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夢のような色とりどりの世界  作者: 梶ゆかじ
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第19話 『予兆される世界』

 ハインスに継いでガッシュフォードが旅に出たのをきっかけに王国はアリスの国王代理任命を発表した。


 それはハインスが自らの意思でギラナダを救うべく旅に出たとギラナダ全領に公表した。その勇気ある行動を決意したハインス国王に幸あれと民衆は熱狂、それを支持した。


 それと同時に一つの疑問が飛び交った。

「平和な世であるのになぜ?」とハインス国王の勇敢さは讃えたものの、これから起こるかもしれないなにか良くないことを想像させてしまった。

 それに飛びついてきたのが、かつての冒険者たちであった。それは八年前を思わせる賑わいを見せ、それが民衆の不安を助長させてしまっていた。




 そして、アリスは忙しい日々を過ごしていた。


 王座に座るかわいらしい女の子。若干十四歳の国王代理は王の間にルアスバーグを呼び出していた。


「ルアスお兄様。これほどまでに冒険者たちが集まったおかげで旅行客が来なくなりましたわ。これではなにか起こると言っているようなものですわ。まったく……ハス兄にも困ったものですわ……」

「アリス様。魔族はまだ溢れております。ハインス様はその殲滅をと冒険者を募りました。管理体制を強化して我が騎士団が冒険者ふぜいにギラナダを好き勝手させません」

「それなら良いのですわ……。ギラナダの城下町及び周辺の警護は頼みますわよ」

「はっ! 時にアリス様……。ハインス様についでガッシュフォード様も旅に出られたとか……」

「それなら聞いておりますわ。ハス兄といい、ガドお兄様といい。一体なにをなさるおつもりなのかしらっ!」

「そ、それは……。お、男にはやらなければならないこともありますので……」


 アリスはしどろもどろのルアスバーグを目を細めて見ていた。


「まぁ、よろしいですわ。今はギラナダの問題点が山積みなのを片付けないといけません。本当に忙しくて休む暇もございませんわ。……たまには小羽お姉様とゆっくりお話ししたいものですわね」

「小羽さんですか……。ならばお呼びいたしますか? 国王代理の命ならば学業にも差し支えないと思われますが」

「そうですわね……。でも用事もないのに呼びつけるのも気が引けますわ」

「そうですね……。あっ! ご用事を言いつけるというのは?」

「なにかありまして?」

「はい。小羽さんにピッタリのとっておきのが……」


 ハインス城、王の間ではアリスとルアスバーグがなにやら画策をしていた。




 一方で、なにも知らない小羽はナズと共にゴートルの授業を受けていた。


「では……。ナズ君。この問題を解いてみなさい」


 ナズは教壇の後ろにある立体ホログラムの問題の前に立っていた。


「これは簡単だよ。これでしょ?」

「珍しく答えを書いてくれたが、これはこうだ」

「えっ!? 間違ってるの?」

「ナズ君。魔術の発動は思考と魔力だ。だからこそこうなるんだ。わかったな?」

「はーい……」


 自分の席に戻るナズは隣の小羽にひそひそとぼやき出す。


「小羽ー。全然わかんないんだけど」

「ナ、ナズちゃん……。授業中は静かにしないと」

「だって……つまんないんだもん」

「もう……。ちゃんと授業受けないと卒業できないよ?」

「そ、そうなの? それはそれで嫌だなー……」


 ガッシュフォードが旅立って以来、小羽はこれまでより真剣に授業を受けるようになっていた。魔力のない小羽にとっては覚えても意味のない授業には違いはない。だが、色魔導という魔力のない魔術を使う小羽にとってはゴートルの授業は魅力的だった。

 なぜなら、ダリオン家の魔導研究は魔術は魔力の消費により使えなくなることを懸念していたからだ。魔導士が魔力を失ってからの魔力の再生方法など。魔力を体内で生成する研究などを主としていた。ゴートルはその研究の成果を惜しみなく授業に取り入れていた。魔力の持たない小羽はその理屈や理論を覚えることでもっと自分の色魔導をより良い使い方ができるのではと期待していた。


