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短編

いつも口悪い幼馴染が突然告白してきたかと思ったら憑かれてました

作者: Rena
掲載日:2021/03/02


「おはよー、シャルル。今日も可愛いね」


 来客を知らせるベルが鳴り、私が扉を開けると、幼馴染のリグレットがいた。


 私はしばし呆然ぼうぜんとしてぱちぱちと瞬きを繰り返した。


 おかしい。リグレットがこんなセリフ言うはずもないのだ。


 彼の赤みがかったオレンジの髪は寝癖が付いていて肩下まで伸ばしている。


 昨日も夜遅くまで夜更かししていたのだろう、ちょっと目元にくまがある。


「おはよう、リグ。……おだてても何にも出ないよ?」


 私はリグの顔をまじまじと見た。


 ひょうひょうとした顔付きで口元にわずかに笑みを浮かべている。


 その深い赤の瞳は愉悦ゆえつが混じっていた。こんな表情したことあっただろうか。



「もっと愛嬌あいきょうのある返ししろよ」


 リグは表情を落とし口悪くののしってきた。うん、いつもの彼だった。



「今日は何の用事なの?」



 うちは薬草を扱っていて、呪術師の彼はたびたび希少な薬草を買い求めに来るのだ。


 ほぼ毎日来てくれるのでお得意様だ。


「用事はシャルルの可愛い顔を見に来たんだよ」


「え」


 私の表情が硬直したのを見て、リグが半目になる。


「……ばーか」


 リグは暴言を吐きながらすその長い紫のローブの袖元からごそごそと空の薬瓶を取り出した。


「ん」


 私は押し付けられた薬瓶のラベルをまじまじと見る。


月桃げっとう葉ね。また降霊術でもするんだわ)


 彼は呪術の天才だ。


 十六という最年少で難易度の高い降霊術をすでにマスターしている。


 今も彼の周りをくるくるとウィスプが浮遊しているがこれも彼が使役しているものだ。



 棚の在庫から詰められるだけめてはかりではかっている間に、彼はじっと私を見つめていた。


 彼は無言で代金を手渡すとそのままぎゅっと私の手を握ったのだ。


「なあ、明日休みだろ。ちょっとつきあってよ」


 私が驚きに目を見開くと、彼はにーこり笑って言った。


「可愛いシャルルに休みの日も会いたいからね」


「ワーウレシイ」


 リグの返しがまた心をえぐってきそうだったので、軽くのっかるとリグはぱっと手を離した。


 「じゃ、明日十時にうち来て。またな」


 じゃ、と敬礼のように頭に二本指をあててリグは帰っていった。



…………


 翌日、約束時間の数分前にリグレットの家に訪問すると扉を開けたリグレットは目を大きく見開いた。


「は?」


 彼は思わずぽかんとするとすぐさまローブのフードを目深にかぶる。


 そういえば、昨日はフードを外していたが、彼はいつもこの紫のローブのフードを目深まぶかにかぶっていたと思い出す。


「何? どうした?」


 そのうつむきながらふてくされたような言い方はやっぱりいつものリグレットだ。昨日だけ異常に様子がおかしかった。


 時計の針が十時を指し鳩時計が鳴いた。


「昨日リグが来てって言ってたから」


 私が、また来るであろう倒を覚悟しながら口を開くと、リグレットは沈黙した。


(あれ? どういうこと)


 リグは顔を上げるとぱっと私の手を両手で包みにーこりと笑顔で言ったのだ。


「ああ、そうだった! ちょっと支度してくるから中で待ってて」


 彼はぱっとフードを外すと、歩きながら紫のローブを脱ぐ。


 そのローブの下は呪術で汚れてもいいような作業着を着ていた。彼は研究肌だから、いつも上にローブを羽織はおってそのまま来客対応や外出をしているのだ。


 私は玄関先でぐるりと部屋の中を見回した。


 壁には怪しげな動植物の乾燥したものが並べられ、備え付けの棚には変な色の薬品が所狭しと並んでいる。


 奥の部屋の床には血で書かれたような魔法陣があり、その対角線上にはろうそくが立ててあった。


「おまたせ」


 そういって現れた彼は思いのほかまともな服装をしていた。


 黒いパーカーにオレンジのパンツだ。いつもローブの下に汚れだらけのつなぎを着込んでいる彼にしては良心的な姿だった。


「よしいこう」


 そういって彼は紫のローブを羽織った。



…………



「シャルルは今日も可愛いね」


 私の水色のストライプのカットソーに、白いパンツといういで立ちを見て、リグはにーこりと言った。また試されているのだろうか。


「ワーウレシイ」


 リグは私の手を引きながら森の奥へ奥へと進んでいく。ここは、リグが薬草を採集によく来るところらしい。


「ほら見てシロタマゴテングタケ」


 リグはしゃがみこんで小さな白っぽいキノコを指さしている。


 傘が広くて茎が細い、童話の中にできそうな可愛らしい姿のキノコだ。たしか猛毒があったような気がする。


 リグはガサゴソと手袋をしてキノコを袋の中にどんどん入れていく。


(呪術につかうのかな)


