第22話 優勝候補
準々決勝、俺とアナのチームは特筆することもなく勝利したのだが、リンゴとクライのチームがすごかった。
相手は三年生。
ミケイル先輩とサリーズ先輩のペアで、ぶっちゃけ優勝候補だね。
前の魔法学院のクラス分けだと三年A組で、学年主席と次席。
もともとの魔力量が高い上に成績も優秀、そんな人たちが『魔法因子』を読み込んで理解を深めたんだ。弱いわけがない。
それにプラスして、けっこうな人格者で、驕ったところがないんだってさ。
だすら今の三年生の世代は、D組に対する差別って比較的すくなかったんだそうだ。
実際に見たわけじゃないから本当のところは判らないけど、退学者が他の学年より少なかったのは事実だよ。
ただまあ、それでもゼロじゃないんだけどね。
こればっかりは仕方ない。
先輩たちがどんなに良い人でも、それだけで学校が変わるわけじゃないから。
ミケイル先輩は金髪ですらっとした美丈夫。サリーズ先輩は黒髪の楚々たる美人で、ちょっとだけクライに雰囲気が似ている。
「まずは感謝したいと思っているよ。アップルリバル君、クライアルトン君、きみたちが『魔法因子』を発見してくれたことで、僕らは自身を振り返ることができた」
試合前、そうミケイル先輩は話しかけた。
「あれは自分たちが生き残るためにあがいた結果として見つけただけなんで、感謝される類いのものではまったくないですよ」
対してリンゴは笑って応える。
「さらにいうと、じゃっかん後悔してます。もともと強い先輩方が『魔法因子』で強くなっちゃったら、勝ち目がなくなるじゃないですか」
なんて冗談を付け加えて笑いにしてしまうあたり、リンゴは本当に好漢だよな。
本当に自分のことしか考えてないなら、だれになにを言われても『魔法因子』のことは黙っていた方が良かったのだ。
だけど俺たちはそれを選択しなかった。
俺たちだけが強くなれば良いって話じゃないからね。
最前線で戦う兵士たちのため、そして人類全体のために『魔法因子』は役立てるべきだと考えたんだ。
もちろんためらいがなかったといえば嘘になるけどね。
自分が最強になって無双する。
そんな妄想を抱いたことがない男は、きっといないんじゃないかな。
「それとですね。そんな美人がパートナーだなんて、もう嫉妬しかないです。管理棟の尖塔の上から飛び降りてくださいって感じですね。僕のパートナーなんて、コレですよ」
「どうも。コレです」
律儀にクライが頭を下げる。
たまらなくなったのか、先輩たちも破顔一笑した。
「そんなわけで、僕たちは嫉妬と羨望のすべてをかけてぶつかっていくんで、感謝はべつにいらないです」
「そうか。では我々も全力で応えよう」
「いざ尋常に!」
「勝負!」
リンゴとミケイル先輩の声がこだまする。
「いくぞクライ!」
「まかせて」
熱を操るリンゴと風使いのクライ。いきなりの合体技が先輩たちを襲う。
ただの風と思ったけど、そうじゃないみたいだ。
ガタガタ震えるサリーズ先輩を抱え、横っ飛びしたミケイル先輩が地面を転がる。
こっちも息が荒い。
「……氷が飛んでくるわけでも、水が叩きつけられるわけでもない。なのに詠唱すらまともにできないほど凍えるとはな」
「温度はそんなに低くないんですよ。氷点下になんてなってません。でも、歯の根が合わないくらい寒かったでしょう?」
笑いながらリンゴが説明する。
たたみかけないのか。余裕あるなあいつ。
「なるほど。体感温度ね」
俺の横で観戦していたアナが右手を顎に当てて呟いた。
視線で問いかければ、簡にして要を得た答えが返ってくる。
「風があると実際より寒く感じるのよ」
「そういうことか!」
手を拍つ。
空っ風ってやつだ。
冬の冷たく乾いた風って本気でつらいんだよな。
いっそ雪でも降った方が暖かいんじゃないかってくらいなんでけど、気温そのものはそこまで低くないんだよね、あれ。
「あの風の強さから逆算すると、先輩たちの周囲は一気に一桁の気温に下がったはずよ」
「つまり十五度以上もいきなりさがったってことか」
そりゃ震えるわ。
で、そんな寒風吹きすさぶ中で魔法を使うことを断念して、ミケイル先輩は魔法の範囲外に逃げたってことか。
サリーズ先輩に警告してってプロセスを取らなかったのは、一分一秒を争うから。
リンゴたちの魔法の影響下にいればいるほど、体温がどんどん奪われていくからね。
「先輩たちの勝負勘もすごいな」
「それだけじゃないわ。リンゴたちはたたみかけなかったんじゃない。できなかったのよ」
そういってアナが指さしたのは、リンゴたちの足もと。
なんかボコボコと不自然に盛り上がっている。
なんだあれ?
「わかんないけど、なんかの罠だと思う」
「動いた瞬間爆発するとか、そういうやつか」
そりゃ動けないわ。
せめてあれがなにか判らないと。
「解説してくれたお礼に、わたしも種明かしするわね」
ミケイル先輩の腕から抜けだし、立ち上がったサリーズ先輩が微笑する。
その瞬間、盛り上がっていた土がぶしゅっとしぼんだ。
「土魔法で盛り上げていただけよ。罠かと思った?」
ただのハッタリ。
でも、罠があると思わせたことによって、リンゴたちの判断力を奪った。
この人、やるな。
同じ土属性の魔法を使う身としては、大いに学ぶべきだろう。
※著者からのお願いです
この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、
ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。
あなた様の応援が著者の力になります!
なにとぞ! なにとぞ!!