「では午前の授業はここまでにしよう。午後は魔導工学科との合同実習訓練だ。東の森まで歩いたりと体力も使うだろう。ちゃんとお昼を食べて午後の授業に備えるように」


 ゴートルの言葉と共に鐘が鳴り響いた。

 生徒たちはお昼のために皆揃って食堂へと向かう。小羽とナズも同様に食堂へと足を運んだ。小羽とナズは寮生のため、お昼は寮で用意されたお弁当を持たされていた。食堂ではクワナが笑顔で手を振っていた。


「小羽っ! ナズっ! こっちこっちっ」


 小羽とナズはいつものようにクワナの側に向かう。ナズはクワナのもとへ人混みをすり抜けていく。ここら辺は背の低いナズならではの身軽さだ。何食わぬ顔でクワナの隣にちょこんと座った。


 小羽が生徒たちの間を通りづらそうにしていると。


「ちょっとあんた。邪魔なんだけど?」


 振り向いた小羽の後ろにはサランとネーブルの姿があった。


「ご、ごめんなさい。と、通れなくて……」

「あんたお気に入りの学園長が居なくなって残念ね?」

「それにしてもどこ行ったんだろうね? ねぇ? どこ行ったの?」

「ど、どこかはわかりませんけど……」

「いいから早くどけよ。科が変わっても目障りなんだからっ」


 サランとネーブルは小羽を追い越して席についた。小羽もようやくナズの隣に座り、ため息をつく。


「相変わらずだね。あいつら。小羽のこと嫉妬してるだけだよ。気にしない方がいいよ」

「うん……」

「はいふらはひ?」

「ナズちゃん。ちゃんと飲み込んで? よく噛むんだよ?」

「ププ……。小羽ってナズのお母さんみたいだよね? ナズは小っちゃいからねー」

「ゴクン……。ふぅー。もうっ! 二人とも子供扱いしないでよ! それで……あいつらなんなの?」

「魔工科のサランとネーブルだよ。小羽のこと気にいらないみたいでさ。いつもイジメてんの。性格悪いんだよー?」

「小羽をイジメてるってことは……悪いやつってこと?」

「そうそう。ナズも気をつけた方がいいよー?」

「ふーん……」


 ナズは相づちをして弁当をむさぼっていた。


「そういえば小羽。午後から同じ授業だね?」

「うん。実習訓練ってなにするの?」

「魔工科の作った魔導具を魔学科の生徒が実際に使って試してみるって感じかな? まぁ、ほとんどは魔工科の生徒のお披露目みたいなものだけどね」

「だ、大丈夫かな?」

「心配いらないんじゃない? アレク先生もゴートル先生もいるし」


 お昼を食べ終えた小羽とナズは魔学科の教室へと戻った。


 ――なにもないといいけど……。


 小羽にはある不安がよぎっていた。それは緋翠が言った言葉。「この世界では異世界者の予感は当たるらしいからね」だ。あえてなにも考えないようにすればするほど嫌な予感が湧き上がるもの。この世界に来て小羽はそれを肌で感じつつあった。




 そして、午後の授業が始まった。ルメールから東へ行った森。そこは魔工科の魔石探索の実習の場所であり、かつて小羽がイナビの森へ迷い込んだ場所でもあった。


 アレクサンダースが整列した生徒たちの前で叫んだ。


「魔工科の諸君。これより君たちの製作した魔導具を魔学科の生徒たちに試してもらう。各科一人ずつからペアを作り、よく説明をしてあげるように。詠唱コードは絶対に間違えないように! また、魔学科の生徒諸君もしっかり説明を聞いて誤発動のないように頼む。ゴートル先生。なにかありますか?」


 ゴートルはアレクサンダースの隣に立つ。


「アレク先生の言ったことは必ず守るように。仮に誤発動が起きる時があるかもしれない。念のために魔学科の諸君は結界を張るように。一色君の結界は私が張ろう。以上だ」


 こうして魔導学科と魔導工学科合同の実習訓練が始まった。


 GMAではしばしば別の科と合同で授業を行う。これはゴートルが取り入れたものだ。科の違う者を体験することにより、科を卒業した後の参考にとガッシュフォードに提案し、採用されたものだ。

