第19話:足りない勇気は勢いで補え
体育祭編、急展開。
ただ単に展開が早いとも言います。
『続いて、障害物競走です!』
これが僕の出場する中で、全員参加ではない唯一の競技。
足の速さとかはあまり関係ないので、頼りにされてないのが丸分かりの競技である。
『それでは、用意』
パァン!
合図と共に、走者の僕・多智・榊が走りだした。
まず最初は――
綱渡り。
……って、いきなりレベル高っ!
そりゃ、落ちても問題ない高さだけどさ。でも、揺れるよ? 平均台と違って綱は揺れるよ!?
これで、『落ちたら最初からやり直し』なんていうルールがあったならクリアするには一週間はかかっただろうけど、そこまで厳しくはなく、落ちては乗る、を繰り返してやっとの思いでクリアした。
さて、次は……
紐にぶら下がった、パン?
横に注意書があった。
『これをくわえたまま、20メートル先の台まで運べ』
うん。普通だ。普通の『障害』だ。この上なく普通だ。けどさ、
「あるんならさっきのパン食い競争で使えよ!」
参加者全員吐き気を催してたから! 健康面でかなりの問題があるから!
『前園くん、ナイス突っ込み!』
「ふぁふぁっふぇへふははい!」
パンをくわえながらも突っ込もうとする僕。
自分で言うのも何だが、なかなか頑張り屋さんだ。偉いぞ。
と言ってもまあ、普通のパン食い競争だから、難なくクリア。
その後も、嫌がらせとしか考えられない障害が次々と登場し、身体的にも精神的にかなり疲れたのであった。
で? 最後の障害は何ですか…?
横のプレートには、『借り物競争! 指示されたものと一緒にゴールすること』とあった。
なんだ、割と普通じゃないか。これなら楽勝、とか思いながら、並べられた三枚のカードから一枚選んだ。
さて、何かな?
『あなたの好きな人』
……この学校には、プライバシーという概念がないのか?
訴えますよ? 本当に。
後から来た多智・榊もポカンとしているので、見ると同じお題だった。
僕は転校して来てやっと二ヶ月なのに、いるわけないじゃん! いたとしても連れて来ないけど!
ここは一番の安全牌。
母さんを連れて行くことにした。
「前園って母さんの事が好きなんやー!」
「えー、何歳!?」
違うわ! この状況じゃそうするしかないだろ!?
「うわー、お熱いねぇ」
「ラブラブだなぁ!」
だから違う! どこをどうすればそんな妄想が成り立つんだ!?
……って、ん?
僕をからかうなら『マザコン』とかいう言葉は入りこそすれ、『ラブラブ』なんて使わないよな。
決して、言われたいわけではないけど。
後ろを振り返る。
三組の榊と一緒に走っていたのは、学年トップクラスの可愛さを誇る美少女。
海梨ちゃんだった。
結局、障害物競走は僕の勝ちで終わったものの、それどころの話ではなかった。
「凩! あの二人って付き合ってるのか!?」
「いや、そんな話は聞いたことないで」
タクの質問に、ひのでちゃんは否定で答えた。
海梨ちゃんなら、そんな大事な話を親友に秘密にするわけがない。
ということは…?
「あれは、榊からの実質的な……」
「「「告白!?」」」
うわぉ、急展開。
「タク。海梨ちゃんが今どこにいるか知ってるか?」
「…………」
「たっく〜ん!」
「ああ…。競走が終わった後、体育館の方に…」
そこで、告白し直すってことか。
「別に海梨ちゃんが誰と付き合おうと、それは自由だけどね」
「確かにそうやな」
「……そうだな」
そう、これは個人の問題。僕たちがとやかく言うものではない。
と、
「あ!」
体育館の方から走ってくる人影がひとつ。
「えっと、みんな……、どうしたの?」
そう言ったのは、走った直後で髪の乱れた海梨ちゃん。
「えーと。これ、訊いていいのかどうか分からないけど、一応。
告白の返事、どうしたの?」
僕が言うと、海梨ちゃんは顔を真っ赤にし、一旦躊躇したものの俯きがちに答えた。
「……断った」
「そう、なんだ…」
詳しくは訊くまい。断ることも、本人からすればつらいことなのだから。
「…………」
「よし、問題も解決したし、運動場に戻るぜ!」
悪くなった雰囲気を打破するかのように、タクが呼び掛けた。
「そうしようか。大丈夫? 海梨ちゃん?」
「大丈夫。体育祭、優勝しようね」
「次、なんがあるん?」
「大リレー」
ということは、僕と海梨ちゃんが出場するのか。
「頑張ってきぃ」
「井戸端、頑張れ!」
「うん。ありがとう」
体育祭は、まだ終わっていない。
そう、まだ終わっちゃいなかった。
そう、まだ終わらない。
短編のはずだったんだけどなー…。