第32話:Remember My Past....one
もうそろそろ書き溜めが無くなります。
つまり、ヤバいですはい。
誰も口を開こうとせず、刻々と時間だけが過ぎてゆく。
じりじりと照っていた陽が少し陰り、強い風が木々を揺らす。夕立の前兆なのかもしれない。
そんな中、一番始めに口を開いたのは、当事者・タクだった。
「お、おお、おう。名前が似てるなー、ってよく言われ…て……」
しかし、どんどん声が小さくなってゆき、最後には下を向いてしまった。もう誤魔化しようがないと悟ったのだろう。
迂闊だった。ナオの発言に、笑いながら「そんなわけないだろ〜」と、冗談っぽく返せばいいだけの話だ。
それなのに、不意を突かれて黙りこんでしまったことで、真実が零れ落ちた。
こんなにも、簡単に。
タクが僕に目で問い掛ける。「話すしかないだろう?」とでも言うように。
僕は首肯で応えた。これはタクの問題であり、タク自身がそう思うのなら、僕が許可する云々(うんぬん)の話ではない。
それに、ナオは……、
「あっ、話さなくていいよ。と言うか、話さないで」
と、目線を下に落としながら言った。
「でも、一つだけ聞かせてくれないかな…?」
それは単純に質問ではない。
「今、たくさんの友達に囲まれて生活できてるのって……」
問い掛けですらない。
相手に対する、確認作業。
「タクくんも、孝ちゃんに助けられたの?」
「俺『も』……?」
「あたしは、孝ちゃんに助けられたから、ここにいるんだ」
ナオは、
幼馴染、今藻奈央は、
過去に痍を残し、
心に疵を負った、
傷だらけの少女。
「タクくんは、違うの?」
その時の応急処置が、正しい選択だったのかはわからない。
でも――
「……いいや、その通りだ」
「……そう、やっぱり、ね……」
タクが断言した後の、ナオの微笑を見て、
僕の選択は間違っていなかったのだと、あの日から心につっかえていた物が、音もなく外れた気がした。
「さて、と」
今この場にナオはいない。
先程、「そこのユ○クロで一時間くらい服を見てるから!」と言い残して去っていったのだ。
つまり、暗に事件のことを話しておいてと言っているのだろう。
確かに自分で話すには辛すぎる内容だけど、それなら秘密のままでいいのではないかと思ってしまう。
まぁ、ナオのことだ。「友達に秘密事はダメだかんね!」とか何とか言うだろうけど。
「で、これはどういうことなんだ、孝介?」
「昔、なっちゃんに何かあったの?」
「……うん。僕も進んで話そうとは思わないんだけど」
だけどもう、話すしかなさそうだし。
「だいたい一年半前、一年生の終わりのほうでさ、葉桜でも問題にならなかった? 『自殺』について」
「自殺……?」
「そういや、新しくスクールカウンターのセンセが来るようなったりしたけど、それと何の関係があるん? なっちゃんは今も生きとるで?」
「そうじゃなくってね。その少し前、山城中学一年の――つまり元同級生なんだけど――女子生徒が一人、学校の屋上から飛び降りて自殺したんだ」
「うそ……。でも、なんで……?」
「原因は男性教諭による嫌がらせと性的暴行。ただ、これは後になって判ったことで、この時点では犯人以外は誰も知らなかった」
僕も、もちろんナオも知らなかった。
「男性教諭は屋上で女子生徒の遺書をいち早く見つけた。そしてその遺書を素早く処分したんだ」
犯人にとっては幸いと言うべきか、野次馬連中は落下現場に近づくだけで、誰も屋上に行こうとはしなかったらしい。
「あとは偽の犯人をでっち上げるだけで、自分は罪を逃れられる。そう思ったんだろうね。だからそいつは噂を流した。『自殺の原因を作ったのは今藻奈央だ』って」
「……で、でも、そんな噂、誰も信じないんじゃない?」
「いや、そうでもなかったんだよ。亡くなった女子生徒は人との関係を殆ど持ってなかった。多分、自分以外の被害者を出したくなかったんだろう。もしかしたら、そんな風に脅されてたのかもしれない。だから、その子に友達なんていなかった。……ただ一人を除いて」
「まさか、なっちゃん……?」
「そう。あいつはいくらその子に無視されようとも、一年間話し掛け続けた。他の友達が『放っときなよ』と言う中、たったひとりだけ」
「んだとしても、そんなん他の友達が信じるわけないやろ。あの誰に対しても明るく接する性格を知っとんやったら」
「勿論、生徒の殆どは信じなかったよ。ただ……」
「ただ……?」
「ただ、報道機関が、ね……」