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第26話 オーガキラー


 魔軍前衛部隊の動きが乱れる。

 どてっぱらに大穴を空けられたからね。何事もなかったかのようにってわけにはいかないだろうさ。


「第二射用意! 引きつけろよ!」


 ミケイル隊長の檄が飛ぶ。

 魔軍前衛の一部がこちらに矛先を向けた。


まだ少ない。街門にとりついている奴らの、せめて半分は引っ張り回したいところである。

 どろどろと不吉な地響きを立て、鬼族どもが進んでくる。


 ゴブリンとオークが主体で、ざっと二千ってところかな。


「この一撃で全滅させるぞ。弾道計算急げ!」


 まじか。

 さっきの一撃の強さから逆算して、二千を一発で仕留められるとミケイル隊長は読んだわけか。

 この柔軟さよ。


「いきなり勝手なこと言わないでよ!」


 むっきーってサリーズ副隊長が怒ってる。そして怒りながら軍師チームで計算してる。

地面に杖の先で計算式と図を書きながら。


丁寧に野帳(レベルブック)にちまちま書き記す手間を惜しんでのことだろう。

なんというか、ご愁傷様です。


「計算終わり! 泰一分隊は射角二十一度。十時四十分の方向!」


 次々に発射する角度と方向が指示されていく。

 最も効率よく、たくさん殺せるように。


 そうこうしている間にも魔軍は近づいてくる。

 相対距離は二百メートルといったところかな。なんか実際よりもずっと近く見えるもんだな。向かってくる軍勢ってのは。


 横から奇襲で撃つのとは違って、けっこう怖い。


「まだか……」


 ぽつりと呟いた声は、自分のものとは思えないくらい乾いていた。


「放てぇ!!」


 距離百五十のところでミケイル隊長が右手を振り下ろす。

 再びのウォーターギロチンだ。


 気持ちいいくらいの切れ味で魔軍を切り裂いていく。

 だけど、さすがに全滅には至らない。


 半壊ってところかな。効果としては充分だけど。

 ゴブリンどもは音程の狂った叫びを上げて逃げ出すモノが相次いだ。


「よし。崩れた」


 ぐっと俺は拳を握る。

 敵前逃亡が出るってことは、軍としての機能が崩壊を始めたって証拠だからね。


 こっちに向かってきた部隊は、もう使い物にならない。

 と、前衛部隊の本隊あたりから吠え声が響き、オーガーの巨体がぶっとい棍棒を振り上げた。


 部隊長クラスなのかな。

 ものすごく怒りながらこちらへと向かってくる。


「あいつをやっつけたら、魔軍の士気ってガクっと落ちないかな」

「落ちるでしょうね。一騎打ちとかだったらとくに」


「まじか。じゃあ俺やっちゃおうかな」

「あ、ズルい。私もやりたい」





 ミケイル隊長に進言しにいったら、おんなじことを考えていた人間が俺たち以外に何人かいて、苦笑された。


 で、手遊び(じゃんけん)で決めろって言われちゃったよ。

 ここはさ、誰かを指名する局面じゃないかな?

 お前の武勇に賭ける、とか格好いいこと言って。


 買い出し当番とかを決めるんじゃないんだからさ。


「やりい!」


 そして勝ち残った俺が、小さくポーズを決める。

 いやまあ、たかが手遊びなんで、ただの運なんだけどね。


「んじゃ、いってくるぜー」


 仲間たちのブーイングを背に、俺はひとり隊から離れる。

 声援じゃないところがミソだよね。


 ホントに仲間か? お前ら。


 オーガーは、人食い鬼とも呼ばれていて、凶暴さでは鬼族ででも一、二を争う。


 ゴブリンだってコボルトだってオークだって人間を食べるのに、なんでわざわざオーガーだけが人食い鬼なんて呼ばれるかって考えたら、凶暴さの一部は想像できるかな?


 倒したら、鬼切り(オーガキラー)の称号で呼ばれるしね。

 オーガーよりずっとでかいサイクロプスを倒しても称号なんかもらえないのに。


 近づいていく。

 俺より頭三つ分くらいはでかくて、ボリュームでも四まわりは違う。


 赤銅色の身体と額から突き出した二本の角。

 子供が想像する鬼そのものだね。


 ひとりで姿を現した俺をこしゃくな挑戦者と受け取ったのか、吠え声とともに突進を始める。

 一体なのに殺到って言いたくなるような勢いでね。


「サンドネット」


 まあ、常識的な迎撃をしてみようか。

 薄刃を並べた砂の網でね。


 まったく減速することなく網につっこんだオーガーは全身を切り裂かれた。けど、ごおおおおっていう声は悲鳴じゃなくて雄叫びだね。


 痛みを感じてないわけじゃない。

 体中傷だかけだもの。皮膚を切り裂いただけで、内臓とかにはダメージはないだろうけど、激痛だと思う。


 気合いと根性で耐えただけ。


「さすがは鬼さん。小細工なんかにゃ膝を折らないぞってか」


 俺は嘯き、右手にサンドソードを出現させる。


「さあ、ここからが本番だぜ」


 左手の指先でくいくいと手招き。

 やっすい挑発に乗ってオーガーは突進してくる。


 目を血走らせ、牙を剥き、よだれをまき散らして。

振り回される棍棒に一打ちされたら、俺なんかべちゃっと潰されそうだ。


「当たらないけどね。サンドバレット」


 突然、オーガーが棍棒を投げ出し両手で目を押さえた。

 可哀想に、ちっちゃな砂粒が目に入っちゃったんだね。


 すごく痛いだろう。

 目にかすり傷はないっていうけど、根性でなんとかなるようなもんじゃないよね。


「けど、戦場で武器をいてて目を覆っちゃったら、終わりだよ」


 短い助走のあとのジャンプ一番、砂剣がずばんとオーガーの首を落とした。


 

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