転生拒否緑伝
世の中にはたくさんの転生物があり、みんな転生してしまって楽しくしていますが、世の中には転生を拒むものもいるのではないでしょうか?そんな事を思い書いてみました。
俺の名前は八張 幸祐。ごくごく普通のちょっと運が良いだけの高校2年生だ。そんな普通の高校2年生であるあるはずの俺の元に起こった未だに忘れられない、否、未だに続いている自分にとっては十分過ぎるほどの今までの幸福のどんでん返しの様な不幸が起きたのは、桜が咲き始めた高校の終業式の日である。
自分にとっては何の意味があるのかもよく分からない終業式を終え家に帰ったら、いつもならば仕事に行っているはずの親父が居間で正座をして待っていた。そこで自分は気づいてしまったのだ。もしも、その時に気づかなければ、否、気づかない振りを…いや、無駄だっただろうから、“もしも”の話は置いとこう。
俺が親父じゃないと気づいたのはこの時間に家にいることでもなければ雰囲気が違うと言う事でもなかった。そう、親父が正座をしていた事こそが俺が抱いた疑念の全てだったのだ。
「おかえり」
と親父似の何かは俺に声を掛けてきたが、
「おい、お前は誰だ!」
と返事を返すことなく叫んだ俺に親父似の何かは少しも驚くことなく口を開いた。
「やはり、気づきましたか、これも“転生者”に与えられる祝福の遺伝の効果ですか、」
っと中二病に掛かっているとしか思えない親父似、いや、これからは男と呼ぼう。とまさかこの名称がこれからも何度も言う事に成るとはこの時の俺は少しも思わなかった。
「それで、お前は誰なんだ!何故親父の姿をしている!何が目的だ!」
と叫ぶ俺に冷静にそして少しも表情を和らげることなく男は口を開いた。
「まず、最初の質問ですが、それには答えられません。なぜ貴方の父親の姿をしているのかと言うことですが、それは一番この世界に違和感なく潜り込めるからです。そして最後の質問の何が目的かと言う事ですが、それは…貴方を転生させに来ました。」
はっきり言おう、その時の俺は嬉しさも呆れも抱くことはせずに、ただ、こいつは変人では無いが、変人なんだなぁっと心に思ったのだった。
「転生?なんでまた…。いや、それよりも死んでも無いのに転生って何でだ?…もしかしてこれから死ぬとかか?」
俺は転生させに来たと言う言葉を聞いてやっぱりかと心の片隅で認識した事に驚いた。だってそうだろう?普通死んでもいないのに、何処か知らない場所でもない、自分の家の居間で親父似の男にそんな事をいわれたら、だれだってバカにしたり、失笑ぐらいはするだろう。なのに俺はそんな事をせずに“やっぱりな”っと思ってしまったのだから。
「驚かないのですね。やはり貴方に遺伝した力は強いようです。それは良いことでもありますが、何よりも事を急ぐべき懸念なのでしょう。」
「遺伝?さっきからそう行っているが、何を言っているんだ?」
と訝しみながら効いた俺にこの男は驚くべき事を言ってのけた。
「貴方の父親は“転生者”です。」
「親父が…転生…者?」
この時、呆気にとられた俺を責める者はいないだろう。だってまさかあの親父が転生者と言うのだ。親父は何処にでもいる…いや、あんなのが何処にでもいたら大変だ。俺の親父は周囲から言わせれば俺をパワーアップしたような存在らしい、何故、俺の意見じゃなく周囲なのかと言うと、俺ならば名前からして普通じゃないと思うからである。
今後出てくることは無いだろうが、俺の親父の名前は八張 転成である。明らかに名前からして普通ではない、この男は名は体を表すと言うように万能型チートとしか言えないのである。やることなすこと全て成功し、まるで未来の情報でも知っているのではないかと言うぐらいの幸運を持っているわけである。
「話を続けますが、貴方の父親はただの転生ではなく特典と言うなの祝福を得ての転生をしました。それはどんな世界だろうと必ず幸せに成ると言っても過言ではありません。」