 しばらく散策しながら奥に進み、綺麗な滝の上までやってきた。


「ここが今日の目的だよ」


 リグはにーこり笑って言った。なんだろう、景色がいいからかな。


 リグはぎゅっと私を抱きしめて言った。ふわりと月桃げっとう葉のいい香りがする。


 足元の崖には滝が流れ、崖下は身震いするほどいい景色だ。


「ねえ、シャルル。俺と結婚してよ」


 私は困惑した。脈絡みゃくらくというものはどっかに置いてきたようだった。


「まさか断らないよね」


 どすのきいた声で笑顔で威圧してくる。


「ここから一人で帰れると思う?」


 シャルルは恐れおののいた。


 彼のローブのポケットからシロタマゴテングタケがのぞいている。



 …………



 ご機嫌のリグと手をつなぎながらもと来た道へと森を歩く。


「いやあ、忘れられない思い出になるね」


 あらゆる意味で忘れられなくなりそうだった。


 彼はふとローブの内側を広げると、そこには魔法陣とその周りにびっしりと術式が書いてあった。


 彼はひらりとローブを開いて床に置き、簡易魔法陣を作る。


 ローブの内ポケットに入っていた小道具を、ローブの上にすでに描かれている陣の対角線の交わる部分に置いていく。


(何しているんだろう)


 森の出口まではあと目と鼻の先だ。


「今日は結婚記念日だね。よく覚えといてよ」


 リグは鼻歌を歌いながら、ろうそくに火をともす。


 リグは天才だ。


 こんな略式の陣でさえ完璧に発動する。


 ぱああと光が輝き、シャルルは眩しさに目を瞑った。




 …………


 …………



 シャルルの店を訪ねると、いつも君は扉を開けて笑顔で出てきてくれる。


 はらり、君の薄茶色の髪が風に吹かれ、陽の光に透けてきらきらと美しい。


 その紺色の瞳には金の光の粒が煌めき、長いまつ毛にふちどられている。

 

 目が合うと、俺は目深まぶかにかぶったフードの下で顔を赤くして思わずうつむいた。いつものことだ。


「おはよう、リグ。今日は何の用事なの?」


 何の用事、とまるで用事がないと会いに来てはいけないような口ぶりにいつも俺の心は締め付けられる。


 幼馴染としてずっとずっとそばにいたというのに全然俺の気持ちは伝わらない。


「ん」


 ローブのフードを目深にかぶったまま、いつものようにぶっきらぼうに空の瓶を押し付ける。


「ああ、補充ね。ちょっと待ってて」


 そう、この薬草を詰め終えるまでの数分が彼女と会えるわずかな時間だ。


 俺が薬草を大量に消費するためにどれだけ毎日呪術を繰り返していると思っているのだろう。


 そりゃあ天才にもなる。 


 テキパキと量りではかり、ラベルの期限を書きかえるシャルルの顔を時よとまれとばかりに目に焼きつける。


 毎日のように足しげく君の店に通っているのだというのに、まったく、全然、君は疑問ももたないし、俺の気持ちも伝わらない。


 視線に気がついたのかシャルルが顔を上げる。


「どうしたの?そんな見て」


 何も知らずに瓶を手渡すシャルルに、


「ばーか」


 思わず悪態あくたいが口をついて出る。



…………


…………





 次にシャルルが目をあけたとき、リグレットは地面に手をつき、真っ赤な顔をして唸っていたのだ。



「くそっ! 俺としたことがしてやられた!!」



 どうやら体を乗っ取られていたらしい。



 彼は昨日降霊術の最中に気を失って、ときどき記憶がないらしい。


 リグレットほどの実力のある呪術師を逆に乗っ取れる生霊がいたことにも驚きだ。


「あ、じゃあ、結婚はなしなのね」


 私は思わず口にした。


 リグレットは赤い顔でこちらをぎゅんと振り向くと声をまらせた。




「……いや、結婚はする! シャルル……好きだ!!」


 ……本当に脈絡みゃくりゃくがなさすぎる!



…………





「ああ、明日は結婚記念日か」


 リグが私の出した手作りのケーキを食べながらふとカレンダーに目を向ける。


 彼はぺろりと唇をなめた。


「そうね、あのときは本当びっくりしたわ」


 私が笑いながら紅茶を口に運ぶと、彼はさっと時計に目を走らせて無言で立ち上がる。


「ちょっとしばらく自室にこもるけど気にしないで」


 リグは私を振り向いてにーこりと笑った。




「君にもう一度プロポーズしてくる」



お読みくださりありがとうございます。


補足:地の文のリグ=未来のリグレット。地の文のリグレット=現在の彼。



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