がらくた
街を歩いていた。
無数の人が通り過ぎる。無数の目が通り過ぎる。騒音に紛れて音もなく、通り過ぎていく。
嫌だ。
あらゆる目が自分とは知らないところへと向かっていく。目を見るのが嫌だ。
僕の耳に語ってほしかった。しかし目でしか語らない。何も聞こえない。
言葉のないまま、目で見殺しにして、遠ざかる。
無数の目が通り過ぎる。
痛む。
同級生から見殺しにされてきた。社会に見殺しにされてきた。もうあらゆる人から見殺しにされてきた。
米津玄師の「がらくた」を聴きながら歩いているとそうして、見殺しにされたということがひしひしと感じられる。
ここには誰もいない。自分はどこにもいない。そして、何もない。
いつから自分は、何でもなくなってしまったのだろうか。
空っぽだ。
あなたはどこにいるのだろうか。
壊れてしまったあなたに、語りかけたい。語りかけたいからだ。
あなたはどうしているだろうか。見えないところでどうして生きているだろうか。
僕はあなたという存在に触れることすらできない。あなたが見えない。
しかしきっとあなたはどこかにいる。
見殺しにされて、傷つけられて、壊されて、ぶっ壊れて、身体を引きずって、生きている。
自分もそうだ。
身体の内側に何か重いものがある。
鉛のゼリーが溜まっている。重苦しく、錆び付いていて、嫌に粘っこくて、窒息させる。
窒息しそうだ。排出したい。でもできない。い
つまでも、この重苦しいものを抱えて歩いていく。負担だ。
そんな自分はまるで、ネジが所々ねじ曲がって突き出たロボットのようだ。
不良品だ。
壊れた機械の軋みを上げて歩き続ける。
聞こえない軋みを上げながらどこかにいるあなたを、確かに感じる。
人間だとも見なされないし、汚いし醜いし、相手にされない。足を引きずって不器用に歩き続ける。
きっと笑われる。生きていくのが怖い。
あなたはそんな、ロボットか。
どこに行けば良いか分からない。今日も見殺しにし続ける目を躱して歩き続ける。
悲しい。
あなたは、誰かから必要とされたいと思うだろうか。
必要とされるなど、ありえない。一人で歩き続けなければならない。
一人で、寂しさを噛み殺して、腰に力を入れて、歩かなければならない。
不良品ロボットのがらくただが、人間だ。
生きる責任がある限り、この運命を受け入れなければならない。
見上げる。青空だ。
のっぺりとしていながらも、決して平坦だと思わせない、奥行きがあって果てしなさを思わせる空だ。
光にあふれて輝く表面がまぶしい。
そんな表面を、自分はあたかも地面のように、眺め続ける。
心は汚くないが、そもそも土臭いから嫌われる身として、上を見上げる。
青空は、なんて素晴らしいのだろうか。こんな醜い自分とは比べものにならない。
壊れてしまった自分よりも遙かに雄大で、どっしりとしている。尊重できる。
青空は、今まで人類が生き延びてきてずっとそこにあったというのに、誰も殺さなかった。
その色で人を殺すことはなかった。むしろ心を包み込んできた。
青空を見上げて、殺されるなどと、誰が思っただろうか。
この果てしなく青くて温和な世界を見上げていると、そうは思わない。
いつか、この青空のような世界に行きたい。
この世界ではきっと誰も見殺しにされずに、生きられる。いつも穏やかな気持ちで生きられる。
廃棄物のように捨てられた存在として、ささくれ立った心を抱えて生きる必要もない。
青空に行きたい。もう誰も殺されてほしくない。
きっとまだたくさん殺されるだろう。
しかし、もう殺さないでほしい。




