作戦会議
綿鍋と那加群のキャラを入れ替えてます。
「『進藤』の能力は方向転換…いわゆる『ベクトル操作』よ」
とある戦場、木々の生い茂る林の中で、朱好はそう切り出した。
「ベクトル…便宜上そう呼ぶけど正確には単に運動の方向ね。彼はそれをある程度自在に操ることができるわ。だから彼に向かって放たれた弾丸は全て当たる前に逸らされるし、反対に彼の放った弾丸は変幻自在の軌道を描いてこちらに到達する。ここまではいいかしら?」
聞けば聞くほどとんでもねえ能力だな。
「お待ち下さい!攻撃が敵に当たらないのであれば、どのように勝てばよろしいのですか!?」
「当然の疑問ね。だけど考えてみなさい。本当に彼が全ての攻撃を逸らせるなら、もっと高い序列に位置していても良いはずよ」
「確かに…」
そう、いかな能力にも穴はある。
魔術が科学によって解析され、自在に行使できるようになったとはいえ、それは所詮人間の引き起こす出来事に変わりはないのだから。
「で、でも攻撃できない相手を倒すなんてやっぱり無理なんじゃ…」
「あら、攻撃が効かなくったって『勝つ』方法はいくらだってあるわ。敵を『倒す』ことだけが勝利条件じゃないのよ、那加群ちゃん」
「ふえ?」
「それにね、私は『進藤』に攻撃できる手段はあると思ってるわ」
「えええ!!?どうやってですか!?」
那加群が予想以上に良いリアクションを見せてくれたので、得意げな顔で朱好は話す。
「いい?攻撃を逸らすのが『進藤』の能力である以上、それは彼の『能力を使う』という意思によって発動している。つまり『進藤』の視界の外、認識外からの攻撃なら奴に防ぐ手段はないという事よ!」
うん、つまる所が不意打ちである。
朱好は何やら誇らしげに話しているが、決して胸を張れる内容ではないと思うのだが。
「でもよお、こっちの攻撃はそれで良いとして、向こうの攻撃はどうすんだ?盾とか用意しても回り込まれちまうんだろ?どうやって防ぐんだ?」
「その『防ぐ』という考えが既に『進藤』の術中に入っていると言えるわね。彼の弾丸は変幻自在。でもこれも彼の能力…彼の意思によって引き起こされている現象であることを踏まえると、猛スピードで飛んでいく弾丸にリアルタイムでベクトル操作を加えてるとは考え難いわ。つまり、発射前に予め軌道を決めてあるはず。とすると下手に防ごうとするより回避しようとした方が返って身を守りやすいはずよ」
「防ぐより避けた方がいい…何てこった!こんな簡単なことに長い間気付かなかったなんて!」
古囃が指示を理解しきれず何か変な方向に納得してしまったがまあ問題ないだろう。
今の言葉を理解したとして言っていることは「ガードは無意味だから頑張って避けてね☆」という無茶振りなのだからやることは大して変わらない。
「ってことは『進藤』と直接あたるのはアタシになるのが良さそうだな」
「ええ、負担がかかるポジションで申し訳ないのだけど、前衛は綿鍋さんにお願いするわ」
「おいちょっと待ってくれ!俺は?」
古囃が抗議を上げる。
確かに奴の能力は前衛向きだがいかんせん相性が悪い。
「やる気を見せてくれている所申し訳ないけど、今回前衛の役目は陽動よ。なるべく粘ってくれる方が望ましいの。他の相手ならアナタにも頼みたい所だけど…『進藤』はちょっと相性が良くないわ」
「そんなことねえって!さっき言った方法なら俺も…」
「その代わり!古囃君には頼みたいことがあるわ」
「え…?」
なおも抗議の声を上げようとする古囃を無理矢理制し、朱好が提案をする。
まだ出会って間もないのに随分扱いに慣れてやがる。
「アナタに大事な役目を授けたいと思っているの。この役目の出来次第でこの勝負は決まる…つまり私達の『切り札』になってもらいたいのだけど…他の人に頼んだ方が良かったかしら」
「何言ってんだ!他ならない俺達のリーダーの頼みだ!どんなものだろうが喜んで引き受けるに決まってんじゃねえか!」
『切り札』という言葉に反応したな。
小学生男子みたいな古囃の心理をよく心得ている。
「しかし、とするとアタシ1人で変幻自在の弾丸を避け続けるわけだろ?長くは持たねえぞ」
「安心して、前衛には棚架もつけるから」
「なんでだよ!」
聞いてないんですけど!
「何言ってんの。アナタ敵に触れてナンボの能力じゃない。前に出なくてどうすんのよ」
「それはそうだけどさあ…」
その「触れる」という条件を満たす前に死にそうなんですが。
「残りのメンツは周囲で機を伺う感じね。それじゃあ後は臨機応変に。私達のデビュー戦、華々しく飾るわよ!」
…華々しく散る未来という認識でよろしいですかね?