 小羽はクワナとペアを作り、ナズは一人、面白そうな魔導具を持ってないか物色をしていた。そして、ゴートルがナズの側に近寄る。


「ナズ君。ペアは決まったか?」

「うーん。どれも面白そうなものないんだよねー。もう誰でもいいや」

「そうか。じゃあ、最後に残ったサラン君と組みなさい」


 ナズは露骨に嫌そうな顔をしていた。


「えーっ。……他の人がいい」

「でも、もう皆決まってるみたいなんだ。困ったな……」


 ゴートルは他の生徒たちに変わってくれるようにと促してはみたものの、サランの悪評は皆知っているためか。誰一人変わろうとするものはいなかった。そんな中、一人の女生徒が名乗り出る。


「ナズちゃん。わ、私変わろうか?」

「小羽が? そんなの意味ないじゃん」

「だって……。ナズちゃん嫌なんでしょ?」

「嫌だけど……小羽が変わるなら私でいいよ。我慢するもん」

「できる?」 


 小羽はナズの前でかがんで頭を撫でる。


「うんっ。する!」

「良い子だね? ナズちゃん。ちゃんとお話は聞くんだよ?」

「うん。でも、悪いことしようとしたら懲らしめていい?」

「こ、懲らしめるって……。危ないことじゃなきゃいいけど……」

「人族に危ないことなんかしないってば。お仕置き程度だし」

「う、うん。じゃあ、頑張ってね?」


 小羽になだめられてナズはゴートルの前で無邪気に口を開く。


「先生っ。ナズは悪い人でも組めまーすっ!」


 ナズのその言葉はほとんどの生徒が聞いていた。周りではクスクスと笑い声が聞こえていた。ゴートルは咳ばらいをする。


「ゴホン……。な、仲良くやりなさい。では、始めなさい」


 ゴートルの合図でペアを組んだ生徒たちは魔導具を使い始める。様々なものがある中でクワナの作った魔導具は群を抜いていた。


 小羽はクワナの言った通りにその魔導具を使う。小羽の目の前にはホログラムの画面が現れた。


「クワナ。これは?」

「へへーん。これはね……」


 そう言うとクワナは小羽から離れ、その場から歩き始める。すると、小羽の画面の赤い点のようなものが動き始めた。それを見て小羽は気づいた。


「あっ。これって……ナビ?」

「えーっ? もしかして小羽の世界にもうあるの?」

「う、うん」

「もぉ―――っ。小羽の世界は便利過ぎだよっ!」

「ご、ごめんね? でもこの世界だとナビは画期的かも……」

「でしょでしょ? この前思いついたんだ。片方がこれを持っていれば必ず居場所がわかるってやつね。深い森だろうが洞窟だろうがどこでも大丈夫なんだよっ」

「へぇー。クワナって本当に凄いね。こんなの作れるなんて」

「そんなことないから……。これは試作品のようなものなんだ。いずれはこの場所に行けるようにしたいんだよね。ほらっ。救助とかに便利でしょ?」

「そうだね。この場に行けるなら迷子しても安心だもんね。転移だと場所の特定は難しいし……。あっ! 逆に迷子の子がこっちに来れるようにってのはできないかな?」

「逆にこっちにか……。んー……んっ! それだっ!」

「えっ? クワナ? ちょっと……」


 クワナはなにかを思いついたようにノートにペンを走らせる。唸るクワナにはもう小羽の声は聞こえてはいなかった。


 ――クワナってば相変わらずだなぁ……。でも本当に凄いなぁ。こんなに夢中になれるなんて……。


 唸るクワナを見て小羽は微笑んでいた。その様子をアレクサンダースも遠目で微笑ましく眺めていた。



 一方でナズとサランはバチバチと火花を散らしていた。サランはナズの発言にイライラしていた。大勢の目の前で恥をかかされたこと。なによりもいつも小羽と一緒にいるナズを快くは思っていなかった。


