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苦手な方はご注意ください。

マヴロス大陸でおこったこと

【時系列・概要版】少女は巻き戻りに気づかない

作者: おおらり

タイムリープものです。連載版は2周目からはじまりますが、概要版は1周目からはじめて、本編96話分をまとめています。結末まで書いているあらすじです。

鬱展開のあるビターエンド作品です。


連載版: https://ncode.syosetu.com/n7970jb/


一、


 魔術の国コルネオーリの第四王子 アステル・ラ・フォティノース・コルネオーリは、『魔術院の引きこもり』で有名であった。金髪碧眼で見目麗しいが、社交界に興味がない。魔術に関しては天才だがそれ以外のことに興味がない。コルネオーリ城内にある魔術院という研究機関から出てこない。昼夜逆転の生活をして、床で寝ている。権力に興味がなく、社交性というものがひどく欠けている……等々。



 コルネオーリの王子たちは、第一王子から第三王子までが正室の子で、第四王子のアステルのみが側室ミルティアの子であった。


 ミルティアは王宮魔術師をしていて王に見染められた女性で、魔術院の院長クロコスの娘でもあった。クロコスは伯爵位だったが、もともと他国の平民出身で、魔術の腕一本で立身出世し婿養子に入った身だった。


 そのため、アステルは平民の血の流れる王子、また唯一の妾腹として冷ややかな目で見られながら幼少期を過ごした。



 しかし、アステルは平気であった。アステルには好きなもの――物語と魔術があったからである。そして、従者で友人のルアンがいた。


 ルアンは5歳のときに、行き場をなくして城に住みついていたところをアステルに拾われた。ルアンは身なりを整えると、紺色の髪に紺色の瞳の可愛らしい子供になった。


 7歳のアステルはそれを見て、目を輝かせた。


「わ! きみ、ルアンみたい!」

「ルアン?」

「ぼくが大好きな物語だよ。ルアンは、夜空の色の髪と瞳を持っていて、闇夜に紛れてひとを助けに行くんだ!」


 大好きな物語の主人公の名を贈り、本を読むのが苦手なルアンにたくさんの物語を語り、ルアンが毒の実を食べて倒れれば「死なないで」と泣くアステルに、ルアンは忠誠心を感じるようになる。


 アステルは魔術の才に恵まれた変わり者の第四王子、ルアンはその護衛騎士として成長していく。



二、


 19歳となったアステルの元に、6歳年下の『今代の聖女』との縁談が降ってくる。コルネオーリの辺境伯の姫である聖女との婚約は、アステルにとって青天の霹靂だった。

 知らぬ間に双方の父親が『婚約と婚姻の同意書』にサインをしているという状況にアステルは愕然とする。


「魔力に優れた者と神聖力に優れた者が子を成せば、強大な力を持った子どもが産まれるはず」


 国の軍部が仕組んだ結婚の、動物実験のような理由に腹をたてながらも、アステルは婚約者の姿絵をもらう。それは姫が10歳のときに描かれた姿絵で、ルアンは「こんな小さな子と寝るんですか?」とアステルをからかう。


 コルネオーリは成人年齢が16歳のため、「辺境伯も、成人までは待つだろう」と悠長に構えるアステルのもとに、14歳になったばかりの姫が送られてくる。



 辺境伯姫シンシアは、癖のある白く長い髪に青みがかった灰色の瞳の美しい少女だった。


 アステルはシンシアに、「結婚するからには、ぼくはきみを大切にするつもりだよ」と約束をする。



 シンシアは莫大な神聖力を持つが「太陽の光に嫌われる病」を持ち、外に出ることができず、おまけに弱視でほとんどものが見えなかった。


 アステルはシンシアのために魔術院の地下に光の届かない素敵な部屋を作り、全力で『シンシアの病を克服するための魔術の研究』に打ち込む。


 しかし、魔術の研究のためにシンシアと向き合う時間がとれないでいると、シンシアが涙をこぼすのに遭遇する。


「アステル様が毎晩、床で寝ているので、どうすればいいかわからないのです」


 アステルは、まだ14歳のシンシアが辺境伯から「はやく子どもを作るように」と言われ、アステルの寝所に忍びこむように言われていたことを知り、怒りを覚える。

 シンシアが小柄なこともあり、出産に耐えられそうにないのに「そんな軽率なことはできない」とシンシアを諭す。


 このときまだ、シンシアに好意がなかったアステルは『シンシアが16歳になり、結婚するまでは手を出さない』と約束をしてしまう。


 母ミルティアが国王に気持ちがないままにアステルを宿したことを知っているアステルは、(父親のようになりたくない)と少年期からずっと思ってきた。そのためシンシアが妻になるまでに、シンシアと愛のある関係になりたいと思い、アステルは形からシンシアを大切にするようになる。


