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第11話 予想通りとはいえ


 バカみたいに広い王立魔法学院の中央部、三階建ての管理棟が教官たちの本拠地だ。

 教室棟とはまたちょっと雰囲気が違うよね。


 で、管理棟の最上階に学院長室がある、らしい。

 なにしろ行ったことがないので、案内板だけが頼りだ。


「お金はかかってるんだろうけど、豪華ってより質実剛健って感じだよね、管理棟って」

「もとは軍事要塞として建てられたって話だからね」


 廊下を歩きながらの、リンゴとクライの会話だ。

 魔族と最前線で戦う魔法騎士を育成するための養成所が王立魔法学院の前身である。


 そのころの学び舎が管理棟として活用されているわけだが、軍事拠点としての機能を求められてもいたため、ものすごく頑丈に造られた。

 魔族たちの攻撃があっても耐えられるように、ここから反撃の狼煙をあげられるように。


「能力至上主義ってのは、その頃からの伝統ではあるんだよな」

「そうなの?」

「魔族は貴族だろうと貧民だろうと区別してくれないからな」


 メグの問いに俺は肩をすくめた。


 身分も貧富も老若男女も関係なく、魔族にとって人間は殲滅対象である。

 人間が一人でも存在するかぎり世界に平穏は訪れない、というのがやつらの基本理念だからね。


 俺は大臣だぞっ、なんて威張った瞬間に首をはねられるのがおちさ。


 だから戦える人間は重宝され、富貴と栄誉が与えられる。

 傭兵だった俺の曾祖父が棋士叙勲されたのは、まさにその武勇が認められたからだしね。


 でも、戦える人間を優遇するっていう能力至上主義は、いつの頃からか魔力量至上主義に変わっていった。


 いやまあ、わかりやすいんだけどね。

 魔法力が多いってことは、それだけ強力な魔法が使えるってことだもの。


 そして魔族と戦うには、魔法が最も強力な武器になる。

 肉弾戦でも戦えないことはないけど、人間の戦闘力は魔族のそれに比較して十分の一以下だから。これをひっくり返して勝利するのって、ありていにいって至難の業だよ。


 だから魔力量至上主義ってのは、そんなに間違ってないと思う。

 実際、入学するまで俺もそう認識していた。


 ところが、いざ劣等クラスに振り分けられると、ものすごく不公平に感じたわけさ。これはもう、視点の差としか言い様がないよね。


 で、『魔法因子』に触れて、基礎の基礎を学んだとき、魔力量至上主義は間違っているんじゃないかと思った。そして、その考えは間違っていないと技能試験で確信を持ったんだ。





「さて、なにか釈明があればきこうか」


 ローングリン学院長が、真っ白いあごひげをしごきながら言った。


 もう、開口一番といっていい単刀直入さで。

 広い室内、ソファを進められることもなく、学院長の執務机の前に立たされたままで。


 もはや感動すらおぼえる冷遇っぷりですよ。


「釈明とはなんのことでしょうか? 学院長閣下」


 敬意を払うべき必要を鼻紙一枚分も感じなかったので、俺は腕を組んだまま尋ねる。


「なめるなよ青二才。貴様の家ごと叩き潰すぞ? たかが中級騎士の小せがれが」


 すごむ老人だ。

 チンピラみたいな口上だね。


 たしかこの人、子爵家の出身のはず。

 偉そうにしたって、貴族社会じゃたいして上の方でもないんだよね。


 魔法学院の長っていう顕職に就いてるから、王宮とかでも一目置かれるんだろうけど、それはこの人物自体の評価じゃない。


「身分を問わない学び舎の長たる方が、地位をかさに脅迫ですか。これは新機軸ですね」


 俺が唇をゆがめれば、ローングリンのこめかみあたりにびきっと青筋が立った。

 まーあ、軽侮されることに慣れてないんだろう。


 失敗も挫折も味わったことのない人生を送って老人まで生きてきたんだろうから。

 うらやましいねえ。


「きさま……」

「そもそも釈明とはなんのことです? そこから説明してくれないと判りませんよ。学院長閣下」


 まあまあとなだめるようにクライが取りなした。

 平和主義者だな。このまま頭の血管が切れて倒れるまで怒らせてみようと思ってたのに。


 理知的な黒い瞳で見つめられ、ローングリンがふうと息を吐く。

 冷静さを取り戻したようだ。


「どんな不正をおこなって勝ったのか、ということだ」


 吐き捨てるように決めつけてくれる。

 なんとこの人、俺たちが不正をしてC組とA組を連覇したと思っているらしい。

 そんなことが可能かどうか、ちょっと考えれば判るだろうに。


「勝てるわけがないのだ。一般人に毛が生えた程度の魔力しか持たないお前らが、俊秀を集めたAクラスに」


 そりゃあ魔力量そのもので勝負したらその通りだろうけどね。

 でも、それは実戦とも演習ともいわない。

 ただの魔力計測だ。


「事実として、俺たちは勝ちましたが」

「だからそれが不正だと言っている。リューベックが主席のアンナマリーと恋仲だという噂もあるしな」


 うっわ。

 なんだそれ。


 もし仮に、百歩ゆずって俺とアナが恋人だったとしても、あいつは絶対に手抜きなんかしない。

 相手にも自分にも不誠実だからだ。


「ゲスの勘ぐりはやめろよクソじじい。俺のことはともかく、アナはあんたらが選んだ学年主席だろうが」


 押し殺した声で告げる。

 仲間や友人を侮辱されて、へらへら笑っていろなどと、俺は代官様からも親父からも教わらなかった。


「なんだその態度は! 退学処分にするぞ!」


 ふたたび激昂する学院長。


「いいえ。学院を去るのはリューではなくてあなたよ。ローングリン」


 声とともに、ばんと学院長室の扉が開け放たれる。




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