第26話:良い雰囲気デストロイヤー
暗い路地裏には、ィィィィィ……と高い残響音がこだまする。
そんな中喋り出した、
大量殺人犯の息子が一人。
「危ないな。そんなもん、軽々しく振り回すなっての」
カッターを持ってるおまえが言えることか? と突っ込める雰囲気ではないようだ。
「誰だァ、おまえは?」
鉄パイプを持っている奴が訝しげに訊く。
「ん? そんなの決まってるだろ? こいつらの友達だ」
バカにするように軽く応えるタク。
だが、力は緩めてはいないようで、カッターはチキチキと音をたてて震えていた。
「くそっ。ナメてんのか!?」
「別にナメてやしねえぜ?ただ――」
と、それまでニヤニヤとした笑顔だったタクの顔が、一瞬にして真剣な表情に変わった。
「ただ――怒ってんだ!!」
そう言うと、かん、と一旦パイプを弾き、目にも留まらぬスピードで相手に飛び掛かった。
そして、手にしたカッターを横に一閃。
今度は音はなかった。
だが、結果はこの目に映る。
鉄パイプが、真っ二つになっていた。
「なっ…!!」
パイプの手で持っていない方が、カランカランと音をたてて地面に落ちる。
その有り得ない光景に、相手は呆気にとられていた。
いくら古いとはいえ、鉄は鉄。
いくら研いでいるとはいえ、カッターはカッター。
同じ金属でも、元々の強度からして違う。
それを……容易く斬鉄するなんて。
有り得ない…。
「おっと。のんびりしてる場合じゃねえな」
見ると、他の不良たちが立ち上がっているところだった。
やみよも呪縛から巧く抜け出せたようだ。
「さぁて……、行くぜ?」
そう言うと、カッターを左手に持ち替え相手に殴りかかった。
そこに、やみよや他の不良も加わり、乱戦に。
ここで僕が一番心配しているのは、タクが父親と同じ罪を犯すかもしれないことだったが、その必要はないようだ。
あいつは、相手の意識をカッターに集中させることで隙を作り、蹴りなどをキメていた。
なるほど。刃物と素手では警戒レベルが違いすぎるから、無意識のうちに刃物に目がいってしまうのだろう。
たとえ使う気がなくとも、振っているだけで牽制になる。
案外、こういうことに関しては頭が良いのかもしれない。
と、そんなことを思っている間に決着がついたらしく、6人の不良たちは、「覚えてろよ!!」と月並みな捨て台詞を吐きながら走り去っていった。
いや。最初にやみよの蹴りを受けたリーダーっぽい奴だけは、足を引きずっていた。
なんつー威力だよ……。
「ふー。孝介とえっと……そっちの人。大丈夫か?」
「え、あ、はい。助けていただいてありがとうございます」
「構いやしねぇよ。っと、それじゃ帰るか。自己紹介はそん時ってことで」
「海梨ちゃんとか待たせてるしね」
「よーし、レッツゴうわっ!」
助けられた張本人、ナオは走りだそうとしていきなりコケた。
全く、こいつは……、
「何にも変わってないな、おまえ」
「うるさいなー、もぉ……」
「牛かよ」
冗談を言いながらも、僕は持っていた絆創膏をナオのすりむいた膝に貼った。
「ん。ありがと」
「そろそろ無駄に怪我する癖、直せよ」
「あたしだって好きで転んだりしてるわけじゃないよ!」
「じゃ、尚更だな」
「う、うるさい! もう行くよ!!」
そうテンションをあげるナオだったが、僕は気付いていた。
その大きな目の片隅には、涙が溜まっていることに。
そうだよな。
こんな薄暗い所で不良に囲まれていたんだ。そりゃ、怖いよな。
「もう、大丈夫」
なんとなく、言ってみた。
でも、ナオは振り返り、涙を振り払うように笑顔でそれに応えてくれた。
「こーちゃんは何の役にも立ってなかったけどね」
「………………」
雰囲気をぶち壊しやがった。
さてさて、戦闘が終結しました。そして再会した『僕ら』。二人の関係やいかに!