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第27話 押し返せ!


 オーガーが倒されたことで、魔軍前衛に動揺が広がっていく。


 そしてそれは、街門を守っていた部隊にとっては絶好の好期だ。

 街壁の上から、待ってましたとばかりに魔法が降り注ぐ。


 ミケイル隊以外の七小隊がセムリナの街に入ったのである。そして攻撃の機会を待っていた。

 本当に、雨あられと。


『魔法因子』の解析によって開発された新しい魔法は、基本というか基礎からちゃんと(・・・・)作られたものなので、とにかく詠唱時間が短く、速射ができて、そしてなにより魔力消費が少ない。


 その分威力はそんなにないのだ。

 数ヶ月前まで主流だった攻撃魔法とはまったく異なる。

 正反対といって良いくらいに。


 今までは、すごい威力だけど詠唱が長くて、兵士たちが頑張ってその時間を稼がないといけなかった。


 魔力消費が大きいから、へたしたら一発で打ち止めってケースも少なくなかったんだよね。

 だからどういう局面で投入するかって、指揮官はすごく頭を悩ませたらしい。


 で、めんどくさいから最初にどーんと撃っちゃって敵の数をなるべく減らす、みたいなとっても単純な使い方をすることが多かった。

 それはそれで、べつに間違いではないんだけどね。


 でも、これからは違う。

 魔法は、使い勝手が良いものになった。


 街門の上から飛んでくる魔法は、一般で何十匹ものモンスターを倒すほどの威力はない。


 とにかく数を撃つということを優先しているから。

 もちろんウォーターギロチンみたいな強い魔法もあるわけで、状況に応じて使い分けているのだ。


 今使ってるのは、たぶん風花(ウインドフラワー)の魔法だな。

 先のとがった細い鉄の棒を火魔法の爆発力で撃ち出すってやつなんだ。


で、棒の後端は花びらみたいな形をしていて、そこに風魔法を送り込むとすごいスピードで横回転する。

 それで風の花って名前になった。


 名前こそ風雅だけど、この回転ってのがミソで、モンスターの固い鱗だってぶち抜いちゃうんだよ。


 殺傷力が高くて、魔力そのものを飛ばすわけじゃないから、魔力消費も低い。あんな鉄の棒くらいなんぼでも量産できる。

 良いことづくめの魔法なんだ。


 これが魔軍に降り注いでいる。


 土属性と水属性の連中が使っているのは泥濘で眠れ(アシッドレイン)かな。

 格好いい名前だけど、これは泥水を降らせるだけ。

 でも、目にも耳にも口にも入ってきて、うっとうしいことこの上ないんだ。


 防御にも移動にも障害がでてくるのに、そこに風花が降り注ぐわけだからね。

 魔軍前衛は気の毒なくらいの有り様さ。


 さんざんに撃ち減らされたところに騎士と兵士が打って出て、草でも刈るようにゴブリンやオークを斬り殺していく。

 そしてある程度ダメージを与えたら街門の中に撤退するわけだ。


 モンスターどもが追いかけてきたら、また街壁の上から魔法が降り注ぐ、と。

 学生隊が到着するまでの悪戦苦闘が嘘みたいな戦況である。




「そろそろ敵の本隊が動くだろうね」


 ミケイル体長が言った。


「俺もそう思います」


 このまま前衛部隊が全滅するのをぼけーっと見ているとしたら、魔軍の司令官は無能すぎるというものだろう。

 そんなやつが国境の砦を陥落させ、ドイルシティとモートンを相次いで平らげるような大戦果をあげられるわけがない。


「ただ、前衛の後詰めに入っても千日手になるだけなのよね」


 横からサリーズ副隊長が意見する。


 現状、セムリナの街門を突破する方法はものすごい圧力をかけた力攻めくらいしかない。

 何万の犠牲を出そうともってやつね。


 そんなことになったらセムリナはいずれ陥落する。こればっかりはしかたない。ただ、それをやると魔軍の損害も大きくなりすぎるし、厭戦気分が広がって軍隊としてのカタチを維持できなくなる。


 でもそういう手じゃないと、攻め寄せては守られ、攻め寄せては守られっていうサイクルに入ってしまうんだ。

 これがサリーズ副隊長の言う千日手。


「となると、いったん引いて戦力を立て直すというのが常道だと思うんだけど」


 むうと腕を組むミケイル隊長。

 魔軍はすでにモートンまで陥落させている。つまり国境線は六日分もこっち側まで押し下げられてしまったわけだ。


 ソルラント王国は今後、政戦両略を練り直さないといけない。

 これだけでも充分な戦果で、これ以上の無理をする必要はない。モートンを拠点化してじっくり次の手を考えれば良いのである。


「保留付きですか。ミケイル隊長」

「どうにも自分を納得させられないのさ。リューベックは違うのかい?」

「いえ、俺も同感です。どうにも敵はセムリナ奪取にこだわっているように見えます」


「こだわるさ。もったいないだろう? せっかくあと一歩まで押し込んでいるんだから」


 唐突に。

 本当に唐突に声が割り込み、ミケイルの身体が右に吹き飛んだ。


 悲鳴すらあげる余裕もなく、地面に二度三度とバウンドしながら、立木にぶつかって止まる。

 びくりとも動かない。


 生きているか死んでいるか、確認に走ることもできない。

 なぜなら、俺の目の前には立派な鎧に身を包んだ騎士が立っていたから。


 側頭部から突き出した角。猫のように細い瞳孔。身体の後ろから覗く太い尻尾。

 目を見張るほどの美人だが、あきらかに人間ではない。


「魔王軍十六神将が一人、リザーベラだ。お初にお目にかかる。人間どもよ」



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