 そしてそのうち、シンシアに本当に恋をしてしまう。



三、


 あるときアステルは、シンシアが辺境伯ルーキス・ラ・オルトゥスに虐待を受けていたことを知る。虐待はシンシアが11歳のときにはじまった。


 理由は『辺境伯がシンシアから神聖力を追い出そうとしたから』で、この結果、無理に太陽のもとに連れ出され、シンシアは左足に消えない火傷の跡を有することとなった。このためにシンシアは丈の長いドレスやワンピースばかり着ており、雨が降るとシンシアの火傷の跡は疼いた。


 シンシアは「回復魔術は時間を巻き戻している」と指摘をし、「時間が巻き戻るのであれば、お母様と塔で暮らしていたときに戻りたい」と告げる。「戻って何をしたいの?」とアステルが聞くと、家出だと言う。「家出されたらシンシアと出会えない」と漏らすアステルに、ふたりで巻き戻れば良いのだとシンシアは微笑む。


「ふたりで巻き戻ったら、アステル様が、私を迎えにきてください」


 アステルは、過去に戻る魔術を余暇時間に考えてみることにする。しかし、人間が用いる魔術には『触媒(魔力がこもったもの)』を捧げることや『代償(魔力がこもった魔術師自身の血や髪を、触媒として捧げる行為)』が必要である。


 アステルは(過去に戻る魔術なんて、自分の命と体を代償としたって到底足りない)と考える。



四、


 アステルの努力の果てに、魔術研究の成果がでて「シンシアの視力をよくする魔法」続いて「太陽の光を防ぐ魔法」が完成する。アステルはこれを紫色の魔石のネックレスに込め、『シンシアのお守り』と呼んだ。


 シンシアはお守りを首から下げて、生まれてはじめて太陽のもとに立ち、アステルに花畑に連れて行ってもらい、鳥を指さして本当に嬉しそうに笑った。


 シンシアは、アステルのことを(自分のすべてを救ってくれた人だ)と考えるようになる。


 アステルの誕生日に、シンシアは「月と星の耳飾り」を贈る。

 アステルはこれに込める魔法として『帰還の魔法――「帰りたい」と言うと、指定した場所に連れて行ってくれる魔法――』の研究をはじめる。


 この頃にはアステルとシンシアは仲睦まじい恋人になっており、紅葉の綺麗な湖が有名なスペンダムノスという街にふたりで旅行に行く。

 アステルは、そのときにはじめてシンシアの左足の火傷の跡を見ることになる。



 スペンダムノスには「ウィローの木」と呼ばれる、海の外からきた木があった。シンシアは、辺境領にもウィローの木があり、シンシアが暮らした塔の小窓から見える位置にあったのだと話す。


「海の向こうでは死者を想って、灯りをともす木なのです」


 シンシアはアステルにウィローの木について話をする。


「この木は、愛することは悲しいこと だと伝えているのです」

「愛することは、悲しいこと? ぼくはそうは思わないけれど」

「愛は永続的なものではないからでしょうか?」

「ぼくは、愛は永続的なものだと思う」


 ムキになった様子のアステルに、珍しくシンシアは自分からキスをする。そして「いつか離れ離れになるときがくるとしても、それはずっと先のことですよ」とシンシアはアステルを諭す。



