第13話 真相と、これから
ほどなくして王国正規軍が学院に乗り込み、教官たちを次々と拘束していった。
抵抗や逃亡を試みる人もいたみたいだけど、すべて徒労に終わったっぽい。
そりゃあ教官と軍人じゃ勝負になるわけがないよね。
あと、メグを暴行しようとしたC組の生徒たちも、取り調べを受けることになるそうだ。
退学という話にはならないけど、かなり厳しい処分が下されるらしい。
「現級留置かしらね。学内で婦女暴行の現行犯。女としては引き回しの上で逆さ磔でもいいとは思うんだけど、もうリューたちが罰を与えてるから、その分を引いてあげた感じね」
「俺らの暴力行為はいいのか?」
中庭に移動しての会話だ。
俺とアナだけね。
仲間たちは気を遣ったかのように見せて、審問官の相手を普通に俺に押しつけやがった。
「無辜の民を守るために振るった拳を罰する法は、ソルラント王国に存在しないわ。そして今後生まれることもないでしょうね」
民とは守るべきもの。
青臭い原則論だけど嫌いじゃない。少なくもと、無能な民は支配されるべき存在だなんていう考えよりはずっと好きだ。
「まさかアナが潜入していた審問官だったなんて、想像もしなかったよ」
「騙すようなカタチになってごめんね。リュー」
「いいさ。立場あってのことだ」
アナの謝罪に笑って応える。
王立魔法学院の綱紀を汗ためるため送り込まれた審問官たちは、わずかな疑いももたれるわけにはいかなかった。
もっとも能力が高すぎて、彼らで学年主席から第三席を独占してしまったわけだけどね。
こればっかりは仕方ない。
すでに任官している人たちだもの。学生と比較するのは無理というものだ。
「でもリューたちは、小細工なしの真っ向勝負で審問官二人を打ち負かし、一人と引き分けた。自分で体験して信じられなかったわ」
「引き分けじゃない。あのまま戦い続けたら俺が負けていただろうさ」
光の剣と砂の剣じゃ性能が違いすぎる。
体力や体術が互角だったとしても、最終的に俺は追い詰められていただろう。
「そこはまあ勝負は時の運的なやつだと思うけどね。少なくとも二人は負けたわけよ。ヴァルとリュースは修行し直すっていって聞かないし、上司はそいつらをスカウトしてこいってうるさいし、参ったわよ」
両手を広げて首を振ってみせる。
まあ、びっくりだよね。
劣等クラスと蔑まれ、教官からの指導すらなかった俺たちが魔法を使って戦ったんだから。
しかもそれは、教本などには載っていない魔法。
俺たち自身が試行錯誤の結果として編み出した魔法だ。
「魔族との戦いの初期、ろくな魔法も使えなかった人間たちがどうやって戦っていたのか、どうやって勝っていったのか、奇しくも君たちは証明したのよ」
「ああ。そういうつもりで戦っていた」
C組にしてもA組にしても、俺たちよりずっと強い魔力を持っている。
才能の差だ。
こればっかりはどうしようもない。
何をどうやったって逆転することはできない。
でもそれは、人間と魔族にもいえることなんだ。
だから人間たちは、少ない魔力で、つたない魔法で、どうやって魔族を倒せば良いか考えた。
滅亡の危機の中、必死に考えた。
その結果として『魔法因子』が編纂されたのである。
学院の創始者が、人類反攻の立役者が後世に残したメッセージは、諦めるな、だ。
それはいつしか忘れられ、強力な魔法をぶっ放せば強いって方向に向かってしまったけどね。
「アナにも『魔法因子』を読んでほしいな」
「ちょっと意外。リューたちの優位性が失われちゃうわよ?」
「それは俺も考えなかったわけじゃないけどな。でも俺たちの敵は人間じゃない。まして同国人では絶対にないだろ?」
国境では、いまも小競り合いが頻発し、兵士が傷ついたり死んだりしているのだ。
そしてその多くは魔法なんか使えない一般兵なのである。
魔導師や魔法騎士が威力の大きい魔法を使うまで、兵士たちが我が身を盾にして守っているような感じなんだ。
「やっぱりリューは傑物だったね。さすが私の大親友」
ベンチから立ち上がったアナが、ぐっと右拳を突き出す。
俺も席を立ち自分のそれをコツンとぶつけた。
「君たちのことを含めて、魔法学院は悪いようにはしないわ。審問官アンナマリーの名において約束します」
「よろしくお願いします。審問官閣下」
丁寧に頭を下げた。
ここから先は、学生ごときの出る幕じゃないからね。
王立魔法学院は解体されることはなかったが、学院長以下、教職員の人事は刷新された。
ちなみに新しい教官としてやってきたのは、アナが育った育成機関の先生たちである。
全員が最前線勤務を経験したことがある魔法騎士という、ものすげーおっかない布陣だ。
そんな人たちに鍛えられたら、そりゃあ強くなりますよね。
そして新しい学院長は、王妹のエーリカ殿下。
王国政府としては、かなり本気でてこ入れするつもりなんだろう。
もう一つ、魔力によるクラス分けは廃止されることになった。
呼称もAとかDとかじゃなく、単純に一組二組と数字の割り当てになる。
「でも、僕たちのクラスは、これまで通り劣等クラスって自称しようよ。自分への戒めとして」
というリンゴの意見に、俺たちは大きく頷いたものだ。
魔法の才能が皆無、とはいわないまでも、少ないのは事実だからね。
慢心は禁物ってことさ。
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