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閑話 王妹と腹心


 実習にエントリーした五十六チームのうち二十八チームが一回戦で姿を消した。


「少しもったいなかったですな、エーリカ殿下。負けた連中も良い勝負をしていたし、もう少し見ていたかった気もします」

「いくら良い勝負をしても実戦で負ければ死ぬ。非情な世界だよ、エーリンホフ」


 監覧席に座したエーリカが、腹心の部下に言った。

 魔法戦技の究極的な目標は、敵を倒して生還するという点に帰結する。


 己を高めようとか、相手の良いところを引き出そうとか、そういう道場剣術のような高尚な目的はない。

 勝つこと、生き残ることがすべてだ。


 だから、もったいないというエーリンホフの感想は、本来は笑止でしかない。


「笑止でしかないのだがな。見てみろよエーリンホフ、負けた生徒たちの顔、あれが絶望している顔か?」


 にやりとエーリカが笑い、腹心の部下が頷いた。


「ひとつでもふたつでも戦訓を拾おうとしていますな」


 悔しがるのではない。

 落ち込むのではない。

 パートナーとともに、負けた瞬間から次の戦いに備えている。


「おそらく試したい魔法がまだまだあるのでしょうな」

「であろうな。我とて『魔法因子』からいくつの気づきを得たかわからないからな」


「生徒で試しちゃだめですよ?」

「まえから思っていたのだが、汝は我に対しての忠誠心が低すぎないか?」

「まさかまさか。そんなそんな」


 にやにや笑いながら否定する中年男である。

 もちろんエーリカはまったく信用しなかった。


 王族が相手だからといって変にへりくだらないエーリンホフだからこそ、気に入ってそばに置いているのだから。


「ともあれ、ここ十年の不作を補ってあまりあるほどの研究心と向上心だ」


 感慨深げにいって、エーリカが腕を組む。

 ローングリンが学院長だった六年間がもっともひどいが、それより前の時代もけっして良くはなかったのだ。

 というより、てこ入れのためにローングリンが学院長に就任したのである。


「てこどころか、拍車をかけただけだったがな」

「ローングリン王国だなんて陰口があったくらいですからな」


「若い頃は素晴らしい教育者だったというが」

「素晴らしい戦士が素晴らしい指揮官になるとは限りません。ましてや指導者となると、まったく話が違いますよ」


 エーリカの慨嘆にエーリンホフが薄く笑う。

 有能な魔法騎士がみんな有能な指揮官に成長していったら、軍部はなんと楽なことだと。


 戦場の勇者は多いが、ほとんどはそれだけで終わってしまう。

 そのくらい将の器というのは稀少なのである。


「殿下の見るところ、いまの生徒たちに将器はおりますか?」

「豊作だ。とくに、もとD組は良いな」


 劣等クラスと蔑まれながらも節を折らなかった者たちだ。

 なかなかに一本筋が徒やっている。


「なかでもリューベックとアップルリバル、それにマーガレット。いずれも大器とみたぞ」

「元劣等クラス四天王といえば、クライアルトンもおりましょう」


「あやつは軍師だな。どの将を補佐しても相乗効果が期待できそうだ」

「パーシヴァルやデイタリュースと似たタイプですな」


 彼らが手塩にかけて育てた人材の中で、群を抜いて優秀なのがアンナマリー、パーシヴァル、デイタリュースの三人だ。

 このうち将器と目されたのはアンナマリーで、他の二名は軍師である。


 つまり一年生には、四人の将器と三人の軍師がすでに存在しているということだ。

 エーリカが言うように、とんでもない豊作なのである。




 監覧席でネタにされていたとも知らない七人と、話題にはのぼらなかったリリークローンは、いつものように寮の大食堂に集まって夕食を囲んでいた。


「全員の二回戦進出を祝って、カンパーイ」

「「かんぱーい!」」


 リューベックが音頭を取り、七人が唱和する。

 祝杯だ。


 明日も試合があるので酒精を入れるわけにはいかないから、みんなジュースといううのは少しだけ締まらないけれども。


「いやあ、さすがに全員が初戦突破とは、予想外だったよね」


 アップルリバルが感慨深げに言う。

 実際、危ない局面もあったのだ。


 一番はマーガレットとリリークローンで、魔力量としては前者を圧倒的に上回っている後者が、終始足を引っ張るようなカタチになってしまった。

 氷の槍(アイシクルランス)のような強力な魔法が使えるにもかかわらず、である。


 理由はいくつかあるが、まずあげられるのはリリークローンのメンタル面の弱さだろう。

 逆境に弱いくせに、煽りに対する体勢も低い。


 簡単にいうと、挑発に引っかかりやすくて、引っかかった後のリカバリが苦手なのだ。


 一番強い魔法を撃ってこいよって煽られたら、ふざけんなお望み通りにしてやるぜって、簡単に手の内を明かしてしまう。

 そしてそれが防がれてしまうと、どうして良いか判らなくなってオタオタしてしまう。


 じつはこれが、ローングリン学院長の時代に魔法学院を巣立った生徒たちの特徴でもあるのだ。

 強力な魔法を使えるようにするという一点のみに重きを置いた結果、それ以外の部分がまったく成長しない。


 自分がいまどういう状況にあって、とういう手を打つのが最善か、という思考ができない魔法騎士たちを送り込まれたらどうなるか。最前線の要塞の困惑がわかろうというものだ。


 マーガレットが自分で戦うことを諦め、リリークローンの手綱を取ることに集中しなかったら、このコンビは一回戦で姿を消したことだろう。


 ただ、冷静な将のコントロール下にあるリリークローンは、たしかに強い。

 彼女の指示で動き始めてからは、三年生コンビをまったく寄せ付けなかった。


 王妹エーリカが評したように、マーガレットの将器の片鱗が見え始めている。



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