五、


 冬になり21歳のアステルと16歳のシンシアは結婚をする。アステルは結婚式の日に、シンシアの父、辺境伯ルーキス・ラ・オルトゥスと初めて出会う。


 渡り廊下でふたりきりとなったとき、ルーキスはアステルを「期待外れ」だと罵る。


「あの()は太陽の光を克服しなくてよかった。

 あなたがたは、はやく子どもを成すべきだった」


 アステルはどちらもシンシアを想っての行動だったので、ひどい父親だと嫌悪するが、ルーキスはさらに続けた。


「きっと貴方は、貴方の思う『正しさ』を選択し続けてきた。しかし貴方が正しいと思うことが、つねに、正しい道につながっているわけではない」


「貴方はいつか知ることになる。道は無限にあり、正しいと思って選んだ『選択』が正解だったのかどうかは、あとになってからでなければわからないということを」 



六、


 春先、シンシアが聖女として役目を果たさねばならない『魔病討伐』が近づいてくる。


 ふたりが暮らすコルネオーリ国は、マヴロス大陸に位置する。マヴロス大陸は元々魔王カタマヴロスのものだった大陸を、魔王を討伐したパーティーの8名 それぞれが王となり分けあった8つの国で構成される。しかし8人の王は、大陸の中央部に位置する魔王城とそのまわりのわずかな土地(旧魔国とよばれる)には手出しができなかった。


 魔王が城に『魔王の遺骸』と呼ばれる巨大な呪いを残していったためである。

 

 『魔王の遺骸』は、放っておくと呪いを振りまく。魔王の呪いに触れると、大陸の民は『魔病』という、ゆるやかに死に至る病にかかってしまう。


 そのため、大陸の民の多くが信仰するアサナシア教という宗教の団体が先に立ち、100年ごとに『魔王の遺骸』の封印の儀式を行っていた。



 魔王の遺骸の封印は、代々、『今代の聖女』の役目であった。つまり今代は、シンシアの役目である。


 シンシアを支えるべく魔病討伐にアステルも参加しようとするが、魔力のある人間は魔王城内に入ることが許されておらず別部隊となってしまう。

 そのためアステルは、聖騎士であり魔力を持たないルアンにシンシアを託す。



 シンシアは(本当に自分ひとりの力で封印を成すことができるのか)の自信がなく、「怖い」とアステルに打ち明ける。


 アステルは「ぼくも王子に向いていないし、きみも聖女に向いていないなら、逃げちゃおうか」と、魔病討伐で何かあれば、駆け落ちしようと提案する。


 帰還の魔法でスペンダムノスへ赴き、そこからアステルの祖父の故国キアノスのアズールの家を目指そうと話す。


「シンシアにとってのお母様の木(ウィローの木)で落ち合おうね」


 そう約束して、アステルは月と星の耳飾りにスペンダムノスへの『帰還の魔法』を込める。

 シンシアは「星の耳飾り」を。アステルは「月の耳飾り」を。お互いと想って持ち、魔病討伐に臨むこととなる。



七、


 アステルは封印の儀式への同席を求めるために、エオニア国とアサナシア教会のトップである教皇イリオスを訪問する。


 イリオスはこう述べて、アステルの儀式への同席を許す。


「聖女様は、太陽の光を克服なさったことで、魔病討伐に参加し、封印の儀にのぞむことができるようになりました。

 ですから今回の魔病討伐における貴方の功績は大きい。これで、大陸の平和が守られます。

 エオニアは貴方に、とても感謝しております」



 しかし儀式の当日、教皇から伝えられた時間と場所にアステルが向かうと、そこには誰もおらず、封印の儀をおこなう場に向かう扉は開いていた。


 封印の扉の先の廊下で、アステルは教皇と出会う。「シンシアは?」と聞くアステルに、教皇はこう答える。


「儀式はもう終わった、あとは花嫁の完成を待つだけだ」


 すれ違いざまにアステルの胸に血のついた『シンシアのお守り』を乱暴に押しつけ、教皇は去る。



 廊下の先で、アステルは知る。聖女は魔王の封印の生贄にすぎなかったのだということを。


 愛するシンシアが痛みに絶叫しながら死んでいくのを見て、アステルはこんな運命は認められないと、魔術で過去へと巻き戻ることにする。『魔王の遺骸』、さらに自らの命と体を魔術の代償とし、シンシアの死を見届ける前に、過去へと巻き戻る。


