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存在の証明  作者: 翁
プロローグ
3/3

共感の予兆

都会の一角にある高層マンションの一室で、理孤人りことは執筆に没頭していた。

窓の外には夜景が広がり、遠くのネオンが煌めいている。彼の部屋には無数の原稿や資料が散らばり、デスクの上には未完成の作品が積み重なっている。彼の指がキーボードを叩く音だけが、部屋の静寂を破っていた。


理孤人の書く物語は、どれも現実の暗部を鋭く抉り出すものだった。その才能は、投稿サイトから一躍有名になり、今や売れっ子作家としての地位を確立している。


恋人の菜々ななみは理孤人のそばで静かに本を読んでいた。彼女は時折、理孤人の顔を見つめ、その横顔に浮かぶ何かを感じ取ろうとしていた。

「彼のこと、もっと知りたいけど、知るのが怖い」

大学時代からの付き合いで彼のことを一番知っていると自負する彼女にさえ、いやだからこそ、理孤人が心の中で何を考えているのかを真に分かっていない気がするのであった。


「うぁ~~、少し休憩にしようかな」

しばらくして理孤人が伸びをしながら誘い、二人はリビングに向かった。

ちょっとしたつまみを手にソファに腰かけ、テレビを付けた。

アナウンサーの無機質な声が、静かな部屋に緊張感をもたらす。


「またしても、死体から脳みそを持ち去る猟奇的な手口で殺人が起こりました。警察は連続殺人犯の可能性を示唆しています」


以前から注目されている連続殺人鬼のニュースだ。しばらく執筆に夢中で追っていなかったことから、脳みそを持ち去るという手口は初耳だ。


「それにしても、脳みそを持ち去るというのは衝撃ですよね。警察も普通はそんな発表はしないのでしょうけど、これだけSNSで騒がれれば公表せざるを得なかったんでしょうね」

スタジオのどこぞの評論家が分析する。


「今は削除されてるみたいですが、SNSには犯行現場の写真までアップされてたっていうのだから、世も末ですよ」


理孤人の心の中に奇妙な感覚が広がった。

「脳みそを持ち去る…何のために?」

初めの興味はその程度だった。小説を書き出してから、現実離れした話に反応してしまう。

「あまりよくないことだな」


菜々美が心配そうに理孤人を見つめる。

「理孤人、怖いね。こんなことが起きるなんて」

理孤人は微笑みながら彼女の手を握り、「大丈夫だよ、僕が君を守るから」と答えた。

彼女にとってその瞬間だけは、すべてが平穏で幸福に包まれているように感じられるのだった。


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