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第15話 王妹エーリカ


「よくきてくれた。(きみ)とは話してみたいと思っていたのだ」


 開口一番、エーリカ様の放った言葉は、まるで前から俺を知っているかのようだった。


「お初にお目にかかります。学院長閣下」


 面食らいつつ頭を下げる。

 くすりとエーリカ様が笑った。


「その様子だと、我がアンナマリーの師匠であり上役であったとは、きかされていないようだな。リューベックよ」


 とんでもないことを言い出したぞ、この学院長。

 驚いてアナを見ると、ついっと目をそらされた。

 こいつ……わざとか……。


「べつに汝の男を寝取ったりしない。そもそも十五歳では我の守備範囲外だしな」

「ほら! すぐそういう話に絡めるから嫌だったんです! リューは親友! 恋人じゃないです!!」


 人の悪い笑みを浮かべるエーリカ様に、むっきーって地団駄ダンスを踊るアナだった。


 んっと、どっからつっこんだらいいんだろう。


 王妹のエーリカ様が、男だの寝取るだの、すごく蓮っ葉っぽいことを言ってることか。

 それとも、とんでもない若さで審問官に抜擢され、学院では不動の主席で、天才の名をほしいままにするアナの、子供みたいな地団駄だろうか。


 とうする俺。

 数瞬の黙考。


 俺が出した答えは、無言のまますすっと部屋のすみに移動することだった。


 巻き込まれたくない。

 関わりたくない。


「逃げるな。卿はそれでも男子(おのこ)か」

「親友を見捨てないでよ!」


 おっかない師弟から責められた。

 どうしろっていうんだよ。




 そもそもアナやヴァルたちがいた教育機関というのが、王妹エーリカ殿下の肝いりで作られたモノなんだってさ。

 王立魔法学院で途中退学者が相次ぎ、卒業生の質も低下していたから。


 もちろん何度も内偵は行われたらしいんだけど、ローングリン以下教官たちはなかなか尻尾を掴ませなかった。

 事実として、退学者たちは一様に魔力量が小さかったから、授業についていけなかったのだろうという学院側の主張も、一応は筋が通っていたのである。


 けど、エーリカ殿下はどうしても不審を拭いきれず、人材を育成する組織を密かに作った。

 逸材が魔法学院に入学するより前に、スポイルされる前に、スカウトして育て上げる。


「東方の言葉で、アオタガイとか言うらしいわよ」

「とはいえ、学問の方までは時間をかけられなかったから、戦闘技術と内偵術がメインになってしまったがな」


 口々にアナと殿下が説明してくれた。

 完全に、魔法学院を探るためだけの育成機関ってことだね。


 堂に入ったことだけど、それだけ学院の闇は根深かったのだろう。

 再入学した生徒の数が物語っている。


「そして、我が手塩にかけた人材たちが魔法学院に乗り込んだ年に、君たちも入学した。これはもう天の配剤というべきだろうな」


 殿下が鼻息を荒くする。

 俺とアナは肩をすくめるしかないよ。

 再会は偶然でしかないわけだけど、運命と言われたらそんな気もする。


「幼い頃に惹かれ合い、しかし離ればなれになった二人。ふたたび出会って芽生えるのは、恋か、友情か」

「殿下、落ち着いてください。俺とアナにそんなロマンチックなエピソードはありません」

「五歳くらいのときの話ですよ。愛も恋も判るわけないじゃないですか」


 親友とかいって拳をぶつけ合ったけどさ、あのくらいの年齢って誰とでも親友になっちゃうじゃん。

 親友ごっこともいえるよね。


 アナが引っ越した後、俺は何度か手紙を出したけど、ほとんど戻ってきてしまった。

 でもさ、本気で調べようと思ったらいくらでも方法はあるんだよね。

 アナの親父さんだって、国に奉職してるんだから。


「つまらん! 卿らはつまらん! もっとこう! 燃えあがらんか!」


 理不尽に怒られた。

 なんだろう。

 エーリカ殿下って、すごく面白い人だな。


「ね? 師匠の相手って疲れるでしょ?」


 同意を求めるなって。

 頷いても否定しても地獄しか待ってないじゃん、それ。


「アンナマリーとリューベックが恋人でないなら仕方がない。本題に入るか」

「仕方がなく入られたんじゃ、本題さんも浮かばれませんよ……」


 俺とアナが恋仲かどうかなんて、話題のウェイトとしてものすごく軽いと思います。

 どうでもいいと断言しちゃって良いレベル。


「卿らが編み出した新魔法というか新解釈な、さっそく授業にも取り入れたいと思う。それにともなって、国王陛下から元D組の生徒ひとりひとりに、感状と一時金が贈られる運びとなった」

「……身に余る光栄にございます。殿下」


 あまりにも現実感のない話に、思わず一拍の沈黙が挿入されてしまった。


 感状ってのは、ようするに功績とか武勲に対するお褒めの言葉を書き記して、そこに玉璽を捺したもの。


 表彰って感じが近いかな。でも格式がまったく違って、玉璽が捺してあるってことは公式書類で、ちゃんと公式に編纂される歴史書に記載されるってことなんだ。


 歴史に名を残す、なんて言葉があるけど、俺たちは十五歳でそれを成し遂げちゃったわけ。現実感を持てってほうが無理だよ。


「事実、それほどのことを成したのだ。砂魔法にしても温度魔法にしても音魔法にしても、魔法省の連中が、少年のように目をキラキラ輝かせていたぞ」


 数十年ぶり新しい魔法のカテゴリが生まれたのだからな、と、エーリカ殿下が微笑する。



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