 シンシアの遺体をその世界に残して。



ーーーーーーー


八、


 アステルは時間を巻き戻り、2周目の12歳のアステルの体を乗っ取ることに成功する。だが、自分の命とともに触媒として用いたために『魔王の遺骸』と魂が融合してしまう。


 人間とは到底言い難い、魔物の魔力を得てしまったアステル。しかし、そのことよりもアステルが恐怖したのは「太陽の光を防ぐ魔法」の研究結果も、研究データも、この世界に存在しない、ということだった。

『シンシアのお守り』もない、『月と星の耳飾り』もない世界に、アステルは来てしまった。


 アステルは気が狂ったように部屋に引きこもり、研究をはじめる。



 一週間ほどたってから、『ルアンが生まれつき一切の魔力をもたず、魔力を感じとることもできないこと』を思い出したアステルは、ルアンのみを部屋に入れる。


 研究の紙だらけの部屋で、ルアンはアステルと話をする。引きこもる前日まで元気いっぱいだった12歳のアステルが、急に病みきって痩せ細ってしまい、「早く役目を終えて死んでしまいたい」と言うのを聞いて、幼いルアンは恐怖する。



九、


 アステルは9歳のルアンを人質に、祖父クロコスを脅して、協力をとりつける。クロコスにのみ、時間超越したことを話す。


 魔王の遺骸の魔力を隠すための協力をしてほしいという話と、「魔王に意識を乗っ取られて魔王と化さないためにはどうすればいいか?」をクロコスに相談する。


 クロコスはアステルにこう回答する。


「『自分が自分である』ということを忘れないことだ。自分を魔王だと思わずに、人間で、魔術や物語が好きなアステルだと思い続けること。他にも好きなものがあるなら、それを数えながら生きることだ」


 だがアステルは魔王の遺骸の拒絶反応で高熱ばかりだして体も壊しがち、心も、妻を前の世界に置いてきたことで病みきっていた。


 ルアンはアステルの変化に戸惑いながらも看病して尽くすが、アステルは妻シンシアの幻覚を追い、湖に身を投げてしまう。

 アステルの兄エルミスがアステルを助けて、一命をとりとめる。


 クロコスに理由を聞かれてアステルは「死ぬつもりはなかった。妻の幻覚を追っていたら、湖に身を投げていた」と話す。


 クロコスに心のどこかで逃げたがっていることを指摘されると、アステルは「妻を幸せにしたいと言いながらもそれは自分の願いで、自分のために過去に来たことに気づいたから。死に行く妻は、自分と一緒にいたかったのではないか、と気づいたから」と答える。


 ふたりで話をするうちに、この世界の妻の話になると「まだ6歳なんです」とアステルは微笑む。『この世界の妻』の話に明るい表情をみせたアステルを見て、クロコスは「お前が元気になるためには『この世界のおまえの妻』のためになることを考えると良い」とアドバイスを送る。


 いつもそばにいてくれる小さなルアンと、祖父クロコス、兄のエルミスにも気に掛けられながら、アステルは2周目の少年期を過ごす。



十、


 15歳になったアステルはシンシアを聖女の運命から救うために、王子としての自分を殺すことにする。母ミルティアと共謀して自らの遺体を魔術で作り、事故死を演出する。


 そしてルアンとともに、旅に出る。


 アステルはウィロー、ルアンはロアンと名前を変えて、魔術の痕跡を残さぬように陸路で辺境領へと赴く。



 ウィロー(アステル)は、辺境伯ルーキスを殺してでも、虐待を受けはじめる11歳になる前にシンシアを連れだすつもりだった。しかし屋敷を訪れたウィローに、ルーキスは跪く。


