後日譚Ep1 北の冬支度③
※フローラの過去と家族に纏わる話は書籍1巻で追加エピソードとして加筆しておりますが、Web版ではうっすら匂わせる一行があるのみでしたので、補足エピソード(前半)です
(現在ちまちまと書いている話にやや関連するので。明日も更新予定です)
★後書きにお知らせがあります★
日が暮れた鍛冶職人の村では、星空の下にぎやかな酒宴が繰り広げられていた。
北部ケルヴィム領からの大所帯の来客を、村総出で祝い事のようにもてなしている。
冬が近づいて肌寒いのを物ともせずに、広場にたくさんの料理と酒を持ち寄り、大きな焚火を囲んでお祭り騒ぎだ。
「この村の連中は本当に祭や宴が好きだな……。雪祭に誘われて、気が逸ってもう祭をやってるようなものだ」
広場の端でフローラと共に料理の給仕役に回っていたギルバートは、飲めや歌えの大騒ぎを遠目に眺めている。揶揄するような口ぶりとは裏腹に、村じゅうを包む華やいだ空気の中で頬も緩む。
手近なテーブルにフローラと並んで腰を降ろし、大きなストールを取り出してフローラと肩をくっつけて二人で包まった。
寒空の下、触れ合い伝わる体温が心地良い。
「ギルバートさんは混ざりに行かなくても良いんですか?」
「こんな大騒ぎじゃ、きっと後片付けも大変だろう? 今日は酔いつぶれるわけにはいかないから……!」
フローラの問い掛けに、半笑いを浮かべて答え、顔を上げた。ドルフたちの酒の飲み比べ合戦なぞに巻き込まれたら、どうなるかわかったものではない。
二人の視線の先ではドルフと傭兵バジルが肩を組んで、ジョッキを片手に即興の歌を口ずさみ、奇妙なステップを踏んでいる。
「そういえば、雪祭と聞いて迷わず誘いに乗ってしまったんだが……。本当は、冬の間にフローラさんの故郷に顔を出しに行くべきかと思ってたんだ。フローラさんも、家族に会って色々報告したいんじゃないかと思って」
「ふふ、ありがとうございます。でも、わたくしの生まれ故郷カディラ領に行くなら、冬は避けた方がいいので、春になってからにしましょう」
「あれ、そうなのか? 南の方だよな?」
不思議に思い問いかければ、フローラの柔い笑みが返って来る。
「カディラ領は羊をたくさん飼っていて、冬は一年でいちばんの繁忙期なんですよ」
言われてみれば、羊の話は聞き覚えがあった。不死スライムの鉄喰いへの対策に、フローラが故郷の緬羊業の知識を活かして、ウールグリースを連想した錆び止めの魔法を使っていた。
「羊の繁殖期なんです。春先の出産シーズンを迎えるまで、羊たちの管理に気を配らなければならなくて。冬の間は、みんな神経をとがらせていますから」
「なるほど……。そんな大事な時期に素人の俺が訪ねても、かえって邪魔になってしまうかもな」
「どんな時でも人手はありがたいものですよ。でも一番必要なのは、放牧が始まり毛を刈り取る春から夏にかけてですね」
共にフローラの家族に挨拶をしに行くのなら、少しは頼れるところを見せたい欲が出る。ギルバートはまだ見ぬカディラ領で、羊に囲まれるフローラと自分を空想した。
「伯父さんは領主様なんだよな。それにご両親にも、信頼して認めて貰うためには、俺に手伝える事は何だってやるよ」
いつになく恰好を付けて意気揚々と宣言するギルバートに、フローラがまた柔い笑みを浮かべる。
けれどもいつも見ている笑顔の中に、今は微かな翳りがあった。
「……お墓参りをするのも、たくさん綺麗な花の咲く、春や夏の方がいいですね」
「墓参り……?」
思わず聞き返せば、フローラがちいさく頷いた。
「わたくしの両親は……わたくしが物心つく前に、亡くなっておりまして」
宴の陽気な雰囲気を壊さぬよう気遣ってか、フローラはギルバートにだけ聞こえる声でそう打ち明けた。
<お知らせ>
進む先生によるコミカライズ第一巻、明日4月30日発売です!
表紙のフローラが物凄く素敵なんですよーー…!!!
↓にスクロールで書影と講談社さまサイトへのリンクが貼ってあります。
また、店舗特典情報を活動報告に記載予定です(この後すぐに…!)
進む先生のとっても素敵なカラーイラストなどございますよ…!!
私の本業の影響で告知の時間がぎりぎりまで捻出できず、遅くなってしまい恐縮なのですが、ものすごく素敵な本に仕上げていただいているので、お手にとっていただけたら嬉しいです!