「ねぇ? あんたさ? なんで一色さんと一緒にいるの?」

「いっしきさん? なにそれ?」

「一色小羽よ! なんなのあんた……。特待生だかなんだか知らないけど調子にのってんじゃないの?」

「別にー? ナズは小羽とクワナ以外の凡人には興味ないし」

「な、なんなのよあんたっ! 小っちゃいくせに生意気なんだよっ!」

「カッチーンっ! 小っちゃいのは関係ないでしょ! サランこそ無駄にデカいだけじゃんっ! このデカ女っ!」


 睨み合う二人の側にアレクサンダースが寄ってきた。


「なにを言い争っているんだ。早く魔導具を使いなさい。サラン君。君の魔導具は?」

「これですけど……」


 サランはアレクサンダースに魔導具を差し出す。


「紅の魔石と碧の魔石か。転移の魔導具か?」

「いえ。これはただの転移じゃないんですけど……」

「……いいから。ちゃんと説明をして早く始めなさい」


 アレクサンダースはその場を離れ、他の生徒たちの様子を見て回る。


 サランは渋々、ナズに魔導具を手渡す。そして一通りの説明を終えた。


「ふーん。これを置いた場所ならどこでも移動できるんだ?」

「何回も言わせないでくれない? さっさとやってよっ」

「ちょ、ちょっと聞いただけでしょっ!」


 ナズはサランの魔導具を使った。だが、発動はせず。ナズは薄ら笑いを浮かべる。


「なにこれ? 失敗作じゃん……うぷぷ」

「う、嘘よっ! あんたの使い方が間違ってるんでしょ―――」


 サランはナズから奪い取った魔導具を無理矢理発動させた。すると、その場にいたサランとナズは一瞬で姿を消した。


 そして、アレクサンダースが再び様子を見に来るもその姿はなかった。


「あれ? サラン君たちがいない……。た、大変だっ!」



 アレクサンダースはゴートルにそのことを報告。そして、実習訓練は一時中断。すぐにその場にいた生徒たちを集めた。


「なんなの? もう少しで閃きそうだったのに……もうっ」

「クワナ。しっ……」


 ゴートルが生徒たちの前に立った。そして、ゆっくりと口を開く。


「実習訓練を中断させてすまない。重大な事故が起こった。ナズ君とサラン君のペアが魔導具の誤発動により、居所不明となった。だが、落ち着いてほしい。こういう時こそ冷静に対処すべきだ。アレク君。まずは学園に緊急連絡を」

「は、はい!」


 アレクサンダースは魔導具で学園側にこのことを報告。緊急とはいえ、学園に講師がいないのは不味いだろうとドナムースを残し、レオニードがその場に現れた。


 突如現れた魔法陣から出てきたレオニードはアレクサンダースに詳しい説明を求める。 


「どういう状況でこうなった?」

「そそそ、それは……」

「アレク……。少し落ち着けっ」

「は、はい。すみません……。じ、実は魔導具を使う前は二人を見ていたのですが……使うところは見てないんです。それで……き、気がついたら消えていました……」

「はぁー……。で? どこに行ったのかわからねーってか?」


 アレクサンダースの説明は間違っていなかった。本当に見ていないうちに消えていた。だが、転移は行き先があるからこそであって、居場所が特定できないのは迷子というより、行方不明と言わざるを得ない。

 これにはナズの奢りもあった。人族の創った魔導具でどうこうなるとはナズも想像できていなかった。それ故に自身に結界を張ることを怠っていた。


「どうするよ? ゴートル」

「そうだな……。せめて行き先さえわかれば……」


 良案のでない講師たちを見て、クワナがすーっと手を挙げた。


「アレクサンダース先生。その魔導具ってどういうものでしたか?」

「紅と碧の魔石の転移の魔導具。これを置いた場所に転移するというものらしいんだ」


 クワナはアレクの側に行き、その魔導具を観察し始めた。


「あー……。碧は碧だけど。黒紫の混合魔石ですね。これだと発動はしてもこれには転移できないかな……。これはこれでいいアイデアだけど……」


 サランの用いた魔石は純粋な魔石ではなかった。魔導具で使われる魔石は純粋に近いほど良いとされている。他の魔石が交わる混合魔石は発動の失敗が多いとされ、使用を控えるように指導はしていた。