「お待ちしておりました、我が主 魔王カタマヴロス様」


 ウィローはずっと敵と思ってきた、かつての義父 ルーキスが魔物であり自分を魔王と呼ぶことを耐え難いと思うが、シンシアを連れていく許可をもらい、喜ぶ。



 部屋を出る前にウィローはルーキスに、「貴方の娘が14歳で結婚するとして、子どもをつくることをすすめるか」と聞く。

「すすめるだろう」と答えたルーキスに理由を問うと、ルーキスは「子を成せば、聖女の役割を逃れられるかもしれないから」と答える。


 部屋を出たウィローはルーキスから譲り受けた塔のカギを手の中に入れて、妻のシンシアに祈りを捧げたあと、2周目の世界の幼いシンシアに会いに行く。



十一、


 ウィローは辺境領の塔で幼いシンシアと出会う。


「シンシア、きみを迎えにきたよ」


 ウィローは幼いシンシアがアステルを覚えていないかと淡い期待を抱くが、シンシアが自らの禍々しい魔力に怯えているのを見て、浅はかだったと感じる。

 幼いシンシアには、ウィローが強大な魔物に見えていた。


 ウィローとロアンはなんとか信頼をとりつけて、シンシアに旅に出ることを了承してもらう。


 新しい名を何にするかと聞かれて、シンシアは亡くなった母リーリアの名を答える。それを元に、ロアンが平民風に「リア」と名づける。


 ウィローは生きている小さなシンシアのあまりの愛らしさに、喜びを噛み締める。

(絶対にこの()を幸せにする、命にかえても守り抜く)

と誓う。




ーーーーーーー


十二、


 キアノス国 アズールの街にあるクロコスの生家『アズールの家』に、ウィローとロアンとリアは旅の果てに引っ越してくる。ウィローは18歳、ロアンは15歳、リアは12歳だ。


 探知魔法の警戒のために、名前だけではなく、それぞれ髪と目の色も、ウィローは小麦色と藍色、ロアンは薄茶色と緑色、リアは髪も目も黒色に魔術で変えている。


 ウィローがこしらえた家のまもり(結界)の中で、3人家族は幸福な暮らしを送る。リアが危ない目にあうとウィローがおかしくなる(人を傷つけることを全く厭わなくなる)他は、平和な日々が続く。


 3人でアズールの浜辺にでかけた折に、ロアンとリアは波に足をつけてはしゃぐ。

 浜辺からふたりを眺めるウィローにリアは「ウィロー、見て!」と声をかけ、遠くの船を指さす。


 リアの左足に火傷の跡はなく、ウィローはとても幸せそうに笑う。



 魔術が使えるウィロー、剣が使えるロアンと異なり、リアは運動音痴で『何もできない』ことを気に病んでいた。


 ウィローがリア自身にも、神聖力やアサナシア教会の存在を隠しているためだ。


 ある日、リアは『アサナシア様の使い』と呼ばれる聖なる蝶に、アズールの家のとなりの森にある聖なる樹を治してほしいと言われる。

 それはアズールの家に来てから、邪魔に感じたウィローが友達の巨大蜘蛛 アラーニェと共に腐らせていた樹であった。


「私にも、できることがあったんだ!」

 喜ぶリアに、聖なる蝶は告げる。


「貴女には、貴女にしかできないことがある」


 この一件でリアは「ものを治す魔法」が使えることに気づくが、「リア、それはぼくときみだけの秘密ね」とウィローは言う。



十三、


 ロアンが聖騎士試験を受けることをウィローは承諾し、ロアンがいない間、ウィローとリアはふたりきりとなる。


 ウィローは暇そうなリアを連れて、スペンダムノスの秋の湖へと赴く。妻 シンシアが喜んだのを思い出し、リアにも見せてあげたいと考えたためだ。


 ウィローはいつか魔王の遺骸が自分を飲み込み、自我を失い、魔王と化すことを恐れていた。そのためにウィローは2周目のシンシア(リア)と添い遂げることはできない、と思い、(リアには、父のように兄のように振る舞おう)と常日頃、考えていた。



 スペンダムノスにはウィローの木がある。かつて、妻のシンシアと再会を約束した木だ。


 ウィローは何度も来ていたので、このときには通り過ぎようとする。


 リアは、ウィローの名前はウィローの木からとっていることに気づく。


「海の向こうでは死者を想って、灯りをともす木なんだって。

 私にとってはお母様の木なの。ウィローにとっては誰の木なの?」

 

