人々に愛された魔王様のおはなし(プロトタイプ)
ここは魔界にある小さな領地。
打ち捨てられた古い古い城の奥、
豪奢な玉座に腰掛けた一人の少女がいた。
「時にじいよ、契約を交わした人間の数はいくつになった?」
白い肌と青紫の長い髪。
魔紋が刻まれた桃色の瞳。
不敵な笑みを浮かべる少女は、
指先に揺らめく青色の炎を弄びながら老人を見た。
「はい。先ほどの男を入れて、ちょうど100,000になります」
と、執事服の老人が答える。
少女は満足そうに笑い、炎を口に放り込んだ。
うまそうに咀嚼する彼女の口から「人間の悲鳴」にも似た音が漏れ出していた。彼女はそれすら楽しむようにしてゴクンと飲み込んだ。
ぺろりと唇を舐める少女。
はぁ、と、妖艶なため息が漏れる。
「しかしヒトというのは哀れな生き物よの。魔族と契約しているとも知らずに毎日毎日、あくせく〝お願い〟を持ってくるとは」
玉座から見える床の泉には、
様々な町の小さな岩が映し出されていた。
そこには沢山の花や、宝石や、魔本や、食べ物が並んでおり、まるでその岩を祭っているかのように見える。
「妾が願いを叶え、願った者は妾へ信仰心を捧げる。信仰する者が増えるほど妾は魔族としての力が増える」
笑いが止まらんわ――と、上機嫌なこの少女は、魔界の7つある領地の最南端に位置する場所に陣取る「統率の魔王」である。
そうこうしている間にもまた一人、岩に向かってお願いをしている人間が現れる。そのお願いは青色の炎となって魔王の元へと運ばれる。
「なになに?『隣の家のマーくんが、おさななじみのミーちゃんと仲良くしてた。僕もミーちゃんが好きだけど諦めてその恋を応援したい。だからこの嫉妬心を無くしてください』とな? ふむ……」
統率の魔王は難しそうに腕を組む。
「心の透過魔法で見る限り、ミーちゃんはこの子供のことが好きで打ち明けるべきかマーくんに相談しているようじゃな」
泉に映る少女を見て唸る魔王。
「恋のすれ違いですな」
「ふむ、こんなものは簡単じゃな」
そのまま人差し指を向けてなにかを念じた。
少女は体を震わせたかと思えば、岩の前へとかけてゆき、少年に自分の想いと事情を説明しはじめた。そして少年は嬉しそうに涙を流し、二人は楽しそうに町中へと消えていった。
満足そうに頷く魔王。
「うむ。やはり素直な気持ちが一番じゃな」
「素晴らしい手際でございます」
執事服の老人が魔王を褒める。
得意げに鼻の下を擦る魔王。
「この嫉妬心は妾が美味しくいただくとしよう」
そう言って、青の炎を口の中に放り込んだ。
醜い嫉妬の心が入ったソレは、悲痛な叫び声をあげながら魔王の中に溶けてゆく。魔王はそれをうまそうに咀嚼する。
「またひとつ信仰を手に入れてしまった」
「流石でございます」
二人の他に誰もいない城内に笑い声が響く。
今日も今日とて彼女は信仰を集めていた。
統率の魔王は退屈そうに頬杖をつく。
「しっかし情勢はどうなっているんじゃ。なぜ誰も妾の領地に攻めてこんのじゃ?」
魔界では7つの領地を収める7人の魔王による戦争が激化していた――が、実のところ、彼女の領地は他の魔王達に比べ圧倒的に狭く、魔石が取れるわけでも、多くの民がいるわけでもない。
攻め落としても旨味のない領地・魔王であった。
というより、6人の王は「統率の魔王」という存在がいることすら認知していなかったのである。
執事服の老人が何かに勘づき口を開く。
「254の町に魔族が攻め入る予兆があります」
それを聞いた魔王の表情がたちまち曇る。
「妾の縄張りを狙うとはいい度胸じゃ。信仰を失うわけにはいかん――〝青の軍〟を出すぞ」
◇◇◇◇◇
人々は絶望の淵に立たされていた。
ここは約7000人が暮らすアルダンの町。
町を守るおよそ1000人の兵士達は、
眼前に迫る数万を超える魔族の軍勢に戦慄していた。
「おお、かなめ様……我らをどうかお救いください……」
人々は町の中心にある岩に祈った。
いつからか町の中に生えたその岩は、なんでも願いを叶えてくれる不思議な岩だ。
「今回ばかりはかなめ様にも無理じゃぁ」
「魔族は襲った町の人を残らず食うらしい」
「もはや逃げることもかなわん、諦めよう」
すでに戦意を失っている者も多い。
そんな中だった――
「か、かなめ様!」
「な、なんだアレは……!」
人々がかなめ様と崇めていた岩が突如として青色の炎に包まれた――やがて炎はいくつもの人の形を成してゆく。
一歩、踏み締めるたびに炎が鎧となる。
一歩、踏み締めるたびに炎が武器となる。
炎から生み出されし人型は立派な甲冑を着た騎士の姿となり、町の外へ行進する。
「か、かなめ様が助けてくれるぞ……!」
町の人々は涙を流し騎士達を見送った。
「な、なんだこいつらは!」
地平線にひしめく魔族の軍勢に体を震わせていた兵士は、町から現れた騎士達を指差した。
体に青色の炎を纏いしその騎士達は、
町を囲うようにずらりと隊列を組む。
凄まじい数である。
正確には測れないが、およそ10万はいるだろう。
やがて騎士達は魔族の軍勢に向かって歩き出す――アルダンの民が見守る中、圧倒的な戦力差でもって青の騎士達は魔族を退けた。
これは、のちに〝アルダンの奇跡〟として永劫歴史で語られることになる。そしてこのアルダンの奇跡によって〝かなめ様〟を信仰する人間が爆発的に増えていくこととなった。
その頃、統率の魔王――
「おお! 見ろじい! 旦那の10股が発覚し怒り狂った宿屋のソフィアの炎が一番強いな。すでに一人で30の魔族を倒したぞ!」
「やはり女子の恨みが一番恐ろしいのでしょうな」
アホかわいい魔王が書きたかったので




