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自然詩文  作者: 足利直哉
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緑の精霊

 高原のある一本道を歩いていたときのことだった。


視界全体にあるのは果てしなく広がっている高原地帯で、高原の丘陵が遙か彼方まで広がっていた。


大地がむき出しになった部分や、緑に覆われた森の部分が互いに入り交じって、複雑な濃い緑の織物のようになっていた。


高原の景色は複雑だ。そして青空がどこまでも広がっていて、果てしない青と果てしない緑が地平線の彼方で接していた。


そんな光景が見渡される一本道を、ずっと歩いていた。


誰もいなかった。そこには人間の世界はなく、森羅万象しかなかった。


だからこそ、自分の意識は次第に森羅万象に溶け込んでいった。


青空の彼方で輝いている太陽から、たっぷりと陽の光が注がれて、それが一体に茂っている草木を輝かせていた。


生い茂った草は、夏の間の雨をたっぷりと吸い込んだせいか、ものすごく長い。


それらは風に吹かれて、艶のある日の光の輝きを自らの緑と共にうねらせながら、風とともに揺れていた。


草の一本一本が、海の波の揺らめきのように、しなやかに揺れていた。


静けさが辺りに満ちていて、その静かな雰囲気の中に、茂った草が揺れるときに響くさらさらとした音が入り交じっていく。



 そんな光景に浸っていると、この一体に無数の緑の精霊がいるように思われた。


これらの草木は全て精霊たちの住処であり、精霊は蛍の光のような、透き通っていて目に見えない光を発しながら、揺らめく草地の中で静かに息をして憩っているように思われた。


果てしない雄大な青空と、静かに揺らめく緑の世界のただ中で、精霊たちの息吹が瑞々しく感じられる気がした。


きっと自分の感覚の届かないところで、それらの精霊たちは静かに輝き続ける。


粉雪が淡く降り続けるようにして、それらの精霊は軽くふんわりと空に向かって浮かび上がって、草のあたりを揺蕩い続ける。


そんなことを想像していると、自然と自分の心は、その精霊の息吹に、だんだんと包まれていくような気がする。


その息吹は、命としての温かみを持っていながらも、高原特有の冷たさも持っている。そんな息吹に、だんだんと包まれていく。


草木はいつまでも揺れ続ける。


海がいつまでも揺らめき続けるように、その草の海はいつまでも、精霊たちの揺蕩いととも静かに、揺れ動き続ける。


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