第33話:Remember My Past....two
「マスコミ、か…。確かに大変だな」
タクが呟く。
誰に語り掛けるでもない、ただ単なる独り言。
その表情は――歪んでいた。
「報道は、また青少年犯罪だの、なぜ教師はいじめに気が付かなかったのか、だの好き勝手囃し立てやがった」
思い出すだけでも怒りがこみあげてくる。口調が自然と荒くなったが、この気持ちはもう理性だけではどうしようもないことを理解して欲しい。
「それが広まれば、敵はもはや不特定多数の人間全員だ。どこから嗅ぎつけたのか、朝から晩までナオの家の電話は鳴りっぱなし。内容は、いじめを批判するものからいたずら電話、挙げ句の果てには怪しい宗教の勧誘まで、ほとんど間をあけず、寝る暇もないくらいだった」
「……で、電話線を引っこ抜いたんだろ?」
「そうするしかないからね」
「だけど、そんなことで諦めるような奴らじゃなかった、か? それとマスコミも終わったわけじゃない」
「そう」
「だろうな」
これらも、質疑応答などではない。
僕とタクの間の、単なる確認作業。
社会の不合理と世界の不条理についての―――確認。
「日本には明治時代から続く連絡手段、郵便があるからね。さすがにこればかりは止められない。毎日毎日山のような手紙が送られてきて、近所からは文句が続出。
それに、マスコミだってちょっと報道して終わり、ってわけにはいかない。『いじめ』っていうセンセーショナルな話題だからね。特集まで組んで大々的に報道したんだ」
「ふぅん……。まぁ、あいつらは取材のためなら手段を選ばない人種だからな。俺は早々と逃げたからよくわからないが…」
逃げて、逃げて、逃げて、辿り着いた、葉桜町。
タクはそうするしかなかったのだろう。
でも、ナオは逃げなかった。
自分の無実を証明するために。
「唯一安全なのは学校内だけで、あとはどこからともなくレポーターが飛び出してくるような生活。一応僕や友達が協力して策に嵌めながら逃げてはいたけど、それでも諦めない」
その上、マスコミの魔手はナオだけではなく、周りの人間にも及んだ。
僕とて例外ではない。むしろ筆頭だった。
そりゃそうだ。マンションの隣人で生まれたときからの付き合い。こんな身近な人間はそうそういないだろう。
「まぁ、僕や僕の家族は『ナオは何もやってない』の一点張りだったから、なんだ期待はずれー、みたいな顔をしてたよ」
がっかりする様子を見ることは楽しかったけど、そんなことばかりは言ってられなかった。敵は、新たな敵を生み出す。
「レポーターは周りの人間、つまり、葉桜三中の生徒なら誰彼かまわず追っかけ回した。ナオと親しい友達はともかく、そうじゃないただの知り合い程度の人にはとても耐えらるものじゃない。そして、その行き場のない怒りを、大元の原因であるナオにぶつけ始めた。いわゆる、
『いじめ』
ってやつ」
「…………………」
中身の無い嘘だった『いじめ』が、皮肉にも、本当の『いじめ』を生み出し、唯一の安全地帯が一瞬にして危険区域へと荒廃した。
「……学校なんてものは、ストレスとイライラの上から蓋をして無理矢理ねじ込んでいるような所だからね。もし、蓋に少しでも穴が開いたら……」
悪意という悪意が、害意という害意が、敵意という敵意が、知る知らないにかかわらず全てそこに集中する。教師なんて無力な存在に成り下がり……、いや、教師さえも巻き込んだ『集団』が支配する絶対の社会。
奇しくも、学校とは集団行動を学ぶ場所。その集団主義教育の副産物がコレだ。
「――友人を失ったショック。無実の罪。絶え間ない取材。周りに迷惑をかけているという罪悪感と自責。学校での陰湿ないじめ。その上、先生からも見放された……一介の女子中学生が……、いや、誰であろうと耐えられるものじゃない。精神的にも身体的にも、ナオは限界だった――――」
次回、野原見市立山城中学校、過去編。