第29話:公衆電話を使って何が悪い!
照りつける太陽にも負けず、生命を賭して大合唱を続けるセミを「うるさいなぁ」の一言で一蹴しながら、僕らはコンビニに着いた。
鳴き声に邪魔されて、喋りにくいったらありゃしない。
「あっ、こーちゃん! あの人って、タクくんじゃない?」
若干声を張ってナオは言った。
「ん? ホントだ」
というかいきなりあだ名(しかも下の名前)かよ。
「え? だって紹介してくれなかったじゃん? 『タク』と『たっくん』しか聞いてないよ」
「そうだったっけ?」
言われてみれば、そんな気がする。
原因は女子三人の会話が大いに盛り上がっていたことにあるのだろうけど。
「あいつは、柴村琢人っていう名前だ」
「え? しばむら、…たくと……?」
「どうかした?」
「…別に! 何でもないよ!」
「ふぅん」
とりあえずタクの方に目を向ける。
あいつは、コンビニ(正確にはドア付近の公衆電話の前)で挙動不審していた。
万引きGメンがいたとしたら目を付けられること必至である。
「おーい、タク!」
「うん? あ゛ぁ! 孝介!」
タクは僕と目が合った途端、驚愕したとか驚倒したとか、そこらあたりの修飾語が複数付きそうな顔になった。
「いや、そこまで驚くことか? しかも、何してんの?」
「あ、いや、その…」
「どこかに電話をかけるんでしょ?」
「ま、まあな」
受け答えをしながらも、目線が宙を彷徨っているタク。
はた目から見てもかなり焦っていることがわかる。
あの補習の日のように。
「こんな所にいたら他のお客さんの邪魔になるよ? 早くかけちゃいなよ」
「……まさかタク、相手の電話番号がわからない、なんてことは…」
「なぜわかった!?」
「「そうだったの!?」」
計画的にやりましょうや。
「で、どこにかけるんだ?」
「あ〜……、井戸端んトコ…」
「ふぅん。海梨ちゃん家の番号か…。僕は知らないけど、タク、その電話の横にある黄色くて分厚い本、なんだと思う?」
「さぁ? 六法全書?」
まず公衆電話に六法全書を設置する意義を教えてほしい。
あれかな? 振込め詐欺しようとする人に、『結構罪重いぜ〜?』と教えて、思いとどまらせるとか。
……違うか。
「そのタ○ンページというものを見れば、番号がわかると思うぞ」
「マジ!?」
「「マジ」」
「そうだったのか…。えーと、井戸端海梨、井戸端海梨っと……」
・ ・ ・ 。
「ない!!」
「はぁ!?」
絶対にあるはずだ。そのタウ○ページ、今年版だし。
「ねぇ、タクくん。『井戸端』さんは誰かあった?」
「おう、一つだけ。『井戸端海樹』ってのが』
「「絶対にそれだ(よ)」」
「でも、『海梨』じゃないし…」
「普通、家の番号は親の名前が載ると思うのは僕だけか?」
「おおぅ! それもそうだ!」
まぁ、うん。後から納得しただけよしとしよう。
「で、早くかけろよ」
「えぇ! いや〜……」
「躊躇わなくてもいいじゃん。いつも学校で会ってるし…」
「はいはいはい。こーちゃん、もう行くよ!」
ナオはそう言いながら、僕の服の裾を引っ張った。
って、
「コンビニには入らないの?」
引っ張る方向がコンビニの入口とは180度逆なんだけど?
「いいから行くよ! あ、タクくん、バイバ〜イ!」
「おわっ、分かったから放せって。タク、またな〜」
電話の前で今だに挙動不審しているタクを置いて、その場を足早に去った。
「もぅ…、こーちゃんは気が利かないね」
「何が…? というか、あいつはなんで家からかけなかったんだ?」
わざわざ公衆電話を使う必要性がわからない。通話料も高いのに。
「家にお母さんがいるからじゃない?」
「いや、別にいてもいいだろ。そんな、聞かれたくない話をするみたいな…………、ん?」
と、ここで、思い当たる。
『さっきの焦りよう』
『聞かれたくない話』
『補習の日の会話』
いや違う、もっと前から。
『体育祭のあの事件』
『4月のあの事件の後』
思い出せ。
それらに共通するのは?
『井戸端海梨』
「……なぁんだ、そういうことだったのか。なるほどって感じだ」
「こーちゃん気付くの遅い」
「うるせ。おまえが早過ぎるんだ」
気付いてみれば簡単なことだった。
多分、柴村琢人は、井戸端海梨のことが……、
「好き、なんだろうな」
急展開………、のつもりはないんですが……。
色々とそれらしい事を言わせてましたし。
……はい、伏線がわかりにくすぎますね。