Lost Corner
今、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を読んでいるのだが、「ロストコーナー」という言葉が出てきた。
この言葉はそのまま、米津玄師のアルバムのタイトルになっている。このタイトルを付けたのは、この世で漂流している人の漂着所に、このアルバムがなってほしいから、とのことだった。
そのことを知っていたから、読んでいて、ものすごく印象に残った。
自分もきっと、ロストコーナーを目指している。探し求めている。ひとりぼっちの、誰からも必要とされていないような人生において、必死に、探している。
でも正直なところ、そんなところは、まだ見いだせそうにない。自分が行き着く場所など、想像できない。
そこに誰かがいるのかどうかもわからない。そして、自分が果たしてそんなところを、そもそも求めているのかもわからない。しかし自分はきっと、自分なりのロストコーナーを、探し求めている。
夕暮れ時、夏風に吹かれながら、ひまわり畑の上り道を登っているのを想像する。
ところどころこびりついた泥に覆われたスニーカーを履いて、登り続ける。
風はさわやかで、蒸し暑さはそこにはない。
夕暮れの日差しを受けて、ひまわりが黄金色に輝いて揺れている。
かすかに潮騒が聞こえる。重い音ではなく、さらさらとした音だ。
その先に、青空を突く一点の星のような、何か光のようなものがあるように思える。
坂道を登っていった先に、そのロストコーナーの光があるような気がする。
その光の輝きは鋭いが、まだ遠い。
しかし自分はきっと、その輝ける漂着所に向けて、今まさに歩き続けている。
この旅路は、いつになったら終わるのだろうか。
無数のひまわりは揺れ続ける。それを横目に、光を浴びて、足取りは進んでいく。