第23話:始まったふたつの物語
好きな人。
好きだった人。
今でも好きな人。
片時も忘れることはない。
一瞬だって消えはしない。
目蓋を閉じれば脳裏に浮かぶ。
あいつは、今頃どうしているのだろう?
第二長編『今もなお、届かぬ想い』
笹ケ谷市。
葉桜町と野原見市の間、どちらかというと葉桜よりに位置するこの市は、大きなスタジアムがあることで有名だそうだ。
そのスタジアムでは中学総体の県大会も行われるらしい。
「だから、応援に来てくれないか?」
夏休みの補習終わりに、タクがそんな事を言い出した。
「僕は別にいいけど」
「凩とかも誘って」
「ひのでちゃんを呼ぶということは、海梨ちゃんも?」
「お、おう。もちろん。誘ってくれ」
「……なんで僕が誘うんだ? 自分で誘えよ」
「いやー、それは…」
「しゃーないなぁ、たっくんは」
と、いきなり口を挟んできたのはひのでちゃん。
「話は聞かせてもろうたでー。カイリを誘うんはええけど、ウチとか孝くんが付いて行てええん?」
「なな、何言ってるんだよ? いいに決まって…」
「タク、汗がすごいぞ」
「あつはなついんだ!」
うん。確かに『夏』は『暑』い。
「まぁ、たっくんがそう言うんなら一緒に行くけど……、確かサッカー部やったっけ?」
「お、おう」
「てことは笹ケ谷か…。やみよを連れていこうかな…」
「なんで?」
「え、まあ、一応」
どういうことだろうか? やみよが実は熱烈なサッカーファンだったり?
……想像できん。
「試合は日曜の十時からだから」
「了解」
「オッケー。ちゃんとカイリに伝えとくわ」
「お、おお。頼む」
そう言ってタクは、去って行った。
「……あいつ、なんであんなに焦ってたんだろう?」
どこに焦る必要があったのだろうか? よく分からん。
「気付かんかったん?」
「何に?」
「わからんのならええ」
呆れた顔をしているひのでちゃん。
全く以てよく分からん。
「ふぅ…。間に合わないかと思った〜」
現在は電車内にいるわけだけど、ここに着くまでにはかなりの紆余曲折を経た。
それをほんの試験的にだけ表すと…、
僕が、約束の電車に間に合うか間に合わないかのギリギリに起き、自転車という移動速度を劇的に速めてくれる便利な道具のことも忘れ、全速力で走ってたら十字路で食パンを口にくわえた女の子とぶつかり、ラブコメ的ノリになると思いきや相手はひのでちゃんであり、「落ちた食パンの恨み!!」とか言われながらボコられた、など色々とあったわけだ。
特に側頭部へのハイキックは尋常じゃないくらい痛かった。
「孝くんがぶつかってくるから遅くなるんや」
「いや、その後の一方的な暴力のせいだよね!?」
「孝介くん、腕から血が出てるよ…。痛くないの?」
海梨ちゃんに言われ見てみると、確かに出血が。頭や首の痛みで気付かなかった…。
「まだ固まってないな」
「全速力で走ったからじゃないかな?」
「多分ね…」
そう言いながら、ポケットから絆創膏を取出し手早く傷口に貼った。
うん。たいした怪我じゃない。
「って、何をどうしたらこんなことに!?」
「さあ? 食パンの恨み?」
「なんで!?」
「最近不景気やから全然売れんし」
「リアル! でもって恨む対象多い!」
頑張れ日本経済! 負けるな中小企業!
「そういえば、ヒノちゃんはなんで遅れそうになったの? やみよくんがいるのに」
「こいつ、ウチを起こさんと出て行ったんで。最低やろ?」
自分で起きろ。
人のことは言えないけど。
「やみよくん、全然喋ってないけど、まさか無理に連れてこられて怒ってる?」
「…………別に」
その目は怒ってるようにしか見えないぞ〜。
『次は〜、笹ケ谷西〜、笹ケ谷西でございます』
「お、次か」
「準備しとこうでー」
「分かった」
「そういえば、試合の相手校ってどこなの?」
「知らんな。孝くん知っとる?」
「そういやタクからは聞いてないな。どこなんだろ?」
「野原見市立山城中学校だ」
「へー。さすがやみよ、よく知って……、ってマジ? 僕のいた学校なんだけど」
「そうなん?」
「うん。でもサッカー部には仲の良い友達はいないな…」
「誰かが応援に来てるかもしれないよ?」
「そうだといいなぁ」
久しぶりに話したいし。
みんな、どうしてるかな?
てなわけで始まりました、第二長編!
急展開、ではないはずですが。これまでにも匂わしていたつもりです。つもりです。
えと、色々と初の挑戦なので自信がありません。感想・アドバイス等を頂ければ幸いです。