第14話 新生王立魔法学院
「リリー、お姉ちゃんが水魔法の神髄を教えてあげるわ」
「さわんな! べたべたすんな!」
「んーっ! かわいい!」
「頭なんでんな!」
メグとリリークローンがじゃれ合っている。
大変に仲が良くてけっこうなことだ。
まあ、チューまでした仲だしね。
「おまえらにはこれが仲良しにみえるのか! あとチューじゃなくて人工呼吸だから!」
リリクロが地団駄ダンスを踊っている。
あ、愛称はリリーが良いと俺も思うんだけど、本人の強い希望により、リリクロってことになった。
魔法学院改革後のクラスメイトである。
ほかにも、ヴァルことパーシヴァル、リュースことデイタリュースもクラスメイトになった。
これも、本人たっての希望らしい。
「もちろん私もね」
「いまさらアナたちが学ぶことなんて何もないと思うんだけどな」
アナを含めた三人とも審問官の任を辞して、もう一度勉強し直したいと希望したんだってさ。
『魔法因子』の存在は、もちろん隠されていたわけじゃない。
けど、その理念も思想も忘れられていたからね。
光魔法を操るアナをして、もういっかい基礎から勉強し直そうって思うくらいに。
「それにしても、一年生は十クラスまで増えちゃったね。笑うしかないって感じだよ」
大げさにリンゴが両手を広げた。
ローングリンが学院長だった時代に自主退学に追いやられた生徒たちに対して、もしもう一度学び直したいなら受け入れると声がかかったのである。
俺たちみたいに劣等クラスに振り分けられたりして不遇を託ち、学院を去って行った人たちだね。
なんとなんと、それは百五十人にも及んだのである。
復学を希望しなかった人もいるだろうから、ローングリンが学院長だった六年間で、いったいどれほどの人材をドブに捨てたのか想像もつかない。
アナからちらっと聞いた話だと、死罪の上お取り潰しって話も出てるんだそうだ。
国に与えたダメージは、そんだけ深刻だったってことだろうね。
ただまあ、復学した人たちは全員、一年生から再スタートってことになった。
こればかりは仕方がなくて、劣等クラスに入れられちゃってた人たちは、ろくな教育を受けさせてもらえなかったから。
その結果、俺たちを含めた一年生は、下は十五歳から上は二十一歳という、なかなかバラエティに富んだ年齢構成である。
「国王陛下に代わり、諸君らに詫びさせてほしい」
就任式におけるエーリカ学院長の挨拶は、謝罪から始まった。
国王アーキカ陛下の妹君たるエーリカ殿下といえば、齢二十一のとき特使としてミケイラス帝国に赴き和平を成立させた人物として有名である。
かの軍事国家の皇帝をして、義士といわしめたほどまっすぐな為人で、曲がったことが大嫌い、ならぬものはならぬものですってお人なんだそうだ。
「本来、詫びて済む問題ではない。時間は戻ってこないのだから。だが、あえて言わせてくれ」
言葉を切る学院長。
まるで罪をかみしめるように。
「復学おめでとう。どうか、奪われた時間を取り戻してほしい」
深々と頭を下げる。
一拍の時差をおいて歓声が爆発し、技能試験が行われた草原に響き渡った。
連呼されるエーリカ殿下の名前。
復学した人たちの中には声をあげて泣いている者までいる。
無能扱いされ、学内で蔑まれ、教官や他の生徒からいじめられ、打ちのめされながらやめていったんだ。
その悔しさは筆舌に尽くしがたいものがあっただろう。
そしてそれは、俺たちだったかもしれない。
「今度の玉は大丈夫そうだね。リューちゃん」
横に立って拍手を送っていたリンゴが話しかけてくる。
玉ってな……。
まあ、学生からみれば学院長ってのは王様にひとしいか。
しかも実際に王族だしな。
「とはいえ、たかがいち生徒が学院長と喋る機会もないさ」
肩をすくめる。
噂に違わぬ大人物そうだけど、たぶん関わることはないだろう。
「と、思っていた時期が俺にもありました」
「どうしたのリュー? ブツブツ言って」
並んで廊下を歩いていたアナがこちらに顔を向ける。
つぶやきが聞こえちゃったか。
「言いたいことはいくつかあるんだけど、なんで俺は学院長室に向かってるんだろうってのが一番だな」
「一連の事件に関してもう一度話を聞きたいって学院長が言ったから」
「うん知ってる。さっきも説明きいたし」
でも、俺が気にしているのはそこじゃないんだよ、アナ君。
なんで俺とアナの二人なのかって部分だ。
「そりゃあ、ぞろぞろ大人数で押しかけたら迷惑でしょ」
「だったら、メグとかだっていいじゃないか」
「リリクロとデートだっていってたわよ。姉御は」
「うそだ。絶対嘘だ」
じゃれ合ってるけど、リリクロなんてあからさまにメグにおびえてるじゃないか。
デートする関係になるまで、たぶあと四ステップくらい必要だよ。
「リンゴやクライは……」
「ヴァルとリュースと魔法論を戦わせるって言ってたわよ」
「うそだ。絶対嘘だ」
学術的なディスカッションなんてするようなやつらじゃないじゃん。
あきらかに、俺とアナに押しつけただけだよね。
魂胆がまるわかりだよ。
「仲間だと思ってたのに、裏切り者ばっかりじゃねえか」
「仕方ないわね。上役と話をするっていう苦行の前には、友情なんてはかないものよ」
すっごい達観した顔で語るアナだった。
普段から外交チャンネル役を押しつけられてるんだってさ。
話し上手で気さくで、折衝ごとも得意だからって。
「リューもすぐにそうなるわよ」
「やめて。半笑いで手招きしないで」
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