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第3話 愚連隊


 劣等クラスへの風当たりが、ますます強くなった。

 けど、それはどうでも良い。


 C組の連中、別棟の裏にメグを連れ込んで乱暴しようとしたんだぜ。で、抵抗されたから暴力を振るったんだ。

 それを笑って見過ごしたら、俺たちはバカ以下の卑怯者だよ。


「あいつら、姉御が平民の子だから手を出してきたって部分もあるんだろうね」


 ふんすと鼻を鳴らすリンゴ。

 俺なんかは貴族階級っていっても中級騎士の出だから、感覚はかなり平民に近いけど、かなり選民意識の強い連中がいるのもたしかだ。

 平民相手だったら何してもいいって思ってるような輩ね。


「平民だって、貧民たちには何をしてもいいって思ってる人が一定数はいるからね」


 当の襲われたメグが肩をすくめてみせる。

 強い者が弱い者を叩き、弱い者はさらに弱い者を叩く。心が泥水で洗われるような関係だ。


「王立魔法学院は、身分に関係なく才能ある者たちを集めるってのが建前なんだけどな」

「そのかわり才能で格差をつけて差別してんじゃん」


 俺の言葉にリンゴが失笑する。

 身分は問わない。代わりに才能で差別するわけだ。

 ベクトルが違うだけでやってることは同じというのが笑ってしまうよな。


「平民で、しかも劣等クラスのあたしなんか、あいつらにとっては人間以下のおもちゃなんだろうね」


 自嘲というには苦すぎる表情だった。


 平民という身分から抜け出す方法は限られている。

 戦場でものすごい武勲を建てるとか、文官として出世していくとかして、騎士叙勲を受ける。

 これで貴族階級の仲間入りだ。


 まったく簡単な話じゃないけど、王立魔法学院に入学できたってことは、その(きざはし)に足をかけたってこと。

 夢の第一歩だよ。


 だけどメグはそこで壁を思い知らされてしまった。

 才能の不足は俺たちだって同じだけど、彼女の場合は身分差も高くて厚い壁になったのである。


 ふっと俺は息を吐き出す。

 慰める言葉も見つからない。俺だって下っ端ながら貴族階級だもの。


「とにかくだメグ。けっして一人で行動すんな。必ず二人、できれば三人以上で動くんだ」


 だから、口にしたのは実務的なことだ。

 孤立したやつからやられていく。これは戦でもけんかでも一緒。逆にいえば、数がいるってことだけで抑止力になるのである。


「スラムのチンピラみたいだねぇ、リュー。あんた本当に騎士家のぼんぼんなのかい?」

「騎士の剣は戦場で敵を殺すためのもの。己を高めようだの、道を極めようだの、そういう高尚な話は道場の中ですれば良いってのが家訓でね」


「ずいぶんとご立派な騎士様だこと」


 メグのあきれ顔だ。

 まあ、ひいじいさんの代までは傭兵だったらしいからな。

 武勲をたてて騎士叙勲されたクチさ。


「そんじゃ、リューかリンゴが常に張り付いてよ。腕っ節ならあんたらがツートップでしょ」

「仕方ないね。護衛として僕かリュー。あとは連絡要員として何人かってスタイルかな」


 リンゴが右手で下顎をなでる。

 こいつはこいつで、すでにフォーメーションを考えていたんだな。





 どうしてもメグが狙われやすい。

 劣等クラスの紅一点だし、美少女だし、スタイルも良いし、しかも平民だ。


 他のクラスの、さかりのついたクソ猿みたいな男どもが手を出してくる材料が揃いまくってる。


「メグが美人なせいで俺たちの苦労が増えるってもんだぜ」

「それ褒めてんの?」


 俺のぼやきに半眼を向けてくるメグ。


 図書館まで本を借りに行くのにも、学生食堂にメシを食いに行くときも、ぶっちゃけトイレの前までだって数人でつきっきりだ。

 ボディガードみたいっていうより、まんまボディガードである。


 窮屈な思いをさせてしまうけど、こればっかりは仕方がない。

 スラム街を美少女一人で歩かせられるかいって話だからね。


 こうしてぞろぞろ連れだって歩いていると、遠巻きにした生徒たちがひそひそと話している。

 ガラ悪いとか、愚連隊みたいとか。


 まあ、否定はしないよ。

 チンピラっぽく見えるように、とくに服装に気を遣ってるからね。


 劣等生の俺らが大人しく真面目そうに縮こまっていたら、そりゃあ舐められ放題だもの。

 手を出したらやばいぞって、最低限思わせないといけない。


 そんで、みんなで知恵を絞った結果、チンピラみたいな服装をしようぜってことになった。


 制服をだらしなく着崩して、よくわからないアクセサリーをじゃらじゃらつけて、これ見よがしにナイフとか腰にさげて。

 いつでもニヤニヤ笑いを浮かべ、人を見るときには、下からねめつけるように。


 みんなで練習したんだぜ。

 演劇大会の練習かよってレベルでね。いやあ笑った笑った。意識してチンピラっぽい感じにするのって、笑いをこらえるの難しいんだって。


 嘘だと思ったら、鏡の前でやってみてくれよ。

 笑っちゃうから。


 ともあれ、血のにじむような努力と練習の結果、劣等クラスの面々は、立派なチンピラさんに見えるようになった。

 さまになるまで十日近くかかったよ。


 もともと勉学で身を立てようとしてきた俺たちだからね。スラムのチンピラが板に付くガラじゃないんだ。

 周囲を威圧しないで安全に過ごせるなら、本当はそれが一番なんだけどな。



「教官室に呼ばれるなんて、何のようだろうね?」

「吉事じゃないことだけは確かだろうさ」


 メグの問いに、俺は軽く肩をすくめた。



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