第49話:縁日と祭りの違いを教えてほしい
「あっ、こっちにたこ焼き屋があるよ!」
「お、おう」
「ちょっと買ってくるから、琢人くんは待っててね」
「わかった」
小走りに屋台へ向かう井戸端。
その小さな背中を見送りながら「なんでこうなったんだ?」と、一人呟く。
おかしい。確か俺は、孝介と待ち合わせしていたはずだ。まぁ、その孝介が井戸端を連れてくることを期待していなかったと言やぁ、それは嘘になるんだけどな?
それが、何だ? 井戸端しかいねぇじゃん。井戸端本人も「あれ、ヒノちゃんは?」って言ってたしよー。
「ふぉ待たふぇ」
めちゃくちゃ熱いはずの焼きたてたこ焼きを頬張りながら、笑顔の帰還。やばい、可愛い。
「ふあっ、おふぃとふ……」
「いいから! 飲み込んでからでいいから!」
「ん。……………うん。お一ついかが?」
そう言われ、差し出された透明のパックに目を落とす。けど、どこをどう見たってソースと鰹節しかない。
あ、端っこに紅しょうが発見。
「って、全部食ってんじゃねぇか」
「うぇ? わっ、本当だ!」
「自分で驚くなよ……」
……あれ。俺、こんな立ち位置だったか? いつもなら俺がつっこまれてるはずなんだけど。
井戸端は井戸端で、どっちかってと常識人目ツッコミ科だろ。
「ごめんっ! 今から買ってくる!」
「いやいや、いいよ別に」
「次は焼きそばがいいかな? それともポテト? あ、でも綿飴食べたいし」
「…………………」
「りんご飴も良いよね。あー、かき氷食べなきゃ……」
結局食べ物系を一旦やめることになったのは、暇で暇でしょうがなかった俺が、頭の中でラジオ体操第二を奏で終わった時だった。
今度までに、もぅちょいマシな暇潰しを考えておこうと思った。
「あっ、あいつらこっちに来るぞ」
「あそこの木に隠れましょ! ……ってヒノは!?」
「ただいま戻りましたぁ〜」
「ヒノ!! どこ行ってたのよ!!」
「ん? 宣言したとーり、射的に」
「おっ。なんか当てたか?」
「お金を払って、おっちゃんの怒りを買ってきた」
「だから、おっちゃんは景品じゃないんだって!!」
「上手くまとめたわね」
「言ってる場合?」
俺は今日初めて『型抜き』とかいうモンを知ったわけだけど、誰か知ってたか、これ。
平べったいガムみたいなやつを、それに書かれた下書き通りに針っぽい物で切り離すんだ。型通りに上手くできれば賞金が貰える。難しい物なら儲けることだってできる……らしい。
「こういうのって、ヒノちゃんが得意なんだけどねー」
そう言う井戸端は、賞金10円の一番易しい型を、回しながら切り抜いていた。さすが、慣れてるなぁ。
俺は……っ、この……150円を……。
ぷちっ
「…………ミスった」
パンダが耳なしに。
「あーあ、こりゃダメだね。もう一回するかい?」
お、おばちゃん! 俺にまたチャンスをくれるのか……!
「はい、100円払いな」
ですよねー。
「簡単なので練習するのがいいと思うよ?」
綺麗に切り抜き終わって、見事10円を貰った井戸端が言う。
「そうだよな。じゃあおばちゃん、120円のやつ!」
「彼女さんのアドバイスは無視かい? わがままな彼氏さんだねぇ」
「いや、彼女とかそういうのじゃ……」
「でもさぁ、それじゃあ得しねぇじゃん。参加料が同じ100円なら、高いの狙った方が得じゃね?」
「さっきのミスを取り戻すためには、あっちの300円とか500円とかしなくちゃいけないんだよ?」
指差された方に目を向けると、火を吹くドラゴンとか天使と悪魔とか、壮々たる下絵がずらりと並んでいた。
あれが気になるな。
「あの『桜田家族』って何なんだ?」
「琢人くん……。そのまんま『サクラダファミリア』だよ」
「……おーまいがっ」
せっかく日本語訳したのに…………うぅっ。
「10円のやつ下さい……」
「はいよ」
一番簡単な、この“りんご”なら、まぁ確実に成功し「ぷちっ」………………。
「……………………」
「……かき氷、食べに行こっか」
「…………はい」
ぷちっ
「ああ! また千切れた!」
「ちょっと前園、ヒノ? いつまでやってるの! 見失うわよ!」
「ちぃと待って。あとちょいで…………できたっ!!」
「どれどれ?」
「見よ!! 桜田家族完全版ッ!!」
「スゲェ……」
「“家族”イコール“ファミリー”なんだけどな」
続きます。
本当は一話にまとめる予定だったんですが……。