第一話
『神人は、人々に奉仕するために選ばれた存在。その人命を守り、豊かにする責務のある存在。』
「ふざけるな!俺の命を奪ってから、他人の命を守れ、だと?!」
舌打ちしながら、経時でボロボロになってきた公園の遊び場でさび付いたアルミ缶を蹴っ飛ばした流馬。近くの中学校の学ランを着てる男子のグループを見つめた。その中にも一人の、黒い短髪の少年がしゃがんでいた。その少年の顔が丸く、かけた眼鏡が少し曲がったような…
「あれ~。」と、男子の一人がわざとらしくがっかりした声で言い出した。「ゲーセンで遊んで金がなくなっちまったー。やぁ下部、昼飯に金貸してくんねぇか?」
話しかけられた男子が頭を振った。
「悪い、俺も金を使い切っちゃったみてぇ。」
「でも影松くんなら、きっと貸せる!」と、三人目の男子が提案してしゃがんでいる少年を指刺す。
最初の男子は手をポケットに入れて屈む。
「なぁ、影松。貸してくれるだろう。」
「きっ、昨日4…4千円貸したばかりで…」しゃがんでいる少年が小さな声で返事した。
「なぁってば~、友達だろう。俺の気持ちも考えろよぉ。」フラれたふりをして影松の足を軽く蹴った。
「わ、分かりました…」と、震えながら答える影松。周りの男子がへらへらと笑い、「ありがたや、ありがたや」とふざけてるが、影松は手をポケットに入れて「あれ…?」と呟いたら、男子たちが一気に黙る。
財布がない!
「どーしたの、影松よぉ。」
「あっ…、どうやら、学校で財布を忘れたようで…」影松の声がさらに小さくなる。
「はぁぁぁ?!」
「す、すみません!明日らなら…」
「明日って何?!」と、男子が大声を出した。「…もういいや、飽きたわ。帰ろっ。」
男子の三人が公園を出て見えなくなる。影松はゆっくりと立ち上がり、汚れた服を手で叩き、少しきれいにしてみる。緊張が収まったら、ため息を出しながら周りを見る。やっぱり、財布がどこにもないみたいと影松が思った。学校で忘れたのもあり得ないが、公園にも学校にもなかったら、どこか途中で落としたのかな、と。
しばらく時間をかけ、学校までの道を何回も歩いたが、財布の気配がなかったので、影松が帰ることにした。お金だけではなく、ゲーセンの会員カードも、電車の定期券も、…亡くなったお母さんとのプリクラ…。自分の一部を失ったような感じを抱いて、影松が家に帰ってきた。
「ただい…っ!」
ドアを開けたら、玄関に財布が床に置いてある。お父さんが仕事で明後日まで帰ってこないはずだけど、と影松が考えながら財布を拾った。中身を確かめたら、千冊が九枚も入ってその後ろに妙なメモが挟まってある。
『昨日の分も、自分だけのために使いな、クソガキよ!』
振り向いて外を見たら、誰もいなかったが、不思議なそよ風が吹き『クソガキ』と囁いた。
お母さんとの写真を見て、一礼をしたら、ドアを閉める。
家の柵の柱にもたれかかっている流馬はふっと笑う。「…クソガキ。」