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第10話 決着、そして


 光の剣と砂の剣が衝突し、後者が中ほどから焼き切れた。


「さすがに無理か!」


 俺は跳び下がりつつ、目の前に砂の網を展開する。


 が、アナは突っ込んでこない。

 むしろ慎重に距離を取った。


「網状に広がった砂。攻撃にも防御にも使えそうもないけど」

「でも様子を見る。クレバーだな、アナ」


「子供だましにしか見えない行動には裏があるものだからね」

「その通りだ」


 俺は左手を振ってサンドネットを解除する。

 突進してこないなら、薄刃を並べた罠なんかに意味はない。維持するだけでも魔力を使ってしまうしね。


 さて、どうするか。

 アナが持っているのは、光魔法で具現化したマジックソードだと思う。


 そして俺のサンドソードをたたき切っちゃうくらいの切れ味だ。

 これはさすがにまともには打ち合えない。


 俺はぺろりと唇を湿らせる。

 今のところ、アナは光の剣以外の魔法を見せていない。しかし、これが彼女の技のすべてだと考えるのは浅はかすぎるだろう。


 まず間違いなく遠距離攻撃もある。


「そしてそれは!」


 最大まで瞬発力を高め、一気に距離を詰める。

 どおんと真後ろで何かが着弾する音が聞こえた。


「やるわねリュー! なんで判ったの?」


 突き出した砂剣を危なげなくさばきながらアナが笑う。

 危なげなくっていうか、光の剣とぶつかるたびに砂剣はボロボロと崩れていくから、そのたびに再構成しないといけないんだけどね。


「足を止めた相手を攻撃しないほど甘い相手じゃないだろ。アナは」

「正解よ。雷の線(サンダーボルト)!」


 四方八方、前後左右から光の蛇が襲いかかってくる。


「くっそ!」


 体を投げ出し、ごろごろと転がりながらの回避。

 無様というなかれ、たぶん一発でももらったらそこでおしまいなのだ。


砂盾(サンドシールド)!」


 どうしても回避しきれないやつだけ、砂の盾を出現させて防ぐ。

 が、一秒も保たずに貫かれる。


「デスヨネ。知ってました」


 けど一秒あれば充分。

 着弾点から身をかわす。


 攻め手がない。

 勝ち筋が見えない。

 けど、たぶん俺の勝ちだ。


「あなたこそクレバーな戦い方ね、リュー」


 ふっと笑ったアナが右手の光の剣を消した。


投了(リザイン)よ」

「わかった。受け入れる」


 そういって俺も立ち上がり、砂を腰の革袋に戻した。


 周囲を見渡せばアナを囲むように、リンゴ、クライ、メグが等距離を保って立っている。

 それはつまり、三人は相手を撃破したってこと。


 ここからアナは四人を同時に相手取って戦わなくてはいけないってことだ。


 しかも俺以外の三人は並の三人じゃない。

 A組の選抜メンバー三人を撃破した強者たちなのである。


 そんな連中と数的な劣位にある状態での戦闘継続は意味がないと一瞬で判断したわけだ。

 本気でクレバーだよね。


「仲間が勝つと信じて、時間を稼ぐ戦い方をしたの?」

「そんなわけないだろ。本気で、勝つつもりで戦っていたさ」


 そしてもし勝ったら、その足で仲間の援護に向かうつもりだった。

 結果として俺が一番苦戦して、仲間たちに助けてもらったんだけどね。みんな、考えてることは一緒だったってことさ。


「良い試合だったわね。リュー」

「次は負けないように努力するよ。アナ」


 差し出された右手を握る。

 試合には勝ったが、俺とアナの勝負でいえば完全に負けだ。

 まったく勝ち筋が見えなかったから。





 技能実習は、大方の予想に反してD組の優勝で幕を閉じた。


 そして魔法学院側は、手のひらをくるっとひっくり返して、成績の悪かった生徒を除籍・放校処分とする条件を、なかったことにしちゃった。


 まあ、判っていたことだけどね。

 あれは、俺たち劣等クラスがポロ負けしたときにだけ有効な条件だろう。


 メグに乱暴しようとしたC組の生徒たちがお咎めなしだったことを思い出しても、この措置は驚くには値しないよ。


「怒るには値するけどね」


 ふんすとリンゴが胸を反らす。

 技能実習のあと、俺たちの評価がとくに上がることはなかった。


 ただ、他のクラスの生徒からの目は変わった。

「チンピラどもが」ってものから「気色の悪いバケモノどもめ」って目にね。


 まあ、一目置かれれば嫌がらせされないっていう目的は、一応は果たしたわけだから、恨む筋ではないんだけどね。


「でも、今度は学院長からの呼び出しよ。嫌になっちゃう」

「服装を変えれば担当教官から、試験で優勝すれば学院長から、まさに呼び出し人生だね」


 メグの嘆きにクライがおどけてみせた。

 まあ、おどけないとやってられないよね。


 間違いなく、習ってもいない魔法でどうやって勝ったのか、根掘り葉掘り訊かれるだろうから。

 普通にめんどくせえ。


 あと、『魔法因子』のことを正直に報告したら、俺たちの優位性が失われるって危険もある。


「かといって、隠しておくってのも筋違いなんだよね。図書館の本はみんなの共有財産なわけだし」

「魔法の発展そのものは、歓迎すべきことだしな」


 リンゴの言葉に肩をすくめる俺。


 王立魔法学院は俺たちのプライドを潰すためにあるのではなく、逆に俺たちの自尊心を満足させるため存在するわけでもない。

 魔族の脅威から国を守り、かつ国を導く人材集団を育成するためにある。


 だから、新しい魔法や戦法は共有しないと意味がないんだ。


 判ってる。

 判ってるんだよ。


「けど、せっかく編み出した魔法、おしえたくねぇぇぇぇ」


 心の底からの俺の嘆きに、リンゴ、クライ、メグが大きく頷いた。



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