第41話:逃げるが勝ちっていうよね
日の光が差し込まない、昼でも薄暗い路地裏。
大量のゴミとエアコンの外機くらいしかない、表通りを『光』とするなら、ここは間違いなく『闇』と表現されるだろう。
当たり前だが人通りは全くなく、多種多様なゴミが所かまわず置かれているため、逃げ隠れするのに最適だったりする。
「だからって、ここを逃げ場にしなくても……。この前にあったことを忘れたのか?」
「忘れてないよ? てゆーか、あの怖いおにーさん達に囲まれた時思ったんだよ。路地裏ってかくれんぼするのに最適だなーって」
人を襲うのにも最適だなーっ。
「いーじゃん、葉桜なら安全だって。それよりさ、ほらほらー」
笑顔で片手を挙げられても……。ええと、僕も挙げろと?
「作戦成功! いえーい!!」
パンッ、とハイタッチ。あ、楽し。
「まさか成功するとはねー。あたしが一番びっくり!」
「海梨ちゃんに鞄を持っていく理由を訊かれた時、巧く切り抜けたな」
「本当は帰っちゃうからなんだけどっ」
ナオ曰く、これを『合コン強制終了作戦』というらしい。
何でも、合コンの途中で女性が一斉にトイレに行ったら、それはそのまま帰ってしまうサインだとか。まさか腹痛のふりをするわけではないと思うけど、大人になった時のために憶えておこう。
「あたしがあの程度の大きさで腹痛起こすわけないじゃん!」
「そのわりに、昨日は起こしてたよな? ハンバーグで」
「あれとはまた別腹よー!」
こいつには一体、合計何個の胃袋があるのだろうか。牛といい勝負かも。
「あと十五分くらいしてから様子を見に行こうか」
「それまでここにいるんだよね?」
「いや、作戦考えたのはナオだろ?」
訊かれても困るんだが。
しかし僕としては……このままがいい。
なぜかって、簡単な引き算だ。4から2を引けば2。あっちが二人きりなら、こっちも二人きり。
「………………」
ちなみに、これは僕が意図したことではない。ナオの作戦がたまたまそうだったのだ。その点はご理解いただきたい。いやマジで。
「んー……」
……しかしここは、言ってしまうべきなのだろう。
こんな言葉僕には到底似合わないが、『男らしく』。
……………ふぅ。
「なぁ」
「ねぇ」
………………………。
「あ、先どうぞ」
「こーちゃんからでいいよ?」
「いやいや、僕は後から」
「あ、あたしこそ後のほうが」
………………………。
「「じゃあお先に……」」
…………………………。
ぷぷぷっ、ククク…と、どちらからともなく笑いが洩れる。
「僕らは相当気が合うらしい」
「ほんと」
さっきまで緊張して足も震えていたのだが、いつの間にやら無くなっていた。
「さて、どうする?」
「あたしが先言おうか?」
「いや、僕から」
さっきのやりとりでリラックスしたし、今なら上手く伝えられる気がする。
まっすぐナオの大きな目を見る。
焦る必要はない。
ゆっくりでいいから、しっかりと。
「ナオ………、
「あぁん? どっかで見たツラだなテメェら」
「「――――!!?」」
こいつらは――ナオを助けた時にいた不良!?
金髪で大柄な高校生と、その後ろに従う三人。奇妙なことに、どの不良たちも腕な足、頭等に新しい包帯が巻かれている。
――なぜこいつらがここにいるか、なんて考えている余裕はない。
考えるべきは、これからどうなるか。
僕らにある選択肢は一つ。
「ナオっ!! 逃げるぞっ!!」
「う、うん!!」
狭い路地裏の奥に向かって、ナオの手を引き走りだす。
「おいこら!! 待ちやがれ!!」
勿論そう言われて待つはずもなく、全速力で逃げ――――って、
「もう行き止まりかよ!?」
一つ目の角を曲がったところで、大きな壁が僕らの前に立ち塞がった。もう少し入り組んだ造りになっててもいんじゃね?
「ハハッ、ざまぁねえな」
すぐに追い付いてきた金髪が言う。
「これで逃げ場はねぇ。おとなしく顔貸せや」
この場合の貸借は返ってこないことが前提である。
「そういや片桐さん。この女の方はともかく、こっちの男なんていましたっけ?」
後ろに控えていた赤髪が金髪――片桐に訊いた。
「ん? いや。記憶にない」
おまえらはどうだ? と片桐が残り二人に訊いたが、どちらも首を横に振った。
……そんなに存在感薄いかな、僕?
「まぁいい。こっちは『冷たき烈風』のせいでイライラしてんだよ。ちィとサンドバックになってもらおうか」
「でも片桐さん。奴が仲間には手を出すな、って……」
「うるせぇ!! 中坊のいったことにいちいち構ってられっか!!」
「す、すみません……」
くそっ、やみよの行動が裏目に出たか。と言うより、最初から意味がなかったか……?
でもまぁ、状況は認識した。
僕の役目は、何としてでもナオを護ること。
後ろで心配そうに不安そうに震えている大切な人を、これ以上傷つけないために。
――僕は戦う。
僕自身に力は無いけれど、言葉は力を持っている。
「あ、すいませーん」
好きな人に、格好悪い姿は見せられない。
「なんだァ?」
「……ちょっとお話、いいですか?」
さぁ――戦争を始めようか。
なんかこんなことになりました、はい。
言葉VS暴力の戦いです。
終わりませんねー……。