なるほど、男の話を聞いて冷静に納得してしまう俺の適応力もさっき聞いた転生者の力の遺伝を思い出せば納得してしまう。
「そんな力だからこそ禁忌も存在します。それが子を成す事なのです。」
「ちょっと待ってくれ何で子供を作ったらいけないんだ?別に子供ぐらい良いじゃないか」
「子供ぐらいですか…。貴方はそもそも転生者を何だと心得ていますか?」
「転生者?それはやはり死んだものが生まれ変わることじゃないのか?」
転生者と言うのはその字の如く、死んだものが再び生を得ることを言うのだろう。そこに特典…祝福だっけか、それを持つ事、即ちありがちな2次創作物はそもそもの転生を発展した物なのだろう。だからそれを言うのは間違えていると思う。
「なるほど、実によくわかっていらしゃる。ならば…あえて断言しますが、転生は本来存在しません。この意味がわかりますか?」
「えっ?」
転生が本来存在しない!?それじゃあ、親父はどうなるんだ?その疑問が口から出る前に、
「ちなみに貴方の父親は別の世界からの転生です。それもかなりの特殊なケースです。本来どの“世界”でも転生はありえないのですから、」
「じゃあ!どうして親父は転生できたんだ?」
「それもお答えすることは出来ません。機密に関わりますので」
俺はこの言葉を聞いたときに不満や呆れよりも、ああ、こいつは意外と優しいんだなっと思った。だってそうだろう?わざわざ機密に関わる何て言う必要性は無いんだから、まあ、もっともこの後にそんな感情は綺麗さっぱり吹っ飛び、その後にこの優しいって言う思いも再び浮かび上がってくることはなかったんだから、
「それでは脱線した話を戻します。その本来は存在しないはずの転生が起こった場合には世界に綻びが出きます。それはほんの小さなものです。それ自体はたとえ転生したものが何をしようと変わることはありません。何せ、死んでしまったらその綻び自体も修復されてしまうからです。しかし、例外があります。それが子供を作ると言う事です。子が生まれさらに孫が生まれと連鎖していくと世界には本来ありえない綻びがどんどん大きくなってしまうのです。それは世界には容認出来ないことです。何せ何が起こるかわかりませんからね。ただ言えることは良い結果には成り得ないと言うことです。」
ああ、なるほど、綻びとはよく言ったものだと思う。要は傷なんだろう。その傷が広がるのは何をしたかではなく、時間なんだろう。時間がたてば傷は細く長くなってくるそれ故そう成る前に止めたいのだろう。
「だから転生して俺をこの世界から追い出すのか?」
「そうです。」
「でも何をしたかではなく時間なんだよな?その世界の綻びと言うのが広がるのは。」
「いえ、正確には時間ではなく子を生むことです。」
「そうか、でもどっちにしろ転生しなくて俺が普通に死ぬのを待っていれば良いじゃないか?」
「そうも行きません。貴方が遺伝した祝福の1つに子を成すこともあります。」
「何で、禁忌なのにそんなのがあるんだよ?」
「それは先程も言いましたが、貴方の父親の祝福はどの世界でも幸せに成ると言っても過言ではありません。本来子供を作ると言うのも幸せの一つなのです」
「なるほどな。だったら親父は禁忌を破ったてことか?」
そこまでして俺を産んでくれたんだ。そこにはきっとお袋との愛とロマン溢れる物語があるんだろう。
「そうですね。しかし、貴方の父親はその事を知らなかったわけですが。」
「どういう事だ?」
「説明されてなかったんです。貴方の父親は子供嫌いでしたから、子供を作ることは無いだろうと思われていたんです。」
おおい!この男、実は良い人でも無いんじゃないか?っと思った俺はきっとある意味優柔不断なんだろう。てか親父子供嫌いって…俺、実は大して愛されていないのか?…いや、そんな事は無いだろう。きっと途中で変わったんだ。っと自分を納得させ気になったことを聞くことにした。
「なるほど、だったら俺が子供を作らなければ転生しなくても良いんじゃないか?
