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第1話 絶望スタート!


 魔法の才は万人に一人っていわれている。


 もちろん厳密に統計を取ったわけじゃないだろうけど、そのくらい稀少な才能ってことだ。


 自分にそんなものがあったら、そりゃあ天狗になるだろ?

 子供の頃から神童だなんて祭りあげられていたら、調子に乗らない方が謙虚すぎるくらいだと思う。


 もちろん俺も例外じゃない。


 人口五千ほどの地方都市で、駐留している中級騎士の息子として生まれた。一応は貴族階級ではあるけれど、かなり平民に近い家柄である。

 でも、生まれてすぐの祝福の儀で、魔法の才能があることがわかったらしい。


 物心ついたときには特別扱いされていた。

 末は博士か大臣かってね。


 で、十五になる歳に意気揚々と王都にのぼり、王立魔法学院の門を叩いたわけだ。


 そして自分が井の中の蛙だってことを嫌ってほど思い知らされたよ。

 広大なソルラント王国には俺程度の才能なんていくらでもいた。むしろ俺なんかは下の方だった、とね。


 生まれてすぐの祝福で特別扱いが決まったらしいけど、今度は入学時の選抜で特別扱いが決まった。

 逆方向にね。


 放り込まれたのはDクラス。

 通称は劣等クラスである。


「末は大臣にも博士にもなれそうもないねえ。せいぜい中級官僚だよ」

「違いない」


 身も蓋もないことを言うクラスメイトのアップルリバルに、俺は肩をすくめて見せた。


 彼もまた郷里の期待を一身に背負って王立魔法学院に入学したクチである。

 俺と同様に。

 現実ってやつに叩きのめされるところまでそっくりだ。


 さて、自己紹介が遅れたが俺はリューベック。この春めでたく魔法学院(アカデミー)に入学し、初日に絶望を味わった新入生である。

 成長期待値は低と評価された。


「田舎の神童とやらの実力なんてそんなもんだ、とでもいうような教官たちの目、冷たかったよねえ」

「つらかった。あんな大人の目、はじめてだった」


 茶色い髪と瞳のアップルリバルも、やっぱり成長期待値が低かったから劣等クラスに入れられたわけだ。


 泣きそうになりながら教室に入った俺と、同じく泣きそうな顔をしていたアップルリバルは、すぐに意気投合した。


 ほとんど同じ境遇だったからね。

 シンパシーも強かったんだと思う。


「それでも階級社会の真ん中より上、ではあるんだけどな」

「言うなよリンゴ。俺はそれすら信じられなくなってきた」


 リンゴというのはアップルリバルの愛称だ。なんでそんな愛称なのか判らないが、本人がそう呼んでほしいと主張したのである。

 愛と親しみを込めてリンゴと呼んでくれってね。


 ともあれ、魔法学院というのは軍でいうと士官学校のようなものだから、卒業すればすぐに幹部待遇だ。

 どんな部署に配属されたとしても、何人かの部下がいるスタートになるだろう。


 けど、現状の教官や同学年の生徒たちの蔑んだ視線を思い出すと、そんなのは幻想だと思えてくる。


 露骨に見下してくるんだよ?

 ゴミが、とか、クズが、とか聞こえるように陰口たたいてるし。


「たぶんだけど、ほとんどが卒業するより前にやめるんじゃないかと思うよ。リュー」


 皮肉な口調で皮肉なことを言うリンゴ。

 まあ、俺も概ね同意見である。


 だって、入学して十日しか経ってないのに、すでに辞めたいもん。俺自身が。


 郷里では天才だ神童だと持ち上げられていたからね。そこから手のひらを返したようにゴミクズ扱いされるんだから、気鬱になったってまったく不思議じゃない。


 そうならなかったのは、リンゴがいてくれるからだ。

 傷のなめ合いっていうと言葉は悪いけど、同じ苦しみを共有できるってのは、本当に心が救われる。


「実際、きてない生徒も何人かいるな」

「だねえ、カラになってる寮の部屋もあったよ。朝」


 リンゴが肩をすくめた。

 退学したってことか。入学してからまだ十日しか経ってないのに。


「帰れる家があるってのは、うらやましいけどさ」


 これは皮肉でも何でもなく。


 町一番の神童を王都に送り出すため、両親だけじゃなくて代官様や神官様もすごく尽力してくれた。もちろん町の人たちもね。

 親身になって勉強を見てくれたり、子供たちの仕事である水汲みや雑草取りを免除してもらったり。


 いつか偉い人になって、故郷に錦を飾ってくれよってね。


 期待を一身に背負ってアカデミーに入ったのに、劣等生の烙印を押されたから逃げ帰ってきましたなんてできるわけがない。


「石にかじりついても卒業資格をとらないといけない」

「ゆーて、現状でどう勉強するのかって話なんだけどねえ」

「それな!」


 俺たちの教室に教官が顔を出したのは一回。クラス分けの日の朝だけだ。

 で、お前らみたいな劣等生に何か教えるのは時間の無駄だから、適当に図書館の本でも読んでいろってのたまったのさ。


 教室はもう唖然と呆然に支配されたね。

 すすり泣きを始める女子生徒までいた。


 そんなわけで、今日もめでたく自習だろう。もちろん一日中ね。


 なにをしに学校にきてるんだって話だよ。

 これで単位認定試験に合格できたら奇跡だって。


 劣等生と決めつけられた上に、教え導いてくれる教官もいない。俺の学院生活は、わりと暗雲立ちこめるスタートだ。

 



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