第20話:全ての決着をつけようか
長いです。普通の2・3倍はあります。
しかも急いで書いたので、不自然な点がいろいろと…。
「今だ!」
「頑張れー!」
「行けぇー!!」
どのクラスも、総合得点が接戦だけあって応援に力が入っていた。
ちなみに大リレーとは、学級対抗リレーに出場できなかった人たちで100メートルずつ走ってバトンをつなぐ、最も規模の大きい競走である。
もちろん、その分得点も大きい。
今のところ第一走者の榎木委員長の激走により、一組が若干リードしている。
ただ、気になるのは僕の次の第十二走者である海梨ちゃん。
なんと、同じ第十二走者があの榊だったのだ。
必然、二人の周りは『気まずい』という言葉の模範的空気となっていた。
色々言いたいことはあるけど、それについてはまた今度としておこう。
今は体育祭に集中だ。なんせ、総合得点は三クラスともほぼ同じ。この大リレーと次の学級対抗リレーで全てが決まるのだ。
おっと、そろそろ僕にバトンが回ってくる。
一組は……、結構リードを広げている。うーん、気が楽でもあるけど、逆にプレッシャーでもあるな…。
前走者、薙松さんが近づいて来て、
「はいっ!」
掛け声と一緒に、バトンが渡された。
そこからすぐにスピードを上げ、疾走。
風を感じ、声援を浴び、ぬかるんだ大地を踏みしめて。
さながら草原を駆ける豹のように。
全力で駆け抜けた。
と、格好よく描写してみたはいいものの、まぁ現実は地味な男子が変なフォームながらも一生懸命走っている、ただそれだけのことである。
そして、次の走者・海梨ちゃんの背中が見えた。
普通は前走者が近づくと、前もって走り出すものだけど、そのことを知らないのか海梨ちゃんは動かず僕を待っていた。
それが――仇となる。
僕がバトンを渡した瞬間だった。
海梨ちゃんの横で待機していた榊の足が、一瞬横に伸びる。
「あっ!!」
気が付いた時にはもう遅い。
前に出した海梨ちゃんの足と、榊の足がぶつかる。
もちろん、走り出そうとした勢いは止まらず、そのまま――
ドビシャァァァァアア!!
雨で濡れた運動場に倒れこんだ。
その間に遅れて二・三組の走者がバトンタッチ。
海梨ちゃんも、膝から血を流し、顔や体は泥で汚れたまま何とか走り切ったが、その差は縮まらず一組は最下位でゴールイン。
だが、榊の行為に気付いた人間は、僕の他には一人足りともいなかった。
「許せねぇ! ぶっ殺してやる!!」
大リレー後、タクとひのでちゃんに先程あった事を話してみたのだが…、
「たっくん、まずは落ち着きぃ」
「はぁ!? 凩は黙ってられるのかよ? 井戸端が怪我させられたんだぜ? しかもフラれた腹いせに!」
タクは激昂し、ポケットに手を突っ込んでいた。
その中にあるのは、こいつの標準装備、父親から譲り受けたカッター。
もともとこいつは感情が表に出やすい性格なのだ。
「カイリやって、たっくんにこんな事して欲しいんやない」
その海梨ちゃんはというと、自分が転んだせいで負けてしまった、と自責の念にかられている。
「だったら俺は井戸端のために何をしてやればいいんだ!?」
「……一つ、タクにできることがあるだろ?」
「何だよ?」
「今、海梨ちゃんは自分のせいで負ける、と思ってる。なら答えは簡単。
勝てばいいんだよ」
榊のことは後回しだ。責任追求なんていつでもできる。
「ほら、行かなくちゃ。海梨ちゃんのところに。そして言ってやれ。『絶対に勝つ。だから安心しろ』って」
「孝介……」
「まだ一組が勝つ可能性は残っとる。ただ、そのためにゃ、男女両方で一位をとらなあかん。でも、ま、逆にやる気が出てきたわ」
「タク、行けよ。あ、そうそう。これ持ってけ」
そう言って僕がポケットから取り出したのは、三枚の絆創膏。
