第25話 戦闘開始
王立魔法学院のあるアイリンからセムリナまでは二日ほどの距離だ。
こんなところまで攻め込まれたのかと思えば戦慄するけど、もともとアイリンあたりが国境だったんだよね。
要塞が学院校舎の始まりだし。
「さて、あと四半刻(約30分)ほどでセムリナだ。最終確認をしておきたい」
ミケイル隊長が口を開き、俺たちは神妙に頷いた。
この二日間で、自然と彼のリーダーシップをみんなが認めている。
「最終確認ですか?」
半ば挙手するようにして俺は問い返した。
セムリナに向かう目的、参戦する目的はさんざん聞かされてきたからね。今さら確認するようなことがあるとも思えない。
「考えられる状況が三つあるからね。大きな目標の話ではなくて」
「というと?」
「まず味方が勝利して、魔軍を追い払ってるパターン」
隊長が指折り数える。
まあ、このケースは考えても仕方がない。出番はすでに終わっているってことだ。
次に、すでにセムリナが陥落しており、味方が必死に逃げている場合。
これの場合は逃げる民衆を守って足止めすることになるだろう。
難易度はバカ高いけど、やらないわけにはいかない。
ただ、べつになんか作戦を立てるとか、そういう話ではないんだよな。逃げてくる味方を守りつつ魔軍を撃つだけだから。
最後が、戦線が膠着してしまっているパターンだそうだ。
俺たちの登場がキーになるかもしれないって状況なんで、どう動くかが重要になってくる。
「そうなっていたらどうします?」
「街には入らず戦場を迂回して、魔軍の外縁部に嫌がらせの攻撃をしようと思う。軍師諸君の考えを聞かせてくれ」
アナの問いに答えつつ視線を動かす。
その先にいるのは、サリーズ副隊長、ヴァル、リュース、クライの軍師チームだ。
ミケイル小隊は、戦闘時には四つの隊に分かれる。
それぞれの隊に軍師って呼ばれる参謀的なポジションを置くことに隊長が決めちゃったんだ。
参謀でよくね? っていう俺の意見は、軍師の方が格好いいだろっていう一言で黙殺されてしまったのだった。
で、リューベック分隊の軍師がクライね。
この軍師たちが、ミケイル隊長の作戦案を検討して可能か不可能か判断する。
あるいは別の作戦を提案したりね。
ミケイル先輩のすごいところは、自分の案がダメ出しされても素直に頷くことだろうね。
我を押し通さない。
「悪くないアイデアだと思うわ。ただ、本隊との距離が空いてしまうのが怖いわね」
「連絡は密に。これは大前提でしょう」
さっそく軍師チームが検討を始める。
セムリナ到着までの四半刻で短期的なプランを用意しておくために。
明らかに押されている。
街の各所から黒煙が上がっており、遠くから悲鳴も聞こえてくる。
「完全に街門が突破されたワケじゃないだろうけど、時間の問題くさいわね」
「だな。そうなると俺らの存在が効いてくるな」
アナの言葉に頷いた。
ミケイル小隊は街に入らず、戦場になっている東門を迂回するように魔軍の左翼にまわりこむ。
ていうか敵多いな。
魔軍の前衛部隊だけで鬼族を中心に一万以上いそうだ。
この後ろに本隊とかいるわけだから、全体で四から五万ってとこかな。
当たり前だけどミケイル小隊五十名でなんとかできるような数じゃない。
「こっち側で騒ぎを起こし、その間に街門の修復をしてもらう感じかな」
「そういうことだ。各分隊、攻撃位置に」
魔軍の左翼は森になっていて、うまいこと身を隠すことができる。
ちょっと遠いのが難点だけど、どっちみちこの戦力差で接近戦なんかできないからね。
で、最初の攻撃は水魔法と風魔法のミックスだ。
実習で二年の先輩が使ってた水の輪。
極薄の水をすごいスピードで回転させて、触るものすべてを切り裂くっていうおっかない魔法なんだけど、射程距離が短いのコントロールが難しいという欠点もある。
試しにやってみたリリクロが言ってたんだけど、高速回転してるからちょっとバランスが崩れるだけで、あっちいったりこっちいったりしちゃうんだそうだ。
それを風魔法で補って飛んでいく道を作るってやり方を、軍師チームが編み出した。
コントロールしない。
高速回転する水の刃を、ただまっすぐ撃ち出す。
直径で一間(約1.8メートル)くらいもあるリングが、目視できるギリギリくらいのスピードで飛んでくるわけだ。
ちょっとした恐怖だろ?
「各分隊、構え。放て!!」
ミケイル隊長の号令一下、四つの水の処刑鎌が発射される。
「……うそだろ?」
「ちょっと想定の範囲外だわ」
そして、俺とアナがあんぐりと口を開けた。
同時に放たれたウォーターギロチンは四つ並んで飛翔し、魔軍の左翼から右翼に突き抜けて消滅した。
まっすぐに。
そこにいたゴブリンやオークを、すべて真っ二つにして。
たぶんこの一撃で、二百以上が死んだんじゃないか?
俺たちはあんぐりだったが、魔軍はパニックに陥った。
それはそうだろう。
突如として、とこかからか半透明の輪っかが飛んできて、音も光も何もなく僚友を切り裂いていったんだから。
この状況で落ち着いているのは、いくらモンスターでも不可能だって。
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