「そういうわけにも行きません。何せ貴方は後1年で結婚出来る年齢に達します。そして貴方は“貴方の父親の力を遺伝しました”この意味が分かりますか?」
「それはあれか、おれも幸せに成るって言う力の為に結婚し易いってことか?」
「いえ、し易いってことではなく必ずします。これは貴方の意志ではどうすることも出来ません。諦めてください」
なんて事だろうか、まだ彼女すら出来ていないというのにすでに未来が決まっているなんて、まあ、人間の幸せはたくさんあると言っても種類は偏っているわけだから別に問題ないけどな。しかし、このままじゃ、転生確実か・・・。個人的にはこの世界は好きだ。楽しいし、平安だし、文明だって発達している。正直不満が無いぐらいだ。だが、これも親父の力の遺伝なんだろう。なぜならば、俺の友達はよく不満を言っているからだ、話がそれたが、個人的には離れたくない、自分にとって両親とは今の両親こそが自分の親なんだから、他の人を親とは思えないだろう。それだけじゃない、言葉にはっきりと言えないが、やっぱり自分はこの世界が好きなんだと思う。だったら言う事は決まっている! 親父も言っていた。信念とは曲げるものじゃない、貫くものだって!
「あの俺の気持ちは変わらないと思います。」
「…っと言いますと?」
「お断りします。」
「俗に言うチート能力を身に付けられるのですよ?」
「それでもです。」
「願いがかなうんですよ?」
「それでもです。」
「…理由を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「はい、俺は…この世界が好きなんだと思います。だから俺はこの世界から出たくないんです。」
そう笑顔で言った俺はきっといい顔だっただろう。そうそれもアニメやゲームでの感動のシーンの様に、まあ、後から考えればそう思っていたのは自分だけでその後に待っているのは辛い事だろうとその時の俺は考えもせずに、ただ、決まったぜっっと心の中でガッツポーズをしていたのだった。
「なるほど…その心変わる気は無いようですね。」
「ええ、もちろん」
「では…死んでもらいます。」
「えっ?」
何を言っているのだろうか?男は表情も変えずに淡々とその様に口にした。
「それは俺をこの場で殺すってことですか?」
「いえ、私は手を出しません。貴方には事故死等の方法で死んでもらいます。そしてその後は転生ですね。」
なぜ、交渉決裂した後まで転生させようとするのか、俺に分からなかった。だから思ったことをそのまま聞いてみることにする。
「なぜ…交渉が決裂したにも関わらずに転生させるのですか?」
「それは簡単な事です。転生者は世界に2人もいらないからです。正確には2人も容認出来ないが正しいですが。」
「あの…俺、転生者じゃありませんが。」
「貴方は転生者の子です。それは世界からしたら転生者と代わりはありません。」
なるほど、それならば男としてはすぐにでもこの世界から追い出したいのだろう。しかし、俺はこの世界が好きだ。だから出たくないのだ。この気持はきっと未来永劫変わることは無いだろう。実際にその後も変わることはなかったわけだが、
「ではこの辺で失礼します。」
そう言うと男は立ち上がり、こちらを一瞥することもなく、まるで興味の無い授業を終えた学生が速やかに帰るかのように出て行ってしまった。
それからだ、ごくごく普通のちょっと運が良いだけの高校2年生である俺の日課に“命がけ”が加わったのは。
それから毎日…
外に出れば裏通りに凄いスピードの車が走り去り、
信号を渡ろうとしたらトラックが突っ込んで来る
並木町を歩けば工事中のビルから鉄筋が降ってくる
異様にモテるように成り、嬉しいことは嬉しいが、もしも付き合えば付き合った子まで巻き込まれるだろうから付き合えない日々が続いている。
でも、そんな中でも俺の中にあると言う親父の遺伝の力のおかげで大事には成っていない。これからも大変だろうが、俺こと八張 幸祐は毎日充実した楽しい日々を送っています!!
[END]
感想等ありましたらどうか送ってください。お待ちしています。
ちなみにこの作品は作者の処女作です。