森の中の密やかな木々
ある高原の道を歩いていたときのことだった。
その高原の道の先は全て開け放たれていて、空と草地しかなかった。
以前紹介した緑の道とは違う道だったのだが、そこでも、世界の全てが解放されたときに感じる爽やかさのようなものを、感じ取ることができる。
その道に沿って、森が続いていた。開け放たれた視界の遠くに、密生していた。
斜面に夥しいほどの、こんもりと茂った緑の木々が広がっている。そこで木々が、密やかに整列して立っている。
その森の中にうっすらと、急流の流れが見える。勢いがあって、少ししぶきを跳ね上げながら、その川は高原の、水のある一帯へと流れていく。
その水の勢いと共に、一本一本の木々の、密やかな息が感じられた。
思えば、自分はこんな感じの生き物だと思う。
今まで自分は何度も、自分のために生き続けることを主張し続けてきたのだが、この、鬱蒼とした森で生きている木々はどれもこれもが、自分のために生きている。
この水の豊かな大地に確かに根を下ろして、沈黙してそこにある。
人間はなんやかやといろいろと主張するものの、これらの木々は何も主張することなく、その土地柄に根ざして生きている。
思えば、人間の世界はこんな鬱蒼とした森であり、自分はその暗がりの中に生い茂って影を潜める、一本の木なのである。
そして僕という名の木は、森に対して何も主張することがない。
ただ他の木々と肩を並べて、薄暗がりの世界で静かに息をし続ける。
自分のために生きるというのは、そういうことなのではないか。
僕は森の中で育つ一本の木なのである。
そしてその木々の息の先には、この高原のような雄大で果てしない世界が広がっている。




