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第18話 勝利の後で


 砂槍が水の輪に当たる。

 そして一瞬で切り裂かれた、かに見えた。


 砂は槍の形を失って高速回転する水に巻き込まれていき、みるみるうちに回転速度は遅くなり、最後はどちゃりと泥のカタマリとなって地面に落ちる。


「砂にはカタチがない。ゆえに、目に見えるものが本当の姿とは限らない」


 槍のように見えて、じつは紐みたいに絡みつく魔法なのかもしれないのだ。


「たとえばこんな風に。砂鞭(サンドウィップ)!」


 必殺の水の輪が無効化されて驚いている上級生の右足に鞭が絡みつき、ぐいと引っ張った。

 バランスを崩して片膝をつく。


 それは、瞬きを何度かするていどの時間でしかないけど、相手の注意が俺からそれた。


 充分!

 一気に加速して距離を詰める。


 させじと上級生が片膝を地面についたまま右手を伸ばし、矢継ぎ早にウォーターシュートを飛ばしてきた。


手数(てかず)で勝負ですか! 砂盾(サンドシールド)!」


 最短距離。当たりそうな攻撃だけを盾で防いでさらに加速する。

 盾がどんどん削られていくけど、こればっかりは仕方ない。いくら固めたところで砂だからね。

 たいして防御力はない。


「く!」


 危機を感じたのか、上級生が攻撃を中断して大きく後ろに跳ぼうとする。

 が、俺の方が速い!


「一手の差ですが、俺の勝ちです」


 一挙動で懐に飛び込んだ俺のショートアッパーが腹に決まり、体をくの字に折った上級生が少量の血を吐いて倒れ込んだ。


 ふうと息をついて視線を動かせば、ちょうどアナが光の剣を消したところだった。

 足下には白目をむいて倒れる上級生。


 よくわからないけど、服がビリビリに破れている。

 なにやったんだよアナ……。


 俺と視線が合うと艶然と微笑した。

 怖いよ。

 怖すぎるよ。




 勝ち抜き戦の形式なのは、技能試験のときと同じだ。

 ということは、一回戦が終了した時点で参加ペアは半分に減る。


 残酷な話だけど、さすがに総当たり戦をやるだけの時間も場所もないからね。

 そして一回戦から、かなりハイレベルな攻防が展開される。


 俺が相手をした二年のトゥリア先輩だって強敵だったしね。勝てたのは一手の差だ。

 もう一回戦ったら、どっちが勝つかちょっと判らない。


 あの水の輪は、そのくらい危ない魔法だったのである。

 とっさに砂槍をぶつけて絡め取っていなかったら、そこで話は終わってしまっていただろう。


 やっぱり『魔法因子』を読み解き、生徒それぞれが独自の解釈を加えて編み出した魔法は侮れないよね。


「侮れないっていえば、うちのクラスはやっぱり侮れなかったわね」


 学生食堂の一角、軽食をついばみながらアナが言った。

 一年三組からエントリーした十八人の九ペアは、俺たちを含めて全チームが一回戦を突破した。


 これはちょっとすごいことだと思う。


「魔法の研究に関しては一日の長があったからかもしれないけどな」


 コーヒーをすすり、俺は肩をすくめてみせた。

『魔法因子』に触れたのは劣等クラスが最初である。タイムラグは二ヶ月くらくいしかないけど、その二ヶ月が大きい。


 だって、俺は一ヶ月足らずで砂剣(サンドソード)砂網(サンドネット)を編み出したしね。


 そこからいろいろな応用を考えていまに至るわけだ。

 砂鞭(サンドウィップ)砂槍(サンドジャベリン)も派生だし、他にもまだ人に見せてない技がいくつかある。


「それ、それが悔しい。私が十三の時に『魔法因子』を読んでいたらって思うと、悔しくて仕方ない」

「そうなんだよな。本来はそこから入るべきだったんだ」


 基礎の基礎の基礎。魔法とはなにか、どういうメカニズムで発動するのか、どういうレベルでコントロールできるのか。

 そもそも魔力を操るとはどういうことなのか。


「じつは魔法学院って何十年も間違ってきたってことなんだよね」

「威力の高い魔法をどーん、というのは必ずしも間違いじゃないと思うけどな」


「でもそれじゃ魔族には勝てないのよ。潜在能力(ポテンシャル)が全然違うからね」

「アナは戦ったことが?」


「一度だけね。魔法の撃ち合いじゃ勝てないって実感したわ。だから光の剣を習得したの。ほかの光魔法を捨ててもね」


 くすりと笑う。

 距離を置いて魔法を撃ち合った場合、最終的に人間が敗北する。

 アナはそう分析した。

 一発の威力が同程度だとしても、根源的な魔力量が違いすぎるから。


「魔族から見た場合、私とリューの魔力量の差なんて、誤差みたいなものよ」

「そういうものなのか」


 魔力量を水にたとえると、魔族のそれはプールくらいで、人間はバスタブくらいなんだそうだ。

 そういう次元の差だから、バスタブが一回り二回り大きかろうと小さかろうとたいした違いではないらしい。


「で、そこから桶で水をすくって投げつけるのが魔法戦なわけよ。ざっくりいうとね」

「ざっくりしすぎだろ」


「でもわかりやすいでしょ。桶が大きければ大きいほどすくえる水は多いけど、持ち上げるのも大変になっていくし、バスタブの中の水が減るのもはやくなるわ」

「たしかに」


 俺は腕を組んで頷いた。

 強い魔法ってそれだけ詠唱が長くなるし複雑にもなる。

 その時間を稼ぐのに一般兵たちが必死に戦うんだよな。


「リューたちが編み出したのは、桶じゃなくてコップで水をすくえば良いじゃんってやり方ね」


 素早くすくい、素早く投げつける。

 あるいは一点に集中してぶつけたり、広範囲にばらまいたり、足下にまいて滑らせたり。


 そういう戦い方の可能性を見せつけたということになるらしい。




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