第21話 ベストエイト
「うがー! まけたー!!」
リリクロが地団駄ダンスを踊っている。
治療魔法で回復したばっかりなのに元気なお子様だ。
「だれがお子様だーっ!!」
そしてなぜか俺の心の声を読むのである。
もしもリリクロが俺の彼女だったら、浮気してもすぐにバレそうだよね。
「ぼくは男だ! なんでリューの彼女になるんだよ!!」
「けどまあ、あそこでリリクロが攻撃を中断しなかったら俺の負けだったな」
「スルーしたな、って、そうなの?」
「砂がもう残ってなかったんだよ」
「ぐあー! しくじったーっ!!」
また悔しがってる。
元気だねえ。
「むしろあたしは砂の鎧がとくに意味がなかったって方に、やられたって感じだよ」
メグが両手を広げてみせた。
「あれが作戦の肝だったからね。超かっこよく変身したのよ」
なんか必殺技でも出しそうな姿にね。
あれはそう見せるためだけのハッタリ、ハリボテさ。
防御力なんてゼロ。
だって砂だもん。
黒い色にして見た目もかっこよくしてるけど、ただの砂なんだ。
でもメグとリリクロは警戒した。警戒させることこそが目的だったんだよね。
なにかすごいことをしてくるかもしれないから、あの鎧を排除した方が良いって。
だからこそアナが装甲を解除したとき勝利を確信した。
してしまった。
あとはアナがつっこんでくるしかないだろうって思っちゃったんだな。
で、予想のとおりつっこんできたから目潰しを狙ったわけだ。それがアナの誘いだったのに。
くると判ってれば対処は簡単だもの。
コップ一杯の水をおでこで受けたところで実害はゼロだ。
一方は計算違い、他方は計算どおり。
デンジブレイカーの有効範囲にまで接近されたら、もう勝負は決まったのと同じだよ。
「あたしらを負かしたんだ。優勝しなさいよ」
「判ってるわよ、姉御」
女子同士が拳をぶつけ合った。
ベストエイト進出だ。
そして、リンゴとクライのチームも残っている。
劣等クラスと蔑んでいた連中に見せてやりたいよ。最上級の三年生まで含んだ勝ち抜き戦で、元D組のメンバーを含んだチームが二つも残ってるんだから。
どんな顔するんだろうね。
あ、一番はじめに俺たちと対立した元C組の生徒は、そもそも一人も出場してない。
メグを乱暴しようとしたバカどもは原級留置処分だし、やる気を失っているだろうから仕方ないけど。
原級留置ってのは簡単にいうと留年ね。
来年も一年生やりなさいってこと。
成績がどうとかもう関係ないんで、授業にも出てないって話を聞いたことがある。
でもさ、それこそバカだと思うわけですよ。
実習なんて実力を認めさせる絶好のチャンスじゃんね。
エーリカ殿下をはじめとして、教官たちは実戦経験のある魔法騎士ばっかりだもの。功をもって罪を償わせるってタイプの人が多い。
反省し、勉学に打ち込み、実習で良い成績を残したら、原級留置の処分が取り消される目だってある。
というよりむしろ、その機会を与えるって意味でも実習が行われたんじゃないかと思うくらいだよ。
あんなんでも人材は人材だしね。
ちゃんと教育して、国のために役だてようってエーリカ殿下なら考えそう。
「それができないからゴミなんでしょ。集団で女の子を襲うようなウンコ、叩いたって延ばしたって、真人間になるわけないじゃない。再教育なんて時間の無駄だから、とっとと殺してしまえばいいのよ」
ふんすと鼻息を荒くするパートナー殿である。
師匠は甘いところがあると息巻いてるよ。
「私は一回しか戦場経験ないけど、あの手の連中は死ぬときも一人で死なないのよ。ほぼ確実に味方の足を引っ張って死ぬの」
「そんなものなのか?」
俺自身は戦場にいったことがないからね。生きるか死ぬかの極限状態で人間がどういう行動を取るのか、実感としては判らない。
けど、そういうときにこそ人間性が出るような気がするよね。
「例えばさ、リュー。あいつらに背中を預けて戦いたい?」
「無理ですね」
間髪入れずに答えちゃう。
しかも丁寧語で。
魔法騎士に向かないとなれば、文官勤めということになるだろうけど、あいつらが文官として任地に赴いたら、普通に部下いびりとか平民いびりとかやりそう。
「痛い目にあってるからもうやらないかもしれない。だけど、やりそうって思われるのが問題なのよ」
「たしかにな。だけどさ、アナ。このまま授業に出ないでいたら、いずれ自分から退学しちゃうんじゃないか?」
魔法学院自体が針のむしろだろう。
劣等クラスと蔑んでいた連中が評価され、自分たちは留年だ。
立つ瀬も浮かぶ瀬もない。
「やめた後、世をはかなんで僧院にでも入るなら良いんだけどね」
そういって肩をすくめる。
むしろ俺たちを憎み、世の中を恨み、身につけた魔法を使って悪事を働くんじゃないかとアナは言う。
「復讐だとかいって家族に手を出されたら厄介だな」
厄介というか地獄だ。
俺でもメグでもいいけど、もし家族に手を出されたら、奴らのことを絶対に許さないだろう。
地の果てまでも追い詰め、最も残酷な方法で殺してやる。
「でしょ? だから今のうちに殺しちゃった方が後腐れがなくていいのよ」
いやいや、たしかに後腐れはないけどよ。
まだやつらはなにもしてない。
そうなる可能性があるってだけで殺しちゃうのは、さすがに過激すぎるって。
もしかしてエーリカ殿下が甘いんじゃなくて、アナがやたらと鉄血主義なんじゃないか?
※著者からのお願いです
この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、
ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。
あなた様の応援が著者の力になります!
なにとぞ! なにとぞ!!