「お前、随分詳しいな。なかなか優秀じゃねーか」

「そ、そんなことは……」

「彼女はスカーレット魔導具店の娘なんです」

「ほう。ウォンの娘か。なるほどな……」

「お、お父さんを知ってるんですか? レオニード先生?」

「まぁな。でもどうする? 魔導具の鑑定なんざ後回しだ。今は場所の特定が先だ」

「あ、あの……」


 そんな時に小羽が恐る恐る手を挙げる。


「なんだお前? なにか良い案でもあるのか?」

「は、はい……」


 小羽が手を挙げたのはあることを思い出したからだ。それは三人のやり取りを聞いていて思い出したこと。


「こ、これを使えば、ナズちゃんに連絡がつくかもしれません」


 小羽は髪をかき上げて耳を見せる。その耳にはギニスからもらった魔導具。クワナが思いついたものだ。当然、クワナはそれに気づいて大きい声をあげた。


「あ―――っ! それ! まだ未発売の商品じゃん! なんで小羽が持ってるのっ!」

「これはギニスさんが試作品で作ったって、この前ギラナダのお店でもらったんだ。私ならナズちゃんと繋がれるかと思って……」

「確かにそれなら……。でも大丈夫かな? いくら仲が良いっていっても……」

 小羽はギニスに説明を求めた時にこう言われていた。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あ、あの。ギニスさん。ど、どうやって使うのですか?」

「これはとても簡単でございますよ。互いに想っていれば繋がることができます。小羽様が想った方が小羽様を想っていれば直接脳に話しかけることができます」

「便利ですね。私の世界のものとは似ていますけど……。私はこっちの方が好きです」

「そうですか……。小羽様とお嬢様が出会わなければこういったものもできなかったでしょう。出会いは想いを生み、想いは繋がりを強くします。この魔導具はそういった繋がりを大事にするために作らせていただきました。早く……。この世界もそうなってくれればと……」

 


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「大丈夫……。場所だけでもわかれば……」


 小羽は魔導具を発動させた。そして、心の中でナズに呼びかける。


 ――ナズちゃん……。ナズちゃん……。


 どこかわからない場所に飛ばされたナズとサランは薄暗い洞窟の中にいた。気味の悪い音やひんやりと冷たい空気が流れるその場所は不気味そのものだった。


「もうっ。勝手なことして!」

「あ、あんたが上手く使えないからでしょ! 人のせいにしないでよっ!」

「あれれ? もしかしてビビってる? 声震えてんじゃん」

「う、うっさい! こ、こんな不気味な洞窟怖いに決まってるでしょ……」

「態度も背もデカいくせに頼りないなぁ……」

「ほ、本当に怖いんだって……。モンスターとか出たらどうしよう。こ、怖い……」


 ナズは無言でサランの右手を握った。


「ひっ!」

「ちょっ……。ビビらないでよ! こっちがびっくりするじゃん」

「だって……。い、いきなり……」

「ナズはいつも小羽と手を繋いでいると安心するんだ……。で、でも勘違いしないでよねっ。サ、サランが怖いって言うから……」


 薄暗い洞窟の中でナズは頬を赤く染めた。それはサランには見えないことであったが、声の調子でそれはなんとなく伝わっていた。

 それはサランも同じだった。いきなり繋がれた手は温かく安心感を与えていた。


「あ、ありがと……」

「そ、そういうこと言われると恥ずかしくなるからやめてよっ。そんなことより早くこの洞窟を出ないと……」


 そう言ってナズはサランの手を引く。だが、サランはそこを動こうとしなかった。


「ちょっと! 早く来てよっ」

「ま、待って……。なにか聞こえない?」

「バ、バカなこと言わないでよ……。わ、私まで怖くなるじゃん」

「あ、あんた。頼りないとか言っといてそっちもでしょ!」

「う、うるさ―――」


 その時。洞窟の先から大きな音が聞こえた。「ゴゴゴ……」と岩が動くような音。


「えっ? な、なにかいるの?」

「だ、だから言ったでしょ! ぜ、絶対なんかいる……こ、怖いっ――――」


 ナズとサランは先の見えない洞窟で不気味な物音を聞いた。


 二人は徐々に近づくその不気味な音に震えてその場から動くことができずにいた。 





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