影を漉くみぞれ雪
東京で夜、雪が降っていた。
みぞれ雪だった。
東京駅でずっと、その光景を眺めていた。
水気を含んだ雪が落ちていく。それ自体重い。不器用に落ちていく。決して軽快ではない。
そんなみぞれ雪が、丸の内一帯を包み込んでいた。
丸の内の高層ビルから放射している光が、みぞれ雪の霧に包まれて、茜が差したようになっていた。
鋭い光線が霧に吸い込まれ、柔らかく拡散し、朧な形になって広がっていた。景色全体にどこか、淡いものがあった。
そんなみぞれ雪は、この東京の夜の影を、漉き続ける。
どろどろの紙を伸ばすように、広がっている暗黒をみぞれ雪の降り続ける筋が、漉いていく。
夜の闇から汚れが落とされ、灰色がかった透き通った闇は一層、鮮度を持っていた。儚かった。
雪はレールの上に不時着し、すぐに消えていく。もはや波紋を広げることもない。
しんしんと、重苦しく降っては、瞬時に、儚く、消えていく。悲しくなる。
いつかこの命に、終わりがやってくる。その終わりに向けて、私たちの心はみぞれ雪となって、重く降りしきっている。
終わりはこの光景のように、暗くよどんでいる。そこに着地した後、息は切れ、すぐに消えていく。
それが、人間の一生なのか。
雪は儚い。温かみもなく、冷たさしか感じられず、儚い。
そんなみぞれ雪は、終わりに向かって降りしきり、全ての影を漉いていく。