。撃破が少なかった方が、ランチおごりで」


「お。わりぃな、おごってもらって」

「言ってなよ」


 ぐっとリンゴが突き出した右拳に俺は左拳をぶつける。

 互いの顔すら見ずににっと笑い、同時に駆け出した。


 やや慌てたように、C組の連中が呪文詠唱を始める。あ、メグを暴行しようとしてたやつもいるじゃないか。


 あいつ、選抜メンバーになれるくらいの実力者だったのか。それとも、劣等クラスが相手だから誰でもいいって人選だったのかな。


「できそこないが! くたばれ!」


 罵声とともに飛んできたのはフレアアロー。


 なんだよ。

 初歩の魔法じゃないか。

 警戒して損した。


 俺は速度を落とすことなく、前方に飛び込むようにして一転する。

 数本の炎の矢が、さっきまで俺がいた場所を通過していった。


「な!?」


 驚きに大口を開ける暴行野郎。

 下がるか横に飛ぶとおもったんだろ? 


砂つぶて(サンドバレット)


 その瞬間、俺の魔法が完成する。


 石つぶて(ストーンバレット)ではない。俺の魔力では石を好きなようにコントロールするってのは難しいんだ。

 だから目をつけたのは、もっとずっと小さい、()

 こいつなら俺の魔力でも扱える。


「ぐへっ! げほっ! な゛ん゛!?」


 暴行野郎が目を白黒させた。

 ダメージはないだろうけどね。


 俺が使ったサンドバレットは、ほんの少しの砂を暴行野郎の口のなかに突っ込んでやっただけだ。


 ただそれだけなんだけど、口に砂が入ったときの不快感ってすごいんだよ。経験のある人なら判ってくれると思う。


「てめ……ふざけやが……」

「はい。ご苦労さん」

「ぐぇ……」


 悪態をつこうとした暴行野郎の鳩尾をしたたかに膝で蹴り上げれば、カエルが押しつぶされたような声を出して地面に倒れ込んだ。


 悪態じゃなくて、呪文詠唱だったら、まだ勝ち目は残ってたのにな。


 

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― 新着の感想 ―
詠唱が必要な魔法使いがいらん事喋ってんなよ・・ 喋る口を必要な事に使えって話ですねコレ
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