「海梨ちゃん、怪我してるのに平気な顔してるから」
「…ありがとな」
「――さーて、次はウチらの出番や。応援してな」
「頑張って!」
「俺も行くわ」
「カイリを頼むで」
「ああ」
そう言うと、タクは泣いている海梨ちゃんに近づいて行った。
「……さっき言ったセリフ、なんで孝くんが直接カイリに言わんかったん?」
「僕が言ったんじゃ、格好つかないかなーって」
格好つける、っていうのは格好いい人がするからこそ格好いい。
格好悪い奴が格好つけても、滑稽なだけだ。
「ふーん。まぁええわ。じゃ、行ってくるでー」
「頑張れー」
女子学級対抗リレーは第一走者のひのでちゃんが1人で圧倒的差をつけ、あとはそのリードをギリギリで守りきり、見事一位を勝ち取った。
『続いては、本日の最終種目、男子学級対抗リレーです』
やみよがいたなら、完全楽勝ムードだっただろう。
そうでないのは校長から直々に出場停止が下ったのだ。
理由は、速すぎるから。
……なにそれ。
「泣いても笑っても、これが最後だ! 気合い入れていくぞ!!」
「「「おおおぉぉぉぉおお!!」」」
第一走者は、ハードル走で一位をとった紀鷺。
『位置について、用意』
パァン!
その音とともに、一斉に走り出した。
流石に紀鷺は速く、少しずつではあるけれど、リードを広げていった。
しかし、第二・第三走者は他より遅いらしく、いとも簡単に逆転されてしまった。
そして一位の人から5・6秒遅れて、最終走者・タクにバトンタッチ。
残りは200メートル。
タクは必死に追いすがり、2位に浮上したが、この差では逆転は無理か……?
と、諦めかけた瞬間。
ドビシャァァァァアア!!
どこかで聞き覚えのある音。
そう、海梨ちゃんが転び、もともと乱れていた地面がさらにぐちゃぐちゃになっている、100メートル地点で、
第一走者が転んだ。
だが、喜ぶことはできない。
すぐ後ろに全力疾走しているタクがいたのだ。
このままでは、巻き込まれる…。
「避けろ、タク!!」
それは、ただの偶然だったのだろうか。
タクは個人種目のために、走り幅跳びを練習していた。
だからなのだろうか。
ぶつかる、と思った瞬間、
「うりゃぁぁああ!!」
ジャンプ一番、倒れた人を飛び越えた。
だん、と着地し、そのまま一位でゴール。
「「「「「よっっっしゃぁぁぁぁぁぁああああ!!!」」」」」
運動場は一組の勝利の雄叫びで埋め尽くされたのだった。
歓声と熱気に包まれていた運動場も、今は静寂に支配されている。
その中心に立っているのは、私と……、
「榊くん」
私のことを好きだと言ってくれた彼。
「井戸端、すまんかった! あんなことして、俺…」
「いいの!」
私は榊くんの謝罪の言葉を遮った。
「全然、ちっとも気にしてないから!」
許す気にはなれない。でも、怒る気もない。
クラスのみんなに迷惑をかけたのは、他でもない私だから。
でも、私が自分を責めて泣いてた時、琢人くんは慰めてくれた。
その優しい言葉で、心が軽くなったような気がした。
だから、もう、いい。
それで充分だと思えたから。
告白された時に、自分が言った言葉を思い返す。
「ごめん。私――――
好きな人、いるから」
と、いうわけで体育祭編でした。もはや短編じゃねぇよ。
今回の話は、第二長編にダイレクトな影響します。作者も予想外の事態です(えぇ!?)。
この話を急いで書いたのには理由があります。
もうテスト期間が始まるのです。なので「せめて体育祭編は終わらそう」と思って、疾風の如く書き上げた次第です。かなり無理矢理な点が多々ありますね…。
というわけで、この「スクール・ラプソディー」は2週間ほど更新を停止いたします。
読者の皆様には迷惑をかけっぱなしですが、作者も自分の人生は大切ですので。
それでは、(できれば)また2週間後に!