 リアに聞かれると、ウィローは振り返り、リアをまっすぐに見つめる。



 リアとウィローはボート遊びをする。リアが、「何故、自分のことをいつも大切にしてくれるのか」と聞くと、ウィローは「愛しているから」と答える。


 リアがどういう愛なのか、どう思っているのかをさらに問うと、ウィローはこう返答した。


「子どものようにも思っているし、妹のようにも思っている。それから――とにかく、いちばん大切な人ではあるよ」


 リアはウィローに淡い恋心を抱いており、まだ自分は幼いが、恋愛対象として見てほしいと思っていたため、ボートの上でのウィローの言葉に舞い上がって、旅行の間中、隙をみてはウィローにキスをしようとする。


 無邪気に布団に潜り込んできたり、キスをねだるかつての妻(だが12歳だ!)に、ウィローは翻弄されてさんざんな旅行となる。


 ふいうちでウィローにキスをしたあと、「お返しのキスがない」と騒ぎ続けるリアに、「一回だけだよ」と言い、ウィローの木の下で、ウィローはリアにキスをする。



十四、


 ロアンは聖騎士試験を受けにクレムの街にいく道すがら、馬車の中で魔病にかかった人々と出会う。


 ロアンは聖騎士試験に合格して神聖力を授かったあと、魔病討伐隊の募集の話を聞く中で『亡くなった今代の聖女』がリアであると気づく。敬愛する主人がマヴロス大陸全土を敵に回す悪行を働いていることもショックだったが、それ以上に、リアが「私も役に立ちたい」と常々言ってるのに、神聖力を持っていることを隠していること。さらに、5歳から一緒にいるのに重要な情報をまるで告げてもらっていないことにロアンは怒る。


 さらに、神聖力を得たロアンは、ウィローが魔物の魔力を持っていることにはじめて気づき、混乱する。



 ロアンはウィローに喧嘩を売り、リア企画の「おかえりパーティー」を台無しにする。

 ウィローは2-3日家をあけると言って出て行ってしまう。


 この時点でウィローは改良のために『シンシアのお守り』を自分で持っており、リアには毎晩、直接、魔術をかけていた。そのため家を離れるにあたり、リアに渡すようにと『お守り』をロアンに託す。


 ウィローに怒っているロアンははじめリアにお守りを渡さないが、必要に迫られて渡し、『リアに必要な魔術が込められたお守り』ということを知る。



 ロアンはリアは聖女の練習をするべきだと考え、説得しようとするが、リアは頷かない。


「たくさんのひとの役に立ちたいなんて考えてない。私が役に立ちたいのは、ウィローとロアンだけ」


 何故パーティーを台無しにしたのかと聞かれてロアンが「ウィローの魔力は禍々しい」とこぼすと、リアは不思議そうにした。


「出会ったときからずっと、ウィローは魔物と人間のあいのこだよ。

 でも、それがウィローでしょ?」



十五、


 ウィロー不在のタイミングでアズールの家を聖騎士が訪問し、家の結界が『神聖力を覆い隠していること』に勘づかれてしまう。

 これによりアズールの家に聖騎士隊がやってくる羽目になってしまう。


 ロアンとリアは森にウィローを探しに行き、聖騎士隊と遭遇する。聖騎士隊は森にいる巨大蜘蛛の脚を切り落とす。魔物に神聖力が効かない(逆効果)と知らないリアは蜘蛛の脚を治そうとする。そのことで聖騎士隊にリアの神聖力が露呈する。


 そこにウィローがやってくる。ウィローを見た聖騎士隊は「おまえの兄は魔物だ、殺せ」とロアンに言う。ロアンはそれを断り、リアを守るためにウィローと共闘する。


 聖騎士のひとりが聖なる剣でウィローを刺すが、ウィローは赤い血を流し、それを代償として大魔法を使って聖騎士隊を倒す。



 ひとり残った隊長のサンノスからウィローは話を聞く。


「6年前、魔王の遺骸から呪いが漏れるスピードがあがった。魔病が増えているのはこのためで、我々は新たな魔王が見つかったからではないかと考えている」


 ウィローはサンノスが教皇イリオスに面識があると知ると、伝言を頼む。強い憎しみのこもった声で、ウィローはこう告げる。


「聖女の墓を暴こうとするのはやめろ」



十六、


 少し時間は戻り、アズールの街を目指す最中(さなか)のこと。ウィローは辺境伯ルーキスに呼び出しを受ける。ルーキスはウィローに「シンシアの偽物の墓に結界を施してほしい」と頼む。

