第7話:校門前でも井戸端会議
振り下ろされようとした腕を止めたのは、
「やみよくん……」
凩やみよ、その人だった。
「…………」
「…………」
無言のまま、睨み合う2人。
「ちっ……」
沈黙を破ったのは柴村くんだった。
舌打ちをし乱暴に鞄をつかむと、教室から飛び出して行った。
海梨ちゃんは恐怖と安堵のあまり、床に座り込んでしまっている。
教室内には、
「やっぱりあいつは殺人犯の子供だったんだ」
「カッターを取り出すなんて。ありえない!」
「大丈夫? 海梨ちゃん?」
という言葉が飛び交う。
海梨ちゃんはかろうじて、大丈夫、と呟いただけだった。
「カイリはねぇ。友達が少ないんよ。意外やぁ思うかもしれんけど」
ひのでちゃんは言う。
幼稚園からの幼馴染だというから、たぶん本当なのだろう。
僕らは今、放課後の校門の前にいる。
この時間、他の人は部活で汗を流しているころだろう。
「ふぅん…。逆に『世界中のみんなと仲良し』みたいな感じかと思った」
明るい性格だし。
「なんてゆーか、自分から人の中に入って行こうとせんのかな」
「なんで?」
「それは、ウチに訊かれても困るんやけどさ。…嫌われるんが怖い、とか?」
「ありそうだけど…」
「まあ、ぜーんぶ本人の問題やから、ウチらが口出すことちゃうとは思う」
「…………」
「でもな、寂しいんやと思うよ。明るく振舞ってはおるけど」
「…………」
「だから、寂しそうにしとる人を放ってはおけんのやと思う。例えば、初日の孝くん」
「なるほど」
行動力がない、わけではないのか。
「今回もそうなんちゃうん?ああやって訊くことで、柴村くんが『殺人犯の子』やないことを証明しようとした。
否定することを望んで」
「でも、結果がアレってことか…」
海梨ちゃんも、かなりのショックだっただろう。
あの後、体調不良で早退したし。
「明日、柴村くんは来んやろうなぁ」
「明日どころか、絶対転校するだろうね」
「どっちも心配やけど……、とりあえずカイリのこと頼むで」
「そんなこと言われてもさ……。海梨ちゃんを支えてあげられるのは、ひのでちゃんだけだと思うよ」
僕が海梨ちゃんの数少ない友達であろうと、所詮1週間程度の付き合い。
やっぱり、気の許せる幼馴染のほうがいいだろう。
「そうしてあげたいけど、ウチではどうにもならん。てーか、どうにもならんかった」
「じゃあ、僕にも無理だよ」
「いや、今回の話やなくて、昔……。まあええわ、とりあえずウチには無理」
「ふぅん」
「それに、孝くんって頼りになりそうやし、意外に」
付け足しが余計だ。
「わかった。僕にできることなら」
「ありがと」
「で、具体的には?」
「自分で考えて」
「……はい」
「じゃあ、バイバイ」
「うん、また明日」
そう言って、ひのでちゃんは帰って行った。
「さて……」
僕も考えなくては。
さっきの事だけでなく、色々と。
夕闇に溶けてゆくひのでちゃんの背中を見ながら、そう思った。