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第5話 ここから


「ボクたちが勝てば良い。それだけ」

「プロセスを無視して簡単に言いやがったな」


 クライの言葉に呆れる。


 元々の才能で劣り、たぶん勉強の進度でも大きく後れを取っているだろう。なにしろ他のクラスは授業があるけど、俺たちは自習しかしてないからね。

 入学当初からあった差が、いまはもうどのくらい開いているのか見当も付かない。


 この状況で普通クラスの連中に模擬戦で勝てとか、難題を通り越して不可能作戦だろう。


「そもそも僕たち魔法使えないじゃん。どうやって魔法戦をやるのさ」


 リンゴが両手を挙げてみせる。

 魔法学院なのに魔法を教わっていないのだ。というよりそれ以外の学科も、何一つ教わっていないけどね。

 属性魔法に関する適性すら知らない。


「簡単な話じゃないって、最初に断ったでしょ。まずは属性の審査をするんだよ。計測器を借りてね。そして合った属性を鍛え上げる。試験の日までにね」


 無茶苦茶である。

 計測器を借りるのだって、たぶん簡単ではないだろう。


「けど、やるしかないんだよな。クライ」

「ボクの頭からは、これ以上の知恵は出ないね」


 なにもしなかったら試験では何もできずに敗北し、劣等クラスから一人が退学処分となる。

 だとしたら、悪あがきでもなんでもするしかない。


「石にかじりつてでも卒業するって決めたんだからな……」


 俺はぐっと拳を握りしめた。





 魔力属性の判定と魔力量の計測について、教官のルベルグは意外なほど簡単に承諾してくれた。

 計測器の貸し出しではなく、教官が手ずから調べてくれるという。


 まあ俺たちはまだ(・・)魔法学院の生徒なんで、生徒が使用することを許されているすべての施設や機材を使うことができるんだ。

 図書館も学生食堂も学生寮も同じだね。


 測定器を貸してほしいと頼めば、学院は渋々でも貸し出さないといけない。


 で、劣等生が適当にいじって、貴重な魔導機器を壊しでもしたら大変だから、教官が自分で操作するってことなんだろう。


 その結果として、俺は土の魔法に適性があることが判った。リンゴは炎、メグは水、クライは風ね。


 見事に四属性に分かれたわけだけど、魔力量に関しては劣等クラスの十六人全員が「微少」ということで一致した。


 失笑寸前の顔で教官室へと引きあげていくルベルグを、俺たちは無表情で見送ったものだよ。


 判ってはいたことだ。

 魔力量が多いなら劣等クラスに入れられるわけがない。


 けど、こうやって現実を突きつけられると、けっこう心にくるものがあるよね。

 横をみれはリンゴは爪が刺さるほど拳を握りしめていた。


 悔しいよな。

 俺もだよ。


「あたしらが落ちこぼれだなんて最初から判ってた! こっから逆転するよ!」


 いち早くショックから立ち直ったメグが、ぱんと手を拍つ。


「うん。そうだね姉御。ボクたちは弱い。まずはそれを再認識した。ここからどう勝つかだね」


 クライがうなずいた。

 他のクラスの連中は俺たちより才能があり、勉強も進んでいる。それにどうやって魔法で勝つか、作戦が必要になるのだ。


「魔力が多い方が必ず強いというわけじゃないはずだよな」


 腕を組んだまま、俺はみんなを見渡した。


 もし魔力量だけで優劣が決まるなら、人間の何十倍何百倍って魔力を持つ魔族なんかには絶対に勝てないという話になってしまう。

 存在そのものが魔力の固まりである魔法生物なども同様だ。


 しかし人間はしばしば魔族を倒している。そもそも魔族を倒せる人材を育てるというのが、魔法学院創設の理念である。


 それなら、魔力量が少ないものが多いものに勝つための研究がなされてきたはず。

 いまは魔力量至上主義みたいになってしまったけどね。


「となると、図書館にある昔の書物なんかに答えがあるかもね」


 俺の言いたいことを察したクライが先回りして言う。

 こいつの機転って本当にすごい。


 きょとんとしちゃったメグとリンゴに、笑いながらクライが説明を始めた。


 いまは魔力量至上主義になってしまったけれど、学院設立当初はそうじゃななかった。であれは、その頃の教本などには少ない魔力で戦うための方法などが載っていたのではないか、と。


「それならあたし、すっごい古い本を見かけたことあるよ。たしか創始者が書いたやつ」

「さすが姉御。伊達に図書館に入り浸ってないね」

「遊びに行ってるわけじゃないのよリンゴ? そこんとこよろしく」


「それじゃ、その本があったあたりを重点的に探してみよう」


 漫才に突入しようとするメグとリンゴを、まあまあとまるで平和主義者みたいに止めるクライ。


 さて、創始者の書き記した本か。

 俺たちにとって希望となるか、それとも絶望を深めるだけか。


 王立魔法学院が創立されてから四百年かけて収蔵された万巻の書物。

 大陸に誇る規模をもった我が学院の図書館だ。


 生徒であれば誰でも入ることができて、ほとんどすべての本を閲覧することができる。

 正直、ここに入るためだけに入学したって良いレベルの蔵書量なのだ。


「ここか……」


 メグの案内で迷路のような書架をくぐり抜け、目的の本がある場所に辿り着く。

 とても古ぼけた本だ。

 使われている紙も、今ものよりずっと悪い。


「オリフィック・フウザー著、『魔法因子』か……」


 装丁に書かれた文字を小さく読み上げる。





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