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第2話 劣等クラス


「若い衆が雁首そろえてうだうだしてんじゃないわよ」


 会話に割り込んできたマーガレットが、机の上にどんと本の束を置く。

 朝から見かけないと思っていたら、図書館に行っていたのか。


 こいつは王都の下町でパン屋を営んでいる家の娘で、蜂蜜色の髪と濃いグレーの目をしたマーガレット。愛称はメグだ。


 劣等クラスに突っ込まれた生徒たちの中で、おそらく最もポジティブなのが彼女だろう。

 教官や通常クラスの奴らの蔑んだ視線にも負けない。むしろきっとにらみ返しているくらいだ。


 あんたらの評価なんて関係ない。あたしは勉強するために入学したんだから勉強するだけ。なーんて、教官相手に啖呵切るんだもん。

 入学二日目には、クラスメイトから姉御って呼ばれてますよ。


「こんな本、どっからかっぱらってきたんだよ姉御」

「図書館で借りたに決まってんでしょ」

「一人でこんなに借りれたっけ……?」

「一人三冊まで。五人で行ったから十五冊ね」


 なんと、朝から下僕たちを引き連れて図書館を襲撃していたらしい。

 誰が下僕じゃごるあってクラスメイトにボコられながら、俺はメグの説明に耳を傾ける。


 教官がこのクラスを指導しないなら、自分で自分を育ててれば良い。

 王立魔法学院には、魔法に関する古今東西の書物が集められており、その蔵書量は大陸有数なのである。


「こいつで自習自得しようって話だな? メグ」

「そゆこと。劣等クラスにぶちこまれようが、あたしらが地元でぶいぶいいわせてたのは事実だからね。難しい本だって読みこなせるでしょ」


「ぶいぶいは言わせてないけどな……」

「細けぇことはいいんだよ、リュー」


 なんだろう。

 王都の下町っ子というのは、こんなにちゃきちゃきしてるんだろうか。

 俺の地元の娘たちの元気さとは、またちょっと違うよね。


「でもまあ、言いたいことは判ったよ」


 俺はにっと笑ってみせた。


 魔法学院は俺たちのために何もしてくれない。

 けど、籍だけはある。図書館をはじめとした学内の施設だって使える。

 だったら、その特権を最大限に利用してやろう。


 自分たちで自分を育ててやろうじゃないか。


「いい顔になったじゃないか、リュー。リンゴと面つき合わせてぐちぐち言ってるときより、何十倍も魅力的だよ」


 ぐっと拳を突き出してくる。


「そいつはどうも。付き合ってくれる?」


 こつんと、俺も腕を伸ばしてそれにぶつけた。


「十年早いよ。修行してきな」




 しかし数日後、事件が起こる。


「大変だ! 姉御が絡まれてる!!」


 クラスメイトが教室に駆け込んできた。とびきりの凶報を持って。


「どこだ!」


 自習していた俺は本を投げ捨てて席を立つ。


「こっち!」


 駆け込んできたときと同じ勢いで走って行く生徒を追いかける。


「僕もいくぞ!」


 リンゴが横に並んだ。

 軽く頷き俺は足を速める。


 ごく短い全力疾走のあと、いくつかある別棟の影でうずくまるメグが見えてきた。

 秀麗な顔が殴られて赤く腫れあがっている。


 かっと頭に血が上った。


「なにやってんだてめえら!!」


 怒鳴り声とともに突進して、メグの髪を掴んでいる男子生徒をぶん殴る!


 奇天烈な悲鳴と折れた前歯をまき散らしながら吹っ飛んだのは、たしかC組の生徒だな。

 騎士の出だと言ってたっけ。


 女を殴るなんて、平民を殴るなんて、騎士の風上にもおけねえやつだ。


「劣等クラスが! 俺らに手を出してただで済むと思ってんのか!」


 色めき立ったC組の連中が威嚇してくる。

 追いついたリンゴがメグをかばうように立った。


「ひとり頭五人だよ。リュー」

「上等だ」


 十対二。

数の差でいったら勝ち目なんてない。けど、領民を傷つけられてるのに、へらへら笑って許せなんて俺は親からも代官様からも教わってない。


 まして傷つけられたの大事なクラスメイトだ。


「命を張るには充分な理由だろうよ!」

「同感!」


 拳を握りしめ、俺とリンゴが躍りかかった。


 そこからはもう殴る蹴るだ。

 近くにいるやつは全部敵。狙いなんかつけずにパンチとキックを繰り出す。

 もちろん俺だってボコボコにされながらね。


 乱闘は、教官たちが駆けつけるまで続く。

 俺たちを呼びにきたクラスメイトが教官室にも駆け込んだらしい。


 教官たちにしてみれば劣等クラスがどうなろうと知ったことじゃないだろうけど、学院には良家の子女も多くいるからね。


 かくいう俺だって、一応は貴族階級の下っ端だ。

 死んだり大怪我したら、それなりに事件になってしまう。


 捨て台詞とともに去って行くC組連中と教官たちを見送った後、壁によりかかりそのままずるずると地面に座り込んだ。


「……何人やっつけた? リュー」


 いつの間にか隣でへたばっているリンゴの声はくぐもっている。

 見れば顔は腫れ、唇は切れ、拳は血で染まり、なかなかな有様だ。

 まあ、俺も似たような状況だろうけどね。


「……さあ? 数えてなんかいなかった」


 良い感じの手応えが十回くらいあったかな? とすれば二人くらいはノックアウトできたかもしれない。

 まあ、その二十倍くらい殴られてるけどね。


 倒れなかったのは意地だ。

 クラスメイトの女の子を殴り、髪を掴んでいたような連中の前で膝を折ることなんてできないだろ。常識的に考えて。


「あんたたち……ばかよ……」


 ふらふら近寄ったメグが腫れた顔と破れた服のまま、俺たち二人の頭を抱いてくれた。


 ていうかあいつら、メグの服まで破いていたのか。

 もっと殴ってやればよかった。



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