 ウィローが何故かと聞くと、ルーキスは話す。


「教皇イリオスは死体性愛者だ」


 ウィローは一周目に妻のシンシアの遺体を残してきたことを考え、呆然とする。


 ルアンがきたはずだった。だが、シンシアの死に際に間に合ったかがわからず、そのあと、シンシアの遺体をルアンがどうしたかもわからなかった。


「ぼくはシンシアを看取りたかった。

 ぼくは彼女のことを、ちゃんと、弔いたかったんだ」


 シンシアの偽物の骨を墓に埋めながら、ウィローは目を背け続けてきたことに気づき、向き合い、泣き崩れる。



十七、


 一周目。ルアンはシンシアの死を看取ることに間に合っている。自らを代償としたアステルの惨たらしい遺体を見てしまったルアンは、妃も主人も守れなかった護衛に意味なんてないと剣で自害しようとするが、その瞬間に『教皇は遺体を弄ぶ』という話を思い出し、怒りのあまり剣をおさめる。


 『星の耳飾り』によってスペンダムノスのウィローの木へと、シンシアの遺体と共に(のが)れたルアンは、近隣の教会のない村の共同墓地、深くに、お守りと耳飾りと共にシンシアの遺体を埋める。



ーーーーーーー


十八、


 聖騎士事件のあと、ウィローはリアを守るためにロアンとリアを『タフィ教のコミューン』に送ろうとする。ウィロー自身は『魔石に魔王の遺骸を封じる研究』のためふたりと離れて暮らすと告げる。だがリアはウィローと離れ離れになることを拒み、「お守りはいらない、かわりにウィローが一緒にいて!」と泣き、ウィローにお守りを投げつけようとする。


 ロアンが阻止してリアに怒るが、(ウィローの想い人が自分ではなく、一周目のシンシアである)ことに勘付いて、リアが泣いていることにウィローは気づく。


 ウィローはリアにこう伝える。


「確かにぼくは、お守りを持っているときに考えたり、祈ったりするのは、リアのことではなかったかもしれない。けれど、ぼくはこんなに大事なお守りを、愛する人以外に渡すことは決してない」


「ぼくがこのお守りを、リアのためにつくったことは、確かなんだ。リアの幸せを願って、小さなリアのことだけを考えてつくったお守りなんだよ」


 ウィローの説得の結果、リアは、お守りをつけることと、タフィ教のコミューンに向かうことを受け入れる。



十九、


 タフィ教のコミューンでは、リアの父ルーキスがふたりを待っていた。

「ウィローと暮らせずにお父様と暮らすなんて絶対に嫌!」とリアは怒ったり、家出したりするが、その過程で、愛妻家であったことなど、知らなかったルーキスの一面が見えてくるようになる。


 タフィのお祭りで、リアはウィローとワルツを踊る。リアは「幸せになれますように」とウィローに赤い花をかけ、ウィローはそれをローブの左胸のポケットに大事にしまう。



二十、


 リアは13歳、ウィローは19歳になっている。


 魔石に魔王の遺骸を封じる研究は、とうとう魔王の遺骸の現物を入手する段階となっており、ウィローは魔王城に、シンシアの死の現場に行かなければならなくなる。


 冷静に研究を重ねる予定が、徐々にパニックになり幻聴を聴くウィローを、毛布の魔物 クヴェールタが助ける。


「なぜ魔王の遺骸を、自分の血が入った魔石に固定化できないのか」というウィローの問いにクヴェールタは「想いがないから」と答える。


 クヴェールタはウィローに教える。

「魔物の構成要素は、愛と想いと呪いだよ」


 想いは、ウィローそのものだと思ったウィローは、想いを封じるのは死ぬことと同じだと恐怖する。


 クヴェールタは「怖いなら、今はまだそのときではない」とウィローに話す。



二十一、


 ウィローには(妻をあんなところに残した自分が幸福になるなんて許されない)という思いがあったが、幸福な記憶(想い)が魔王の遺骸を封印できるのであれば、少しばかり幸せを享受しても許されるかもしれないとウィローは考える。


