第17話 一回戦!
実習はバディ戦。
つまり、二人一組で戦っていくことになる。
サトゥーム教官の話を信じるならば、ツーマンセルってのがすべての行動の基本になるからなんだそうだ。
単独行動は自由度が高いように見えて、じつはできることがかなり制限されるんだって。
腑に落ちるような、落ちないような。
でも、それは良いんだ。
まったく問題じゃない。
「なんで組まないとか言い出すんだよ。リンゴ」
こっちの方がずっと問題だ。
入学してから三ヶ月、ずっと一緒にやってきたじゃないか。
「それさ。リューちゃんのことは親友だと思ってる。けど」
「けど?」
「同時に、僕たちはライバルでもあるだろ」
きちんと競い合わないといけない。
なれ合いでだらだらいったら、それはもう好敵手ではない。
「だからさ、白黒つけようよ」
ぐっと右拳を突き出す。
「……そうだな。そういうことなら」
頷いて俺も手を伸ばし、コツンとぶつけた。
「というわけで、よろしくね。リュー」
さかさず、にゅっとアナが割り込んでくる。
え?
選択の余地なく、俺の相棒ってアナで決定なの?
不満とか、べつにそういうのはないんだけどさ。
「ああ、よろしく」
差し出された右手を握り返す。
なんか釈然としないまま。
ふと視線を動かせば、リンゴがにやにやによによと笑っていた。
あれ?
俺、はかられた?
「坊やだからね。仕方ないね」
メグがうむうむ頷いてるし。
なしくずしに俺はアナとコンビを組むことになった。
だって、誰も俺と組んでくれないんだもん。
つーか俺、嫌われすぎじゃね?
「んなわけないでしょ。みんな気を遣ってくれたのよ」
「使ったというか、気の回しすぎというか」
どうにも俺とアナは恋仲であるという噂があるらしい。
仲は良いよ?
親友といって良いくらいで、幼い頃を取り戻したような気分だ。
だけど、恋仲はない。
もちろんアナが嫌いってことじゃなくてね。
魔法騎士の娘と地方の中級騎士の倅。
身分が釣り合わないんだよ。
たとえ俺たちが恋愛関係になったとしても、周囲にものすごく反対されるだろう。
周囲の反対くらいなんだ。男ならどんといけって思った人は、貴族社会について知らなすぎる。
親の反対を押し切って結婚なんかしたら、お取り潰しまであるんだよ。
そんなリスクは冒せない。
「いまはまだ、ね」
「ああ、いまは」
俺とアナが魔法学院を卒業し、魔法騎士として叙勲されたら話は違ってくる。
同じ魔法騎士だし、叙勲されたってことはもう一人前だもの。
常識の範囲内で好きなように身を処すことができるさ。
もっとも、それ以前の問題として、アナが俺を異性として好きかどうかって部分もあるんだけどね。
俺自身の気持ちとしては、じつは恋愛ってよくわからない。
アナは良いやつだし、背中を預けられるくらい使用もしている。
でも、それと恋愛は違うと思うんだよなあ。
「まあ、余計なことは考えないに限るわよ。剣が鈍るからね」
「もっともだ」
いまは実習を勝ち進むことだけ考えるべきだろう。
一ヶ月の準備期間はあっというまにすぎて、実習の日を迎える。
俺たちの緒戦の相手は、なんと二年生のコンビだ。
実習参加者は一年生が圧倒的に多いのに、いきなり上級生と当たるなんて、運が良いのか悪いのか。
「いずれは通る道でしょ」
青い目を戦闘衝動にキラッキラ輝かせたアナは、相手が誰でも関係ないみたいだけど。
「それにしても、ギャラリーがいるってのも新鮮だよな」
まえの技能試験のとき、観戦は禁止されていた。
でもいまの魔法学院では、見ることも修行のうちという方針なのだそうである。
他人の戦いを見て、自分だったらこう戦う、こう動くというのを学んでいく。
それはすごく判るんだけど、どんどん手の内がバレていくってことでもあるんだ。
戦えば戦うほど、勝ち進めば勝ち進むほど、情報は握られていくんだよな。
「出し惜しみしたあげくに敗北するというのが一番間抜けよ。リュー」
とは、試合前にアナが言っていたことだ。
もっとも、出し惜しみできるほどの実力はないんだけどね。アナはともかくとして俺には。
「んじゃ行きますかね。砂槍」
腰の革袋から舞った砂が黒い長槍を形成する。
上級生たちの手にも得物が現れた。
一人は高速回転する水の輪。もうひとりは両拳を岩石が覆う。
「オーソドックスね。前衛後衛に分かれるなんて。いくわよ! リュー!」
アナの手に現れる光の剣。
やる気満々ですね。
「土魔法は私がもらう!」
言うが早いか駆け出す。
消去法の結果として、俺の相手は水魔法か。
「土属性同士でやってみたかったなぁ」
「早い者勝ちよ!」
二人してぐんぐん加速していく。
試合開始の合図とか、そういうものは存在しないんで。
一瞬だけ戸惑った二年生だが、土魔法の方が拳を構え軽やかなステップで前進する。
そしてそれを援護するように水の輪が飛んできた。
すごいスピードで回転している。たぶん鋭利な刃みたいなもので、あれに触ったら切れちゃうんだろうな。
高圧の水を撃ち出すウォーターシュートの応用なんだと思う。
衝撃や刺突ではなく、水に切断という属性を持たせるなんて、さすが上級生だ。
「でも! そういうことなら!」
迫りくる水の輪に、俺は砂槍を投げつけた。
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