第23話 激闘!
「本当に強い。魔法の可能性を見せてくれる」
「そういう先輩方も、そつがないですね」
再び対峙する二チーム。
ミケイル先輩とリンゴが前に出る。
お。一騎打ちかな。
「炎拳!」
「光剣!」
リンゴの拳が赤く輝き、ミケイル先輩の手に光の剣が現れる。
なんと、ミケイル先輩は光魔法の使い手だったのか。
光魔法と土魔法のコンビって、アナと俺の組み合わせと一緒じゃん。まあ、俺の場合は土っていうか砂だけれども。
これでリンゴとクライのコンビが勝つことがあれば、彼らは戦訓を得ることになる。
俺とアナのコンビと戦うときのためのね。
「でも、リンゴたちがそんな風に考えたら負けるわよ。次の戦いのことを考えて勝てるような、そんな甘い相手じゃないわ」
アナがミケイル先輩から目をそらさずに言った。
同じ魔法を使う人間として、その戦いぶりはちゃんと見ておかないといけないってことだろう。
そしてそれは俺も同様だ。
サリーズ先輩に視線を移す。
ん、やっぱりあの人も砂を使ってるな。ミケイル先輩のブーツのグリップ力をあげてる。
『魔法因子』にも教本にも書いてるわけじゃないけど、靴底への干渉は必ず通るよな。
こんな場合なのに、サリーズ先輩に親近感を持っちゃうよ。
「いくよ。アップルリバル」
「望むところ!」
踏み込みは同時。
振るわれた光の剣を炎の拳がいなす。
突き出された炎の拳を光の剣がはじく。
どっちもやるな!
リンゴは肉弾戦も強い。騎士の出だしね。
でもミケイル先輩はそれ以上だ。優男な見た目なのに。
七対三くらいで先輩が押してる。
武器の差もあるな。剣と拳だもの、攻撃範囲が違いすぎるよ。
徐々に追い詰められていくリンゴ。
と、そのとき、ミケイル先輩の視線が泳いだ。
ちらちらっとね。
もちろんリンゴが見過ごすはずはない。一気に攻勢に転じる。
左、左、右。強烈なパンチが連続する。
光の剣でなんとかはじくものの、たぶん小さいダメージが蓄積していってるな、あれ。
天秤が動いた。
二対八くらいでリンゴが有利になり、ミケイル先輩は防戦一方に追い込まれる。
近接肉弾戦の間合いになれば、リンゴは両の拳で戦えるから、武器が一つの先輩を追い込めるんだ。
そのきっかけを作ったのはクライの風魔法。
風と音は空気の振動って意味では同じらしくて、彼は風だけでなく音を操るのだ。
リュースと戦ったときのように、接近する足音を聞かせたんじゃないかな。
もちろんミケイル先輩はそんなものに惑わされない。けど、ほんの何瞬かは注意をそらす。
本当に、砂時計からこぼれる砂粒が数えられるくらいの時間ね。
でも、この瞬間を狙って牙を研いでいたリンゴには充分だった。
やるなぁ。
一朝一夕にできる連携じゃない。
何百回と練習してきたんだろうな。
「二人がここまで接近してしまったら、サリーズ先輩もクライも援護できないわね」
「だな。下手を打ったら同士討ちだ」
とはいえ、このままミケイル先輩が削られていくのをサリーズ先輩が黙ってて見ているとは思えないんだよな。
何か仕掛けてくるはず。
「サンドアーマー」
「っ!?」
サリーズ先輩の詠唱に俺は我が耳を疑った。
だってあれは……。
「リューの魔法……」
アナの声もからからにかすれている。
ミケイル先輩に砂がまとわりつき形成されたのは、まさしく俺のサンドアーマー。闇色に輝くプロテクタアーマーだー。
造形までそっくり真似られた。
「けど! 砂に防御力なんかない!」
驚き、一瞬だけ蹈鞴を踏んだリンゴだったが、雄叫びとともに殴りかかる。
メグたちと戦ったときに使ったサンドアーマーを、彼らは知ってるからね。
ハッタリだと。
「いかん! 罠だリンゴ!!」
「ぐああああっ!?」
思わず叫んだ俺の声とリンゴの絶叫が重なった。
ズダズダに切り裂かれた右腕を抱え、リンゴが地面を転がり回る。
「砂には形がないわ。だから、目に見えているのが本当の姿とは限らない。アップルリバル、あなたのお友達の言葉よ」
吹雪の野に立つ氷の女王みたいな笑みだ。
怖い。
「砂鎧に見えたでしょ。でも本当は、カミソリみたいに薄い刃を並べたものなのよ」
「……ぬかった……それもリューは見せていたのに……」
悔しそうなリンゴだ。
砂鎧も、砂網の罠も、彼は知っている。
知っているのにサリーズ先輩の術中におちてしまった。
いや、むしろ知っていたからか。
何も知らなければ、サンドアーマーを警戒して攻撃を控えたかもしれない。
「勝ちを急いだわね」
そうしなかったのは、まさにサリーズ先輩の言葉の通りだ。
ミケイル先輩を追い詰め、リンゴの目には勝利が見えてしまったのである。
勝ったと思った瞬間に足下をすくわれるのは、叙事詩でも現実でもよくある話だ。
「……投了します」
大きく息をつき、クライが宣言した。
仕方ないね。
リンゴはもう戦闘不能。先輩たちは二人とも健在。この状況でも勝機があると考えるタイプじゃないでしょ。クライは。
※著者からのお願いです
この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、
ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。
あなた様の応援が著者の力になります!
なにとぞ! なにとぞ!!