 そこでロアンに「物語を読みたい」と伝えたり、リアに(ウィローが愛していることを)覚えていてもらおうと、いつもより積極的に接したりする。幸せそうな表情を多く見せるウィローに、ロアンもリアも幸福を覚える。


 そんな折、ロアンが魔病にかかってしまう。ルーキスに教えを請いながら、リアは神聖医術でロアンの発熱を下げる中で、ルーキスがちゃんと自分を愛していたことに気づく。父は、愛情表現が下手なだけなのだと。


 熱が下がったロアンはリアに懇願する。ウィローに自分の病気を隠す手助けをしてほしいと。


「最近、ようやく幸せそうなのに、ウィローに魔王の遺骸の封印を急がせるわけにはいかない」


 しかし、秘密は露呈する。

 そしてリアの言葉に、ウィローは心を決めてしまう。


「私が封印すればいいんじゃないの?

 だって本来、私の役目なんでしょう?

 ウィローひとりが背負うことじゃないよ、3人でそれをしようよ」


 ロアンとリアは3人で封印を成そうとウィローを説得する。ふたりが、ウィローから抱擁を受けて理解が得られたのかと思った途端、ウィローはルーキスに「ロアンとリアを屋敷から出すな」と命じて魔王の遺骸の封印に向かってしまう。


 ルーキスは、ロアンとリアの手助けをしてくれた。ふたりはアズールの家、コルネオーリ城、とウィローを探しまわった末、魔王城へと向かう。



二十二、


 ロアンとリアは魔王城でウィローに再会するが、様子がおかしい。「封印に成功した」と語る彼は、アステルだと名乗る。


 ロアンとリアはウィローが記憶(想い)を代償として魔王の遺骸を封印したことに気づく。

 リアは、アステルの手の皮袋の中にある魔石を浄化すれば『記憶がアステルに戻り、ウィローが帰ってきてくれる』と考える。だがアステルは「魔石は渡せない」と拒む。


「ぼくは、これからすべての『魔王の遺骸』をこの世から消さないといけないんだ」


 アステルが死ぬつもりであることを感じ取ったリアは、アステルから魔石を奪おうとして、ひとつ、左足の近くで割ってしまう。


 魔王の呪いは、リアの左足に傷をつくる。


 アステルはもう耐えきれないという顔をする。

「シンシア、きみのところに帰りたいよ」

と言い、星の耳飾りを使ってふたりの目の前から消えてしまう。



 リアはスペンダムノスのウィローの木に行ったと勘づき、ロアンを連れてウィローの木に赴く。

 すると、アステルは魔力切れを起こして眠っていた。無事に確保できたことにふたりは安堵する。


「これからは、ウィローにもらった愛を、私がウィローに返すの」


 リアは「これからも一緒に居てほしい、見守ってほしい」とロアンに願い、「これからも一緒ですよ」とロアンは約束をする。



二十三、


 タフィのコミューンで目覚めたアステルは、ウィローの記憶とカタマヴロスの記憶を断片的に持っているものの、ほぼ、2周目の12歳のアステルと言って良い存在だった。


 見た目は20歳、心は12歳。

 そして魔王の魔力を持つアステルだ。


 リアは魔石を浄化すればアステルにウィローの記憶がもどると思っていたが、それはできなかった。魔王の魔力はアステルに戻るが、記憶はリアしか読むことができなかったのだ。


 リアは納得できず、嫌がるアステルに無理に記憶を戻そうとするがロアンがそれを止める。


「もう、アステル様に痛い思いや苦しい思いをしてほしくない。楽しいことや嬉しいことだけこの人のまわりにあってほしい」



 リアは、アステルの記憶を、アステルに物語のように話して聞かせることにする。


「ぼく、物語って大好きなんだ」

「知ってるわ」

「昔、ルアンによく話して聞かせたんだよ」



 16歳になったリアは、アステルをスペンダムノスのウィローの木に連れていく。


「ねえ、アステル、この木の下で私にキスをくれたのを覚えている?」


 覚えていない顔のアステルに、リアがキスをすると、アステルは嬉しそうに笑い、キスを返し、本当に幸せそうに微笑む。


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